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王女様

内容を一部修正しました。4/13

 私の1日は最近カーテンを開けて花壇を眺めることから始まる。


「ふむふむ、もう少しかしらね」


 窓から見下ろす庭には花壇が見える。うちの庭師渾身の花壇は殿下の素敵なご尊顔に見えるように形作られてる。モニカに異国にはそういうものがあるという話を聞いて作り始めてあと少しで完成なの。


 着替えをしてから庭に行くと見慣れた体格の良い後ろ姿。


「マルコ、おはよう」

「あらーおはようお嬢様」


 声をかけて振り向いたのは庭師のマルコ。昔から庭師としてうちで働いてるジョージの甥。そう、女性用の作業着を着て女性の喋り方でも性別は男の人。でも心は女性。特技はお菓子作りとお裁縫。とても美味しいし上手なの。


「花壇はもうすぐ完成よん。楽しみに待っててね」

「ふふ、楽しみにしてるわ。そして完成したら殿下に披露するの」

「きっと感動しちゃうわね」

「そうよね!!」


 完璧すぎる殿下の魅力を表すためにこれまで披露してきた自作の歌やピアノ演奏は私の技量が足りないせいであまり喜んでくれなかったけれどこれなら大丈夫。だって私は毎日眺めてるだけで作ってるのは庭師2人だもの。


 でもジョージに殿下の花壇を作ってほしいって頼んだら殿下の尊いご尊顔を作るなんて恐れ多くて倒れてしまいますって言われたの。


 ジョージにはまだまだ元気でいてほしいから諦めようとしていたんだけどそんな時にマルコを雇うことになって試しに聞いてみたら二つ返事で承諾してくれた。結局マルコが作るならってジョージもサポートすることになって2人で頑張ってくれてる。


 マルコは今26才。前は別のお屋敷で庭師をしていたんだって。けど実家からそろそろ結婚してくれないかって言われ過ぎて子供の頃から誰にも話してこなかったことを話して喋り方も女の子になった。


 そしたら前の勤め先に解雇されてしまったんだって。それでしばらく旅をしていて戻ってからうちで働き始めた。


 この国では男の人が女の人になったり男の人を好きになったりすることに対する偏見がある。みんながみんなじゃないけど。


 うちもお父様を筆頭にお母様も弟も使用人たちも変わり者が多いから細かいことを気にしない。モニカが言ってたけど異国ではマルコみたいな人が普通に暮らしてるところがあるみたい。この国でもそうなれば良いと思うけどマルコは私たちがいるから良いんだって言ってる。


 いつもうちのメイドたちとおしゃれとかお化粧の話でキャッキャッして楽しそう。私にはセンスがないと昔モニカに言われてドレスもお化粧もお母様やメイドたちにお任せして流行りのデザイナーだとかお店だとか化粧品だとかの話に疎いの。だから私よりマルコの方がだいぶ乙女だと思う。


「お嬢様、今日はあのマチェルダのお姫様が来るのよねー」

「そうなのよ!!しっかり殿下の魅力を伝えてくるわね!!」


 そう、今日から3週間マチェルダ王国のローラ様が滞在することになってる。殿下の魅力をたくさん知ってもらって是非マチェルダにも普及してほしい。


「頑張らなくちゃ」

「ふふ、仲良くなれると良いわねー」

「ええそうね!!」


 そういうわけで気合い十分で通いなれた王宮に行く。


「ごきげんよう」

「おはようございますバートン嬢」

「おはようございます」

「今日は良い天気ですわね。こんな日は殿下を1日中眺めていたいわ」

「雨の日も風の強い日もそうおっしゃってますけどね」

「髪の毛に水が滴る殿下も風に煽られる殿下も素敵ですわ。ああ、そういえば妃殿下の侍女とはその後どうです?私が間を取り持ってあげたのだからちゃんと告白してくださいね」

「は、はい頑張ります」

「あなたはお母様の具合は良くなりました?」

「はいおかげさまで。バートン嬢が紹介してくださった医者に見せたらすぐ良くなりました」

「それは良かったですわ。同じ症状の病を患っている方の家族に話を聞いたことがありましたの」

「おい珍獣」

「まあ殿下!!」


 いつも通り、交代制の門番2人と話していたら王宮から殿下が出てきた。


「この時間は朝一の会議ではなくて?」

「だから何で知ってるんだ。……まあ良い。今から行くところだ」

「え?会議をするのは宮殿の中ですわよね?」


 なんで外に出てきたのかしら。王族の方々が住む宮殿から執務を行ったり今回みたいに要人の方々がお泊まりになるお部屋がある宮殿とはこの外から入る門は通らずに中の敷地内で繋がってるのに。


「……散歩だ」

「まあ!!殿下がお散歩!!私もお供いたしますわ」

「お前はローラ王女に会いに来たんだろうが」

「そうでしたわ!!残念です……」

「馬鹿なことをするんじゃないぞ。この国が馬鹿だと思われかねんからな。馬鹿な間抜け面を晒さず大人しくしてるんだぞ。子供の遊びじゃないんだから」


 私が粗相をしないか目を光らせてるだなんて立派な殿下だわ。私の失敗は殿下の問題、ひいては国の問題だもの。でも心配ご無用。だって王女様は同志。殿下の底知れぬ魅力にハマった者同士わかりあえますもの!!


