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苦しみ

「マチェルダのローラ王女って本当綺麗だよな」


 いつものようにローラ様と話すために宮殿を歩いているとどこからか声が聞こえてきた。


 角を曲がると3人の顔見知りの外交員たちの後ろ姿を見つけた。


「知ってるか?アレックス殿下の結婚相手になるかもしれないって話」


 声をかけようと思っていた私はその言葉を聞いて思わず角に戻って壁に背をつけて息を潜める。


 あら?私ったらなんで逃げるようなことを。


「確かにあれだけ綺麗な人が王妃になったら国民の士気も上がるだろうな」

「ああいうのを傾国の美女っていうんだろ」

「アレックス殿下も男だしな。コロッといってんじゃないか」

「おい2人とも、アレックス殿下にはバートン嬢がいるだろ」

「そりゃそうだけど婚約者だろ?政略結婚なんだし条件が合う人がいれば解消してもおかしくないし」

「バートン嬢は良い子だと思うけど……なあ」

「ああ、可愛いとは思うけど普通というかパッとしないっていうか……。この前俺ローラ王女と偶然会ったんだけど微笑んでくれたんだよ。ただの外交員でしかない俺に!!あの微笑みは本当にぐっとくるというか、時止まったかと思ったわ」

「なあ、誰か聞いてたらどうすんだよ」

「大国の王女様なのに気取ってないしな。マチェルダって4人の王子と王女で王位を巡ってるんだろ?ローラ王女は女王って感じじゃないしそれなら他国に嫁ぐことになるんじゃないか?」

「お、じゃあやっぱりうちに嫁いでくるんじゃないか?そのための外遊だったりして」

「おい2人とも、本当にその辺にし」


 気付いたら走り出していた。小さい頃から逃げ回ってた宮殿の庭を走ってよく隠れていた生け垣に着くとしゃがみこむ。


 ローラ様と殿下が結婚。ローラ様が嫁いでくるための外遊。


 ローラ様は美人だし傾国の美女っていうのも納得。あんな人が王妃様になったら私も崇拝するに決まってる。ローラ様の歌だって花壇だってなんだって作るだろう。


 素晴らしい殿下とローラ様はそれはそれはお似合いだと思う。私は仮初めの婚約者で殿下は別の人と結婚するんだろうと思ってきたし、ローラ様ならぴったり。むしろ相乗効果でとんでもない魅力が2人から溢れてきそう。


 そう思えば嬉しくて興奮してもおかしくないはずなのになんで?なんでこんなに胸が苦しくて辛いの?


「お嬢様……」

「ユーリ」


 侍女とは名ばかりのユーリは侍女らしいことはできなくて気の利いたこともできない。子供の時も逃げ隠れる私のそばで殿下やコーリア侯爵夫人を待ってるだけでハンカチを差し出してくれるのが精一杯だった。


 今もハンカチを差し出したまま何も言わない。そのハンカチを受け取ってぎゅっと握りしめる。


「おかしいわよね。ずっと殿下は他の人と結婚するってわかってたのに」


 私が婚約者になったばかりの頃、さっきみたいに話を聞いてしまって盗み聞きのようなものになってしまうことがよくあった。


 パッとしない。平凡。頭もよくない。生まれた年が幸運だっただけ。どうせ大人になれば別の結婚相手ができるだろう。また婚約破棄になるかもしれない。


 ただでさえ家族と離れて知らない人ばかりの場所で過ごさないといけないのは怖い上に勉強は嫌いだと思っていたのにこれが意味のないものだと思うと余計に嫌で嫌で仕方なかった。


 だけど殿下やコーリア侯爵夫人が探しに来てくれてそばにいてくれるからやってただけ。自分が王妃になることはない、殿下が私と結婚するわけがないと思いながら殿下を慕うようになって、殿下の素晴らしい魅力をみんなに伝えることが自分の使命だと思うようになって。


 だから大国に殿下の魅力が伝わって綺麗な王女様が嫁いでくるのは喜ばしいこと。


「そう、喜ばなくちゃ。わかってたんだもの。殿下は殿下、未来の国王様、民の1人として尊敬する方、尊い存在、遠い遠いずっと遠くにいる人。そうよね、殿下は尊いんだから私はこれからも殿下を崇めなきゃ!!」


 そう思うと胸の痛みもなくなってきた。


「よし!!今日もローラ様に殿下の魅力を余すことなく伝えるわよ!!そうよ、ローラ様が結婚相手なら殿下のことを全部伝えるのが私の婚約者としての最後の役目かもしれないわね!!」


 気合いを入れた私はローラ様がいる部屋に向かった。


「ローラ様!!今日はとっておきのお話をしますわよー!!」

「はあ……飽きないわね」

「ローラ様、殿下は子供の時からたぐいまれなる才能をお持ちでしたのよ」

「へー……そう」

「はい!!7才の時にはすでに陛下のお仕事を手伝っておいででしたが私の勉強に付き合ってくださっていたのです。それというのもですね、私が勉強が嫌いで嫌いで逃げていたら時間がある限り私のお妃教育を側で見守ってくださるようになったのです」

