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勇者パーティーから追放されたサポーター、パーティーから戻って来いと言われたいがため、特訓をする~これまでを悔いてももう遅い。これからは力の出し惜しみは無しだ。絶対に戻って来いと言わせてみせる~

作者: 狐の孫族

 その宣告は突然の事だった。


「キョウ、貴方をこのパーティーから追放するわ」


 勇者パーティーの一員である俺は、幼馴染で勇者でもある彼女、スミレに急にクビを宣告されたのだ。納得がいかない、わけではない、だが……


「な、何故だ、何故俺がクビになるんだ? 教えてくれ!! スミレ!!」

「貴方は確かにこの勇者パーティーのサポーターとして頑張ってくれてたと思う、だけどね。皆はもう、貴方抜きでも十分に戦える戦力になったの。それを貴方は理解してて、最近は手を抜いていたわね?」

「ぐっ!!」


 スミレに痛い所を突かれ、俺は言葉を濁す。そう、俺は、皆が十分に戦えることを見越した上で、手を抜いていたのだ。バレない程度に手を抜いていたつもりだったが、流石にバレたようだ。


「貴方は私の幼馴染だから、幼馴染の仲ってだけでお目こぼしされていたのも仇になったとは思う。だから、貴方は一度私の元を離れ、本気で自分を鍛えなおしなさい。これがお互いに幸せになれる方法だと思うわ」

「し、しかし……俺はこのパーティーではサポーターだ。一人で戦う事など……」


 そう、俺のこのパーティーでの役割はサポーターである。支援、回復、そして、仲間を観察してのアドバイス等々、支援として恥ずかしくない働きをしていたと思う。最初の頃は。

 いつからか、皆が自分で考え戦うようになり、アドバイスが要らなくなった。次いで、必要な支援を自ら要求してくれるようになった。トドメとして、戦いが上手くなったため、回復の出番も減ってきた。

 結果として、俺は皆に甘える形でここまで勇者パーティーの一員としてやって来れたに過ぎない。それを見透かされてしまっているのであれば、納得するしかない。


「私は知っているわ。キョウ、貴方がやれば何でもできる人だって。だから、貴方が十分に強くなったと判断出来たら、今度は私が迎えに行くわ。だから、頑張って」


 最後にスミレから受けたこの一言、この一言が、俺の魂を揺さぶる。

 ああ、スミレは本当に俺の為を思って、言いにくい事を言ってくれたのだと。


……それならばやってやる。俺の目標のため、そして……


「……ホントだな? 俺が十分に強くなれば、またパーティーに迎えてくれるのだな!?」

「もちろんよ、だから、私に貴方の本気を見せて頂戴」

「分かった、俺の本気、見せてやる!! だから、見ててくれ、俺の全力の本気!!」


 スミレ達は俺を信頼してくれている、それは分かった。だが、このままだとそれに甘え続けていた自分が許せない、だからこそ……


 俺はサポーターという長年騙った仮の姿を捨て、全力で戦う。こんな俺でも信じてくれる仲間と、そして……スミレと共にある為に。


***


「せや!!」


 あの追放からしばらく後。今俺は、あの街からそれなりに遠く離れた魔物の住処である城を攻略中である。


 俺の元居た勇者パーティー。勇者スミレ、そして戦士ヴァイオレット、魔法使いリリー、この3人はきっと、俺の事を待ってくれている。そう確信が持てる程、優しい3人なのだ。


 だが、その優しさに甘えていたのは自分自身である。だからこそ、俺が性根を叩きなおすまでの間、無駄に待たせたくは無かった。

 そのためには俺自身が単身で死地に行く事。まだ勇者パーティーが挑戦すらしていない高難易度のダンジョンを攻略するのが一番早い。そう思っていたのだが……


「っはぁ!!」


 俺は今日、何本目か分からないポーションをキメる。

 このポーションは別れ際、スミレから渡されたものだ。それも大量に。

 それだけで俺はスミレの考えを理解した。伊達に幼馴染をやってはいないし、長年見守ってはいない。きっとスミレは俺にこう言いたいのだ


「このポーションを使い切るまでは戻って来るな」と。


 ああ、お前の望み通りこのポーションを使い切るまでは、俺は、戦う事から逃げない!!