「そんなに心配なさらなくても大丈夫ですわ。私に全てお任せくださいな」

「どこからくるんだその自信は」

「しっかりお務めを果たしてまいりますからね!!では失礼致します!!」


 殿下のお散歩の邪魔をしてはいけないしローラ様の所に行くのに遅刻したらいけないし、さあ早く行くわよ!!




 ここで待つように言われた客室でそわそわしながら待っていると遂に王女様がお部屋に来た。


 私はすぐに立ち上がってカーテシーをする。


「マチェルダ王国王女ローラ・マリー・マチェルダよ」

「お初にお目にかかります。バートン伯爵が娘、ジェシカ・バートンと申します。此度はようこそお越しくださいました」

「堅苦しい口上はなしで楽にしてちょうだい。私のことはローラって呼んで、ジェシカ」


 どうしよう。絶世の美女さに驚いたら良いのか思いの外フランクな人柄に驚いたら良いのかわからない。


 とりあえず微笑んで王女様に促されてソファーに座りなおすと侍女がお茶とお菓子を用意した。


「ほら、話してちょうだい。あなたと話すのを楽しみにしてたのよ」


 王女様のその言葉にハッとする。そんなに殿下のことを話すのを楽しみにしてくださっていたのね。


「それでは王女様」

「ローラよ」

「ローラ様、さっそく殿下と愛馬メリッサのお話をいたしますね」


 気合いを入れてそう言うとローラ様はクスクスと笑う。王女様は笑い方も上品なのね。金髪に紫の瞳という美貌の笑顔に惚けてしまう。


「メリッサというのはマチェルダに来た時に乗ってきた馬ね」

「あ、そうです。ご存知だったのですね」

「港から来ないとは聞いていたけれどあんなに身軽な格好で来るとは思わなかったわ」

「荷物だけ後から追いかけてこさせるとおっしゃって1人の護衛と一緒にあっという間に駆けて行かれましたわ。私も見送りに行きましたが久しぶりの遠乗りだと言って幼馴染みのクレイグ以外の護衛たちを置いていってしまって護衛たちが慌てておりました」

「護衛をなんだと思っているのかしら。マチェルダでもそのクレイグという護衛と一緒にいるか1人で歩き回っていたわ」

「クレイグは騎士団長に次いだ実力、殿下はクレイグと互角の腕前をお持ちですわ。ぞろぞろと引き連れてるより少数でいた方が良いというのが殿下の考えですの。万が一のことがあるので少し離れて控えているのですが」

「迷惑な王子ね。護衛対象なんだから大人しくしてなさいよ」

「……」


 なんだかモニカみたいな話し方をするローラ様にまたしても呆然としてしまう。


 王女様ってこういうものなのかな。この国には殿下と6つ下のジェラルド様がいらっしゃるけど王女様はいないからわからない。


「それで、メリッサがどうしたの?」

「あ、えっと、あ、そう、メリッサはとても綺麗な白馬なのですが……って、ご覧になったのですからご存知ですわよね」

「確かに綺麗な毛並みだったわね。気性が荒いからと触らせてはくれなかったけど」

「メリッサは殿下と馬丁以外には気を許さない気高い馬なのですわ。男性なら乗せるのは駄目でも触れることくらいはさせてくれるのですが」

「まあ。つまり男好きの雌なのね」

「ただ私がそばに寄ると構ってくるのですわ。唾を飛ばしたり尻尾で叩いてきたり」

「目の敵にされてるじゃない」

「仕方ないですわ。だって殿下のことを慕う気持ちは私もよくわかりますもの!!ローラ様は殿下のどんなところがお好きですか?」

「はあ?」

「全部ですわよね全部!!私もですわ!!同じですわね!!特にあの優しさ!!そう、そのお話をしようとしていたのです。あれは殿下が12才の時、陛下が誕生日プレゼントだと殿下を厩舎に連れていくのに私もお供させていただいたのです」




