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Count on me  作者: 泡沫
3/3

後編

 キーンコーンカーンコーン♪

 コーンキーンカーンコーン♪


 「ん。」


 机に突っ伏しながら、私は不機嫌さを隠しもせず8枚小さな紙を差し出した。


 隣の机に腰掛けている奴はご機嫌でその紙たちを受け取って、私のサインと日付を確認した。


 「確かに。じゃ、俺の分、今回は2枚か。」


 手渡された私のとは違う色の紙には確かに奴の名前と今日の日付が書かれていて、それをクリアファイルにしまった。


 今回のテストでの賭けの結果、私は奴の言うことを8つ聞かなければならない。

 命令の内容は、犯罪や金銭関係、人に迷惑をかけること、以外はなんでもOK。

 …そう、なんでもOKなのだ。

 だから、奴は意味のわからん変な命令ばかりしてくるんだ。


 最初の頃こそ、自販機や食堂にパシらされるというわかりやすいもの(お金は奴に渡されたものを使う)だったのだが、いつの間にか、休日に買い物に出るときの荷物持ち(全然荷物もたせてもらえない)とか、指定された服を着せられる(コスプレ趣味でもあったのか?)とか、よくわからない命令が増えて、奴の変人株はストップ高だ。


 「…さて、今回はどうしようか。」


 にやにやと、癪に障る笑みを浮かべて奴はそうほざいた。


 「雨宮、今日の放課後は暇か?」


 唐突に聞いてきた。いちいち上から目線なのが癇に障る。

 それになんか、私の頭を撫でてくるのも、意味がわかんない。特にうなじのあたり。確かにそこは刈り上げているから触ると気持ちいいんだけど、自分だって刈り上げてんだろ?自分の触れや。


 「まあ、予定はないよ。」


 「なら、早速1つお願いを聞いてもらおうか。勝手に帰るなよ。」


 そう言い残して、私の返事も聞かず教室を出て行った。

 勝手なやつだ。


 トイレか?

 まあ、生理現象なら仕方ない。


 私は改めて机に突っ伏した。


♦︎♢♦︎


 「なんで手を握っているのかな。」


 「雨宮が逃げないように?」


 「なんで疑問形なんだっ!そもそも、私がそんなに信じられないか?」


 放課後、帰宅準備を終えると、待ち構えていた奴に手を取られ、奴の歩行速度に合わせて慌てながらついていく。


 「あ〜、寒っ。」


 奴はそう言って、手をポケットに入れた、私の手も一緒に。

 校内だぞ?

 廊下にいる生徒が端によけて道を開けていく。


 「すみません!ご迷惑をおかけしてます!」


 私は大声で謝罪を叫びながら奴について行かざるを得ない。


 というか、全然手が離れないんだけど。


 気づいたら昇降口で、時間がかかるのに靴の履き替えのときすら手を離してくれず、慣れない左手で上履きを拾って靴を出して、のろのろと履き替えた。その間、特に急かすこともなく奴は待っていた。


 「どこ行くつもりなのか、いい加減に教えてくれてもいいんじゃない?」


 校門を出て、奴が手を引くままに歩きながら聞いた。


 「もうある程度察してんだろ。」


 まあ、なんとなくは。


 方向から考えて、10colorsシェアハウスー奴が住んでいる、小洒落たシェアハウスだ。

 奴に連れられて何度か行ったことはあるし、それ以外にも榎本先輩が住んでいるから、遠山先輩や白川さんと休日に待ち合わせするときにはそこを集合場所にすることが多い。


 『十人十色の個性派集うシェアハウス』がコンセプト…らしい。


 そして歩いて数分、その建物にたどり着いた。

 入口で靴を脱いで、奴は無言で建物の中に入っていくから、私は追従する。


 「お邪魔します…」


 ずんずんと部屋を進んで、エレベーターに乗ると、奴の部屋がある4階で降りた。


 401号室の鍵を開けて、部屋に入ると奴は荷物をベッドの上に放り投げた。


 やっとのことで奴は私の手を離すと、自分の上着をハンガーにかけてから、私のコートのボタンを外し始めた…外し始めた!?


 「ちょっと、なにしてんの??」


 思わず声を上げた。


 「ぼーっと突っ立ってるから、脱げねぇのかと思って。」


 「いや、脱げるけど。」


 え、ほんとになに言ってんのこいつ。


 「じゃ、見てるから脱いでよ。」


 じーっと穴が開くほどに私がボタンを外していくところを見てる。

 視線を感じて、やりにくい。


 「見るなよ。」


 「やだ。見るよ。」


 急に子どもっぽく言った。

 もう罰ゲームは始まってんのか?


 仕方がないから、気にしないように気をつけて脱いだ。


 「ん、よくできました。」


 脱いだコートを畳んでいると、ぽんぽんと頭を撫でられて、すっとコートを取られた。

 奴はそれを慣れた手つきでハンガーにかけた。


 「その言い方、なんかムカつくな。」


 「褒めたんだけど。」


 なに喰わぬ顔でいう奴に無性に腹が立って、体がむずむずしてきた。


 「で、私はなんのためにこんなとこに連れてこられたんだ?」


 ドナドナ〜って。


 「なんで雨宮が連れてこられたのかって?ドナドナ〜って。」


 エスパーか?


 「言うまでもなく、この賭けの代償を払ってもらうためだけど?」


 いや、それは知ってる。


 「だから、私はなにをすればいいんだって聞いてんだ。」


 「ちょっと、小一時間、俺のカイロになってよ。」


 ……


 「は?」


 過去一意味のわからん命令だ。


 だが、まあ、従うほかない。


 「具体的になにをすればいいんだ?」


 そう尋ねると、ソファに座った奴が手で招いてくるので、とりあえずそこに近づくと、手を引かれて座らされた。


 「!?」


 奴は近くにあった毛布を引っ張ってきて、一つの毛布を奴と共有した。


 「ア●クサ、リラックスできる音楽かけて。」


 『A●azon Music で 睡眠・作業用プレイリスト を再生します。』


 奴がAIスピーカーにそう命令すると、落ち着く音楽が流れてきた。


 「で、私はなにしたらいいんだ。」


 そう聞くと、奴は毛布の中でモゾモゾと私の腰に手を回してきた。


 「黙ってて。雨宮はカイロなんだから。」


 人間カイロってことか?

 ますますわからん。


 けど、そういう命令なんだから、黙ってるほかない。


 ……


 落ち着かない。


 そうやって5分くらいじっとしてると、腰にまわされた奴の手がトントンと落ち着かせるようにタップしてくる。


 …わかってる。


 奴、里見は、私に気を遣っている。

 私が本当に嫌なことを要求してきたことはないし、なにより、いくら私が要求を呑むからって、ずっと私が負け越してる勝負を、私のわがままで続けてくれている。


 本当は私が意識してるだけで、里見は私のことを微塵も意識していないんじゃないだろうか。

 ライバルだと、認めてもらえていないのはきっと確かだ。


 里見のわがままも叶えたい。


 なのに…。



 だんだん眠くなってきた。


 でも、寝てしまったら、奴の要求なのに…。


 瞼が重くて、里見が与えてくれるリズムが心地よくて。


 「…さ…とみ……、頼れ…よ……。」


 眠りに堕ちていった。


♦︎♢♦︎


 「頼ってくれないのは、そっちだろ…皐月。」


 里見はクマのできた雨宮の頬を撫でた。

 

気が向いたらおまけを追加します。


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