 俺はそう固く決意すると、武器であるメイスと盾を構え、自分に支援魔法をかけながらモンスターの群れに手あたり次第突撃する。

 もちろん、その間も魔力を途切れさせること無く、考える事を止めず、1戦1戦に課題を定め、その課題をクリアしていくように戦い方を工夫する。


 まずは魔力の節約、そのための直接攻撃。だがそこでダメージを受けてしまえば、回復に魔力やポーションを使ってしまう。それでは駄目なのだ。

 魔力を節約するため、まずはしっかりと敵の攻撃を予測し、回避か受け切るかをその場その場で判断せねばならない。戦士であるヴァイオレットはこんな事を考えながら皆の盾役をしてくれてたんだな。


 次いで魔法攻撃、これも奥が深い。これもちゃんと相手の属性等に合わせていかないと、ダメージが通らない。魔法使いリリー。俺達の中では最年少ながらそこまでの観察力を持っていたか……。


 そして、その攻撃と防御の呼吸を合わせる。これが一人で自分の体を使っても難しいのに、仲間に指示を出しながら自らも実践していたスミレの器用さ、これは一人で戦っていると十二分に理解させられる。

 どうしても防御と攻撃が頭の中で乖離し、ひとつの大きな動きとして認識しにくい。さらに体も攻撃と防御の間に一瞬隙が生じてしまう。


 皆の大変さは1戦ごとに身を持って理解出来てきた、だが、俺が皆にしてあげられる事は何があるか……そう自問自答しながら俺は深部へと進んで行った。


***


「ここが最深部か……?」


 俺はいつしか、城で言うところの謁見の間、といった所に到達していた。

 そこにはこれまでのありふれた雑魚とは一風変わったモンスターがえっらそうに鎮座していた。


「ほう、我が魔王の玉座までたどり着くとは……貴様もしや……」

「うわ、化け物が喋った。こええ、なんだこいつ」

「話を最後まで聞かんか!!」


 怒ったモンスターは咄嗟に俺に向けて炎の球の攻撃魔法を放つ、俺は咄嗟に躱す。


「短気なモンスターだな、だが……」


――ドゴォォォン


 背後で大きな音がする。モンスターが放った魔法が建物を1撃で大きく破壊したようだ。


「なるほど、先ほどの雑魚どもよりは骨がありそうだ。かかってこい、モンスター」


 俺はメイスを構え挑発をする。


「おのれ、我は魔王ぞ!! 魔王を侮辱するとは!!」


「はいはい、マ・オウさんね。名前だけでも覚えて帰っておくよ」


 結論から言うと、マ・オウは予想よりはるかに強かった。正直、負けるかと思ったタイミングも何度もあった、だが、持久戦に持ち込んだ、その時点で俺の勝ちだ! 何故なら、俺にはポーションが死ぬほどあるからだ!!


「お、おのれ!! 我が……だが、我を滅せるのは勇者の使える奥義だけ……貴様ごときなど……」


 マ・オウがボロボロになりながら、それでも一矢報いたかのように宣言する、だが俺は


「勇者だったらいいのか、じゃあ俺でも大丈夫だな」



 それは幼い頃の記憶。天職として神からの託宣と言う形で職業を決められた幼き日の事。


――『キョウ、私、職業勇者なんだって!! キョウは職業何になったの?』


 幼い頃、スミレと交わした会話。俺はその頃からスミレの事が好きで、少しでも一緒に居たくて、だから……


――『僕はサポーターだ、だから、僕がスミレをサポートする!! だから、ずっと一緒に居られるね!!』


 その時、俺はスミレに嘘を付いていた、俺が隠した本当の職業それは……この世に2人以上生まれるはずの無い職業である


――勇者であった。



「な、ま、まさか。貴様が勇者だと言うのか!?」

「一応、勇者なんだって。王国の皆には、内緒だよっ!?」


 俺はそう言いながら、マ・オウの顔面をメイスで一撃。マ・オウはそのまま吹き飛び、倒れ伏した。


「お、おのれぇぇぇ!! 勇者め!! だが我は先触れに過ぎぬ!! 我を倒しても、この次に現れる真の魔王が貴様らを恐怖のどん底に叩き落すであろう!!」


 シンノ・マ・オウか。どうやらこいつの上位個体が居るようだ。そうか。一応覚えておこう。


……おっと、そういえば勇者の奥義じゃないと倒せない、ってこいつがいってたな、一思いにやってあげないと。

 ほら、無様に倒れてるのを放っておくと、俺が勇者だっってご近所に言って回りそうな奴じゃん? このマ・オウって奴。


「はぁぁぁぁぁぁ!!」


 勇者であるスミレが使っているのを見たことあるから、俺も使い方は分かる。俺はメイスに闘気を込める。えっと、この後は確か……スミレの真似すればいいか


「聖なる光が闇を斬り裂く!! 剣よ!! 今こそ我の敵を切り裂け!! 必殺!!」


 スミレがいつもやっているように決め口上を述べてから、俺はマ・オウに大きくジャンプして飛び掛かる。後はこの剣で敵を一刀両断すれば……


 メイスじゃん!! 無理じゃん!! どうしよ……もういいや、なるようになれだ!!

 俺は空中で1回前転してから


破邪光爪斬!!(はじゃこうそうざん)


 と叫びながら、マ・オウの頭頂部に踵落としをお見舞いしておいた。


「グワァァァァ!! せめてちゃんと剣で斬られたかったぁぁぁ!!」


 マ・オウはそう叫びながら息絶えた。


 ありがとう、マ・オウ。お前のおかげで、俺も成長出来たし、ノルマのポーションも結構消費出来た!!