────


「アレックス、この国で一番尊い者は誰かわかるかい?」

「いきなり連れ出したかと思えば……。父上だろ。国王が一番偉いんだから」

「私はアレックスにとって尊敬に価する人間かな」

「まどろっこしいな……。父上は良き国王だと思いますよ。そう言えば良いのか?」

「ふふ……ああ、ありがとう。そう、国王の私は望めば何でも手に入るよね」

「父上、俺はまどろっこしい話は嫌いだと」

「まあまあ、考えてほしいんだ。何でも手に入る立場の人間が何でも自分の思い通りにしようと権力を振りかざしているとするよ。そんな国王が国民に尊敬されると思うかい?」

「そんなわけないだろ」

「じゃあ例えばこれならどうかな。これは愛する人のためだって言うとしたら。そのために国民が不幸になるのは仕方ないことだって」

「そんなことをしたら母上に殴られるぞ」

「そうだね、怖いよね。そんな国王が王座に就いてあれこれ指示を出したところで誰も従おうと思わないしついてこようと思わないだろう。アレックス、国の頂点に立つ者として威厳を示すこと、国民に尊敬される王であり続けることはお前の義務だ。だけど王であり続けるのはついてきてくれる臣下が、慕ってくれる国民がいてこそ。というわけでここだ」

「なぜ厩舎に向かってるのかと思っていたが何だこの白馬」

「この前生まれた雌馬だよ。お前には国民から慕われる王になってもらうためにまずこの子馬に慕われるように育ててもらう」

「ああ?……父上、そんなことしなくても俺は」

「お前が思いやりがあって優しいのはわかる。だけどわかりにくい」

「ぐ……」

「この一頭の馬に名前をつけてわかりやすく愛情を注いで慕われることができたなら国民にとっても良き国王になれるはずだよ」

「能天気か。そんな理屈で俺が従うわけ」

「ほら撫でてごらん。優しくそっと撫でるんだよ」

「……仕方ないな」

「名前はどうする?」

「そうだな……メリッサ……って、なんだこいつ」

「おや、もっと撫でて欲しいみたいだ。どうやらすぐなついてしまったみたいだね。気性が荒いと聞いてたんだけど。そうそう、ジェシカもアレックスと一緒にこの馬を可愛がってくれるかな?」


 殿下の背中に隠れて子馬を見ていた私は陛下を見上げた。


「……ジェシー……お馬さん……怖い」

「大丈夫、怖くないよ。ジェシカもアレックスが国民に慕われる国王になれるように協力してくれないかな」

「父上、こいつは馬鹿だから今の話なんて1つも理解してない」

「理解できなくても覚えていれば大きくなった時に私の言葉の意味がわかるよ。先輩の娘だからね。コーリア侯爵夫人もジェシカは意味はわかってないけど丸暗記は得意だって言ってたし」

「いやそれ本気で丸暗記しかしてないからな。なんなのかわかってないから問題出しても答えられないから意味ないだろ」

「さすが1つのことに特化したバートン伯爵家の血筋だね。すごいすごい」

「……ジェシーすごいですか?」

「うん、すごいよ偉い偉い。だからジェシカもメリッサと仲良くしてね」

「は、はい」


 殿下の後ろから手を伸ばして撫でようとした途端その右手にメリッサが噛みついた。


「痛い!!」

「ジェシカ!?」

「う、う、うわあーん!!」

「お、おい、大丈夫か?泣くな。おい!!誰か侍医を呼んでこい!!」

「やはり気性が荒いというのは確かみたいだ」

「痛いのか?大丈夫か?」

「うぇーん……」



──────



「ということがありまして、殿下の優しさはメリッサの功績なのです。あの時メリッサに噛まれた私の頭を撫でてくれたのもメリッサにするのと同じように優しい手つきででしてね、そう、殿下は女性への接し方をメリッサから学んだと言っても過言ではありませんのよ」

「あー……そうなのね」

「はい!!というわけでメリッサはとても素晴らしい白馬なのです。なので偉大なメリッサと仲良くしたいのですがいまだに心の距離は縮まらず。いつかはわかりあいたいのです。殿下を慕う者同士ですもの。あ、そうでしたわローラ様、明日は城下町に行きませんか?」

「あら、良いわね」

「みんな殿下のことが大好きなのです。なのでみんなからもたくさん殿下の話を聞きましょうね」

「本当に頭の中でアレックス王子のことばかりなのね」

「ふふふ、殿下は素晴らしいのです」


 そのあとも殿下の話をたくさん話してローラ様も楽しかったと言ってくれた。ローラ様が帰国するまでに余すことなく殿下の魅力を伝えなくちゃ。満足感と使命感に満たされてその日はぐっすり眠った。



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