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不労者になれない理由

 あれからというもの、一週間のうちは、就職活動をこころみた。だが、毎回同じ症状に苦しめられ、いよいよ自分の現実を受け入れざるを得なかった。そして、過労死しない働き方つまり働かない方法を考えることを余儀なくされた。

「はあーあ」大きなため息がついて出た。パッと思いつくものがひとつある。それは、母の脛をかじり、働かないということ、つまり、不労者になることだ。不労者とは、働かない人の意味ではあるが、近年流行した言葉で、そこにはある種の羨望も含まれている。不労者というのは、余剰がないともはやなれないものというわけである。下唇をかみながら、自分の考えを否定する。一人で俺を育てた母に、大学卒業後もお世話になるわけにはいかない。それに、うちには、不労者になることができるほどの体力はない。

 母は大学卒業後、実家で代々続く自営業を営んでいた。そして、父と出会った。俺が生まれたのは、出会ってからすぐのことだ。だが、その数年後、体をこわしてしまった。どうして体を壊してしまったのか、俺は知らない。父は母を捨て、出て行ってしまった。母はそう思っていないようだが、俺には母を見捨てたようにしか思えない。その後は、祖母と母に育てられた。母は自営業をやめ、28歳のときに国の職員として再就職した。今はもう40半ばの母は、それなりにお給料はもらっているだろう。だが、そこに頼るのは俺にはできない。

 俺が高校生のころだ。母は俺の進路は、大学進学だとしか思っていなかった。だが、俺は、高校を卒業したら、就職するつもりだった。だって、大学ってめちゃくちゃお金かかるだろ?母に迷惑はかけたくなかった。でも、母は激怒した。「大学に行って勉強しなさい。高校と大学の勉強は違うし、就職にも大学進学は役に立つんだから。」と。

母に迷惑をかけたくないゆえに、その言葉には従わざるを得なかった。こうして俺は、猛勉強し、今の大学に入ったわけだが・・・・

「いいとこ行かせるために大学進学するよう言ったんだよなあ。」

泣きそうなのをこらえて、ため息がでた。母が望む道は、変な魔法のせいで絶たれてしまったわけだ。「不労者」になりたいだなんて、口が裂けても言えそうにない。でも、じゃあ、なにになればいいというのか。ベッドからのそのそと起き上がり、ちゃぶ台にあったパソコンを起動する。古いパソコンだが、使い勝手は悪くない。いわゆる大学生向けパソコンだ。

調べてみよう。なんかあるかも。自分で思いつく限りのワードを検索バーに打ち込む。

「不労所得 どうする」こんな単語を打ち込む日が来るなんて。不労所得は基本的に、お金を持っていることが前提だろう。貯金の少ない大学生にとっては、リスキーすぎる。だが、一応、念のためだ。不労所得と打った後のサジェストには、なんだか不穏な文字が連なる。

「不労所得 やめとけ」

「不労所得 危ない」

まあ、危険な仕事ほど、金額が高いだろう。

不労所得といって、出てくるのは、株式投資やら不動産投資やら、基本的には投資のようだ。やはり、お金に余裕がある人向けだろう。

パソコンで調べていても、埒があかない。本屋で良本を買って、読むことから始めよう。立ち上がって、コート掛けから、トレンチコートを手に取り、羽織る。「いってきます。」誰もいない空間に声をかけると、俺はアパートを出た。


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