旗持ち
ゲームの練習しているだけでは埒があかない。そう思った俺は、ゲーム選挙に参加する人自体を減らせないか考えた。だって、母数を減らせば、当選確率も上がるだろ?だが、不正なことをすることはできない。なんていったって、選挙とは不正を許さぬ場なんだから。
考えに考えた結果、自分を応援してくれる人が増えたら、参加者が減るだろうと思案した。
「そうなると・・・・やっぱり政治活動がかかせないな。」
政治活動とは、政治に関する活動である!その中身は、自分の政治思想を世に広めたりとか、まあ要するに顔を売るって感じだ。
名前のついた旗とか必要かな・・・・?いてもたってもいられず、俺は、すぐさま、友達のユウスケに相談した。「今度ゲーム選挙に出るんだ。」と。ユウスケは、面白いと一口乗ってくれた。そして、名刺や旗を作る会社まであっせんしてくれたのだ。子供のころから、地元にいるやつで、地元の中小企業の社長令息らしいということしか知らないが、その影響力はすさまじいものがあった。政治活動に必要な道具がどんどんそろっていった。ユウスケには感謝しかない。旗ができたその翌日から俺は、家の近所で立って挨拶をした。近所といっても、最寄り駅のそばでだったが。自分の名前が入った旗を立てて、「おはようございます!」とまずは挨拶だけだ。
誰にも話しかけられなかった。挨拶返されないのってけっこうきついんだな。そこで、初めて、今まで無視してきた議員のみなさんに申し訳ないなと思った。でも、きっとこういうのも仕事なんだ。
俺は今、政治活動のままごとみたいなことをしている。いや、ままごとじゃない。被選挙権が自分にはある。だからなんだ。恥ずかしいのか?議員でもなんでもない自分が、ただの大学生が、朝からこんな風に立って、笑顔で挨拶する。なんのために?それは、最終的には、ゲーム選挙で勝つためだ。でも、そのためにこんな地味なことをしなきゃいけない。挨拶するだけの自分が恥ずかしいのか?いや、これは、重要な要素なんだ。必要なことなんだ。
足早に歩き去る人たちを目の前に、挨拶をしながら、虚無にひたり、ずっとそんなことでぐるぐるしていた。だが、視界は突然開けるというもの。
「あれ・・・?コンドウくんじゃない?」
それは夕方の立ちんぼをしているときだった。ふいに自分の苗字を呼ばれた。
「えっと・・・はい。コンドウです」
そう答えるしかなかったには、理由がある。その人は俺のことを知っているが俺は、顔を見てもピンとこなかったのである。
「なにしてるのー?」
「今後ゲーム選挙に出るので、その宣伝をしています。」
俺は名刺を差し出した。
「コンドウ タキ。ベーシックインカムを目指します。かあ。懐かしいなあ。俺も、昔ベーシックインカムについて勉強したっけ。」
「えっ。そうなんですか?」
「うんうん。社会保障分野で卒論書いたからねえ。」
この人は誰か、という疑問は忘れ、この人に夢中だった。いい協力者になるかもしれない。
「よければ、応援してください!」
俺の言葉にちょっと目をそらした。
「応援っていってもなあ。まあ、頑張ってよ。応援してるから。」
まあ、そうだよなあ。俺はがっかりを隠しきれなかったかもしれない。
「あ、大丈夫だと思うけど、家賃は滞納しないでよね。」
その一言で、思い出した。この人、大家さんの息子さんだ。家にいて、ひきこもっているとかなんとかって、大家さんに聞いたことがあるけど、実は数度家から出てくるときに挨拶したことがある。大家さんは隣の家なのだ。
でも、なんで俺の顔と名前、一致してるんだ?大家さんの息子だから、当たり前なのかな。
俺はその日の夕方、日が傾く中で、うーんとうなることになった。