 また俺が自分を見失った時は、お前か、上位個体のシンノ・マ・オウに鍛えなおしてもらいたい。


***


「キョウ、特訓の成果はどうかしら?」


 どれだけ修行していたかは分からないが、帰り着いた俺をスミレ、ヴァイオレット、リリーが迎えてくれた。あくまで俺の修行中なので、今でも同じ宿に泊まっているのだ。

 とは言え、俺はマ・オウを倒してからしばらく、まともにモンスターに遭遇しなかったため、帰りが予想以上に遅くなってしまった。ほら、ヴァイオレットもリリーも、スミレも時間かかり過ぎだって怒ってるよ。怒りを抑えても、顔が赤くなってるもん。


「スミレ、ヴァイオレット、リリー。ただいま!! 特訓はボチボチってところかな?」


 俺は嬉しさ半分、申し訳なさ半分で微笑みかけるしか出来ない……


「そ、そう。それはよかった。ところで、もうそろそろ、戻りたい、とか思わないかしら?」


 ほら、戻りたいんでしょ? さっさと鍛えなおして私たちを納得させなさい、という催促だろう。


「そうだね、その為に頑張ってるから……戻って来いと言われるまで、頑張るよ!!」

「い、いや、でも、キョウも頑張ってるし、戻りたいって言うなら戻ってきても、いいのよ?」


 おっと、一瞬心が揺らぎそうになるが、これはひっかけだな。この誘惑に抗えるかどうかも含めて、俺の成長を確認するテストなのだろう。


「いや、皆から戻ってきてほしいと言われない限りは、俺の甘えは抜けないと思う……だから、皆から戻ってきてほしいと言われるまで。俺はひたすら鍛錬するだけだ」


 俺がそう宣言すると、途端に3人の間に流れる空気が硬くなったように感じた。だから俺はその空気を少しでも軽くしようと、努めて明るくこう言った。


「心配するな!! 俺は皆の力になれるよう、頑張るさ!! 戻ってきてほしいって言ってもらえるよう、全力でやってやる!!」

「そ、そう……頑張ってね……」


 俺に一言そう告げながら、スミレ、ヴァイオレット、リリーは自室に戻る。まるでこれ以上頑張らなくてもいいのに、と言いたげな様子にも見えた……ま、まさか!!


 俺の成長、遅すぎ!?

 見込み0だから諦めて甘えてろと?


 いや、それでも俺は、皆に甘えてた自分を変えたいんだ。皆から戻って来いと言われるまでは戻れないのだ。


***


 一方その頃、スミレたち勇者パーティーは……


「キョウから戻りたいと言わせ、復帰を認める作戦、失敗」


 魔法使いであるリリーは自らの立てた作戦の失敗を宣言する。


「な、なんでキョウ、あんなに意固地なのよ―!!」

「でも、キョウのあの顔見たか? あの顔、歴戦の戦士にも劣らない気迫があったぞ!! 惚れ直しそうだ!!」


 頭を抱えるスミレと、テンション高めの戦士ヴァイオレットはリリーの声なんて聞こえてない。


 スミレ達がキョウをパーティーに戻そうと若干焦っているのには理由があった。それは彼女らが勇者パーティーと言われている事に起因する。


 勇者は魔王を倒すもの、つまり、勇者パーティーは魔王討伐パーティーでもある。

 だが、その魔王はつい最近、何者かによって倒されてしまい、既に高い戦力を誇る勇者パーティーはこれ以上の戦力増強の理由が無くなってしまったのだ。


 キョウを追放したのも、キョウをレベルアップさせ、魔王との戦いに勝利するためであった、それが……その原因となった魔王は居なくなったのに、キョウは前より格段にレベルアップしている事が見ているだけで分かるほど強くなってしまっているのだ。


 そんなキョウを連れ戻したとなれば、穿った見方をする人は「国に弓弾くつもりか?」などと疑うだろうし、もしスミレがキョウを好きだから、なんて噂でも流れようものなら……当人は幼馴染だから一緒にいるだけとは言うが、好きなのは事実だけにスミレは恥ずかしくてたまらないのである。


「こうなったら、キョウが土下座してお願いするまで、パーティーに戻さないんだから!!」


 こうして、魔王も国王も世界平和も全部投げ捨てた、勇者同士の「パーティーに戻る、戻らない」をかけた根競べが始まったのであった。が、魔王は倒れてしまい、束の間の平和は約束されたので、このお話はここで閉じる事とする。

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[良い点] 第二第三の魔王もあながち嘘じゃなくなった事で女勇者サイドも詐欺になりにくくなってセーフ 最終的に半端に相手の真意を理解して 女勇者達「さっさと『戻してくれ』って頭下げろ!」 男勇者「お前等…
[一言] 【妄想劇場】 次の日…… 「「「戻ってきてください!!!」」」 三人はキョウ成分欠乏症に陥り、 土下座で懇願するのであった。
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