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彼らは何の為に  作者: 匿名希望ちゃん
1/1

友を得る。




____その日僕は初めて友達ができた。



想像したものとは全く違っていた。

彼は僕を殴るし、

彼は僕が嫌がる言葉を言うし、

彼は僕から逃げる。





「お前は人間じゃない」





誰もがそう言ったのに

彼は僕を''普通の人間''だと言った。

だから誰よりも彼と友達になりたいと思った。







________________________



木々が揺れ、葉の雨が降る音に紛れ、1つの小さな足音が森の片隅で鳴る。足音の主は110cm程度の小さな子供といった所で。少年は森の深くを何かに怯えながら歩く。


「い、いるなら出てこい!」


彼の言葉に返事する声は無い。


彼は子供にして、頑丈なのか裸足で枝を踏んでも平気そうであった。怯えた様子にしてはどんどん進む。好奇心はしっかり子供なのである。




暗い森がさらに暗くなった頃、彼はお目当ての物が見つからなかったのか、ため息つき、後ろを振り返る。


「ばあ」


「!?!?」


予想にしなかった物が視界に入り、言葉を失う。

エメラルドグリーンの髪に、黒のヘアバンド。

紺のジャージを着た、真っ黒の目をした人がまっすぐこちらを見ている。


「びっくりしちゃった?そうだよね?僕、君をびっくりさせたもん」


「ん?しゃべんなくなっちゃった。どうしよう」


目の前の子供が固まった事に驚きの声をあげるが、

嬉しそうに伸びをしながら立ち上がる。

それはしゃべりに似合わない大人の身長であった。それも顔に似合わぬ男の。


そしてワンテンポ遅れて少年も言葉を発する。


「お、お前は誰や!」


「ん?僕?僕はねぇ、エフ!好きなように呼んでよ」


「エフ、ね!俺はテツ!よろしくな!」


エフは突然固まり、動いたとおもったら、テツの肩を掴む。


「どうしたの?」


「…よろしくって、それは、友達?って事…?」


「よくわかんないけど、友達になりたいならいいぜ!」


「ほんとに?」


「アンファン国の神様にちかって嘘は言わないよ!」


「ふーん、で君は一体なにを探してたんだい?」


「僕は、この森にいる化け物を探してるんだ、そいつのせいで僕達はごはんをたくさん食べられないんだって

だから僕はそいつを______」


その言葉を聞くとエフは少し暗い顔になる。

背筋が凍りつくような悪寒を感じ取り、口から音が出なくなる。

考えたくはないが、好奇心には勝てない。彼は何故この森に居るのか、この森に入った者が、出てこれた例は無かった。そんな森で、彼は一体なにをしているのか、どうして少年が何かを探してる事を知っているのか、


いつから見ていたのか。


そんな事を考えるうちに少年は怯えてしまう。


「ここじゃ暗いから、僕が住んでる所まで案内するよ」


「僕が住んでる所ならね、ごはんには困らないんだよ」


「これで化け物を探さなくても済むね!」


ね。と念押し、震えて動かないテツを無理やり引っ張り動かす。力加減を知らないエフの手はテツが痛がるには十分だった。


「痛いッ、離せよ!」


「なんで?」


「俺はもう帰らなきゃ」


「遊ばないの?」


「明日なら…いいよ」


「ふーん」


彼はようやく手を離す。よかったと一息ついて、エフにバイバイと手を振る。





その時にはもうこの世にはいなかった。





________________________



エフと名乗る青年は、森を難なく進む。奥に来るほど草木は生い茂り、森の奥には小さな家がポツンと建っている。家の外観は素朴で、少し小さい程度で変な所は大してない。


血に濡れた外壁以外は。


確実に1人の死体で出来た血の残り方ではなかった。何度も塗られた血は死体の数を物語る。少し離れた所には人間であったろう腐敗した死体、骨が山積みになっていた。


今日も駄目だった。

あいつも逃げる。


はぁ、とため息をつき、彼は家に入る。

幾度も人を殺した彼にはもう罪悪感など残っていなかった。が、なんだか悪い予感のような、いい予感のような、もやもやする気持ちが残る。何かが起きる予感。ただ彼は何かが来る予感に心踊らせる。



僕はなにか忘れてるような____

ま、いっか!




________________________




「ただいまー!」


少年の声に背丈の似た子供達が、次々に出迎える。


「おかえり!」


「…おかえり」


いつも少し遅れて出迎えるのが、少し肉付きのいい青年。


「今日は少しおそかったな、テツ」


「えへへ」


青年はテツのでこに指をあて、そのまま

アターーーーーーーーーーック!!!