「過保護ね……」

「殿下はお優しいのですわ。それに」

「まだあるのね……」

「はい!!殿下は教えるのも上手なのです。私がわからないわからないとぐずってコーリア侯爵夫人を困らせていたら殿下が教えてくださったのです。ハッ!!」

「……なによ」

「私は勉強もよくできませんしダンスも人並みでダメダメなのですが……殿下がおっしゃってくださったのです。お前は馬鹿で愚図でどうしようもないがなにか1つでも誰にも劣らない才能を身に付けろって。バートン家の血筋は秀でた才能を持っているから私もできるはずだって。そうすれば誰もお前に文句をつけないだろうって。私の父は陛下の学生時代の先輩で、殿下も父の研究はすごいと誉めてくださっていました。父のことを誉められてあの時は単純に嬉しかったのです。幼い時の私はそれはそれは引っ込み思案で小心者だったので家族や使用人たちがいない場所は怖くてその上勉強が本当に嫌いでどうしておうちで遊んだらいけないのかわからなくて宮殿に来るのが嫌で仕方がなかったのですがお優しい殿下が励ましてくださったのです。私はそんな殿下を慕うようになって逆に宮殿から帰る方が嫌になったのですわ」

「結局惚けなのね」


 また胸がチクリと痛くなった気がしたけど気のせいだと思うことにして幼い頃の殿下を思い返す。


「はぁ……殿下が尊い」


 だけど結局殿下の言うように誰にも負けない才能なんて私には身に付かなかった。だからこそローラ様が嫁いでくることになったのかも。


 私これからどうしたら良いのかしら。この年で結婚相手なんて見つかるかしら。同年代の子たちはもう結婚し始めてるしそうでなくても婚約者がいるし。溢れたもの同士モニカと一緒に一生遊んで暮らそうかしら。今までとたいして変わらないけど。


「はいはい。良かったわね。そんなことよりジェシカ、あなたにお願いがあるのよ」

「お願いですか?」

「あなたの庭師に会わせてもらえないかしら」

「マルコですか?」

「そう、マチェルダにいると言っていた友人の話を聞きたいのよ」

「そうなのですね!!あ、それでは私の屋敷に来ませんか?この間殿下を歓迎した時と同じように歓迎しますわ」

「それは止めて。普通に迎えてちょうだい」

「わかりましたわ。あ、それなら今日これからいかがですか?」

「あら、良いの?」

「マルコは明日からしばらく帰省する予定なのです」

「そうなの。ではお邪魔して良いかしら」

「もちんろんです!!さあ、行きましょう!!」


 ローラ様がマチェルダから来てる騎士たちにいろいろ指示をしてしばらくしてから私の家に向かった。


「モニカは自分の家から出ないですし殿下以外で私の家にいらっしゃるのはローラ様が初めてです」

「私も誰かの家に訪問するなんて初めてよ」

「まあ!!初めて同士ですわね」


 馬車を降りて家に向かうとちょうどドアが開いてお母様が出てきた。


「さすがお母様、ローラ様のお迎えが早いですわ」


 普段着用のドレスとは違うけど社交界ほどではないドレスを着たお母様が首をかしげる。


「ジェシカ、明らかに出掛けようとしているところじゃないの」

「まあ、王女殿下でいらっしゃいますか?失礼いたしました」

「よろしくてよ。友人の家だと先触れも出さずに来てしまったのは私だもの」

「友達!!ローラ様の友達!!」


 実は友達がモニカしかいない私は感動してしまう。


「娘がご迷惑をおかけして申し訳ございません」

「良いのよ。……なぜこの親にしてこの子ではないのかしら」

「ローラ様、お友達のローラ様、どうされました?」

「解せないわ」

「ジェシカ、王女殿下に失礼よ」

「はいお母様」


 でも嬉しくてニヤニヤが止まらない。


「王女殿下、お初にお目にかかりますバートン伯爵が妻、アンジェラ・バートンでございます」

「よろしく。出掛けるところだったのなら私のことは気にしなくて良いわ」

「お母様、おめかししてどちらにお出掛けですか?」


 パーティー以外滅多に出掛けないお母様が外出なんて珍しい。


「妃殿下に呼ばれておりますが王女殿下にお越しいただいたのなら」

「ああ、良いのよ気にしなくて。庭師に会いに来ただけだもの。どうぞお出掛けになって」


 ローラ様がそう言うとお母様はおじいちゃん執事に何か伝えてから王宮に向かった。


「あなたの母親はとてもまともね」

「お母様も変わり者ですわよ。変わり者のお父様のことが好きですもの。お父様は考古学者で研究が好きでいつも難しい話をしてくるのです。それを私たちみんなで聞くのですわ」

「家族仲が良いのね」

「そうですわね。お母様とお父様は幼馴染みで恋愛結婚だそうで。お母様はいつもお父様の難しい話を楽しそうに聞いています。でも幼い時私がわからないつまらないと騒いでいたらお母様もよくわかってないのよとおっしゃっていましたわ。わからなくてもうんうんと聞くものなのですって」

「素敵な奥様じゃないの」


 私がローラ様を連れて部屋に行くとマヤがすぐにお茶を持ってきてくれて少ししてマルコが来た。そういえば呼ぶのを忘れてた。


「いらっしゃーいローラ王女様ーお帰りなさいお嬢様ー」

「マルコーすっかり目的のマルコを呼ぶのを忘れてたわー」

「ちゃあんと呼びに来てくれたわよん」

「良かったわー」

「……ごほん、マルコ、あなたに聞きたいことがあるのよ」

「はいはーい。なんでも聞いてちょうだい」


 ローラ様はマルコの友達がどこに住んでるのかとか名前とか帰国したら会えるように内々に取り次いでくれないかとか話し込んでいたから私は窓から殿下を眺めていた。


「ジェシカ、ジェシカ、話は終わったわよ。何していたの?」

「銅像も良いですがやはりもう一度歌を作って歌い手さんに歌ってもらのも良いなと」

「あなたの頭の中はアレックス殿下一色ね」





 そして帰ってきたお母様に妃殿下の用事がなんだったのか聞いてみたらただ私の最近の様子だとかアレックス殿下と私の話だとかだったみたい。



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