第1話 婚約破棄
「エレナ、婚約は破棄する」
「……そ、そんな。約束が違うではありませんか」
「確かに君は美しくて特別な人間――聖女だ。けどね、君は俺の魔力にしか興味がないんだろ? 俺が特別な魔術師の家系だから……だから、魔力だけなんだ。本当に愛しているわけではないんだろ」
帝領伯と名高いエリックは、最近冷たかった。……明らかに態度がおかしかったし、無視されることも多かった。それでも、わたしは彼を愛していた。婚約は約束された未来だと思っていたのに。
彼の魔力は膨大で、聖女であるわたしにとっては魅力的ではあった。でも、それは二の次。純粋にエリックが好き。なのに彼は冷めていた。
どうして……。
「愛しています! この気持ちは変わりません。魔力の供給がお嫌でしたら、止めてくださって構いませんから!」
「もう遅い。君のような魔力バカ食い女とは付き合えない。……エレナ、君は暴飲暴食すぎるんだよ」
「そ、そんな言い方をしなくても」
「それにね、もう次のパートナーを決めてあるんだ」
「そ、そんな!」
「しかも君の妹さ」
よりによってドロテアと……最悪だ。
きっと妹が裏でコソコソしていたに違いない。ドロテアはわたしを嫌っているようだったから……十分にありえた。
酷い……酷過ぎる。
こんなのってないわ。
「お願いです、考え直してください」
「もう関係を修復することはできない。エレナ、屋敷から出ていってくれ」
「そんな……」
わたしは屋敷を追い出された。
しかも、目の前で婚約指輪を捨てられ……魔力を完全に失った。あれは、わたしと彼を繋ぐ愛の証であり、唯一の生命線でもあった。
これで魔力ゼロ。