いわゆるデコピンってやつだ。


「いっったぁあい!!」


「無駄な運動は飯の消費を早める」


いつも冷たいんだからと少女。


意外と優しんだよと少年。


「そうだ、ご飯あったよ!」


ご飯という言葉に皆が反応する。涎を垂らして先急ぐ者居れば、喉を鳴らして次を見据える者もいる。冷静に彼の言葉を聞いた青年は、ため息をつきながら語る。


「やっぱり、か。あの森は妙に美味そうな匂いがした訳だ。みんな分かってると思うが、興味本位であの森に近づくなよ。奴の餌になる。まぁ、俺は食い扶持が減るなら楽だがな」


「はーい!」

と、子供達は可愛らしい返事をする。




「…この中で生きていくのは俺だ」




そう呟いたのは誰だったか。




________________________




夜が過ぎ、木々の葉の隙間から光の雨が振る時間。

エフは静かに目を覚ました。彼には時間を知る術はなく、己の本能のままに起きる。そもそもこの国に時間を知る方法などあったか。この古びた制度と古びた建物は、伝統の様に決して残すべき物ではない。

そんな事など考えず、彼はいつものように動き回る。


木に登り、森中を見て、聞いて、感じ取って。

木の揺れる音、風が耳の辺りを通り抜け、興奮している己の声が流れるのを感じている。今日こそ何かが起こると身体が疼いて止まないのだ。


地面を踏みしめる微かな音。




これがエフの最大の目的である。




その音は少しずつ近づてくる。


昨日の音より重たい。音から察するに、普通より肉付きの良い人間。''食料''として優秀だろう。ただ、ここの所大漁のため、あまりにあまらせているのだ。

どうするべきか考えているうちに、その人間は目的の場所に着いたのだろうか、足を止めた。




彼の顔が地面に付いていたのはそれのすぐ後であった。




後ろからのしかかり、強く首を絞める。


彼が死なない程度に上手く調節しながら。






そして彼は意識を落とした。





________________________




草木の匂いと陽の当たらない独特の寒さで目を覚ます。起きたばかりで目を擦っていると不意に誰かに話しかけられる。


「こんにちは!」


「こん、にちは」


あまりの暗さに夕暮れだと思っていたが、昼らしい。


「君の名前は?」


「まずはお前から名乗れ」


「え?僕? 僕は……エフ!」


…やっぱり


「俺はあかいろ。覚えなくていい。

それはそうと、ここはどこだ?」


「ここはね、迷いの森。なーんて呼ばれてるけどただの森。ここをまっすぐ行けば帰れるよ」


「ありがと」


「なんでこの森が迷いの森なんて呼ばれてるか知ってる?」


「…」

言っても結末は変わらない。

エフから発せられた愉しげな声。

そこから感じる殺意。


「正解は、ここの森に入った人は1度も出てこなかったからさ!だって、僕がぜーんぶ殺したからね!」


いつの間にか構えていた武器を見て、危ないと足が動く。


「逃がすわけないじゃん アハッ!」


手に持っていた斧を振り下ろす。

幸い、上着の背中の辺りが切れた程度だったが、勢いでこけてしまう。


「どうしよっかなぁ〜?生け捕りの方が保存効くかなぁ?」


彼はもう逃げられまいと思ったのか斧を落とす。


その瞬間、身体を素早く動かし、エフの頬に一撃を食らわせた。


「いっ…たぁ!!!!!???」


めちゃくちゃ困惑するエフ。

隙が出来たと逃げ出すあかいろ。

けれどエフは捕まえる。


「なんで、なんで、僕のこと殴った?」


殴られて古い機械の様に治ったのか、殺意を帯びない純粋な疑問を投げかけられる。


腕は強い力で握られており、殺意も無いため、大人しくエフに付き合うことにした。


「いや、殴るだろ?」


「え、だってぇ…」


「こっち殺されそうなのに大人しくするか?そんなの馬鹿げてる。俺は生きていたいんでね。」


「でも、でも、みんな慌てて逃げようとしたり、知りもしない罪を懺悔したりとか、」


「知らねーよ、お前みたいなのこっちじゃわんさかいっから」


「おれ、ふつう?」


「俺の中ではな。」


「あかいろのふつうなら、おれはあかいろのともだちになれる?」


「は?」


何言ってんだこいつ。


「ならねーよ?」


エフ ハ トモダチ ニ ナリタソウニ コチラ ヲ ミテイル


「いや、ならねーからな?」


「なんで?」


「いや、突然出てきたと思ったら斧で殺そうとしてくるやつ、友達なれると思ってんのか?」


まじでなんなんだ、こいつ。

あかいろを掴む手も、力が抜けている。完全に脱力したのだろうか。あかいろは振りほどく。


「はぁ、めんどくさ」


彼に背を向けて歩きだした瞬間。


「逃げるな」


先程までのエフとは一転、低く唸るような声が響く。


「やっばり、お前も、そこらへんの死体と同じじゃないか、この森から逃げようとする。殺さないと、」


「はぁ...お前そんなんだから友達出来ないやぞ」


が、彼もこんなもの慣れっ子である。


「え?」


「ま、ずっと森に引きこもってるやつがそもそも出来るとは思わないけど」


「うう…」


「俺は全力で走らなくても勝てる自信しかないわ」

ガキのような煽りを重ねる。

しょげていたエフだが…


「絶対ころすー!!!」


「にっげろー!!!」


心無しか楽しそうだ。





ここまで読んでいただきありがとうございます。


もしよければ感想をかいて頂けたら嬉しいです。


感謝します!

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