表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/67

どうして戦争を止めたいのか


 ゴブリンをボッコボコにしてやりました。


 まあ、魔獣としたら最低ランクですから当然です!


 なにしろ私は北の守護者と呼ばれる侯爵家に生まれましたので、この程度の魔獣退治はよくやらされましてから。


 しかし、北の守護者という敬称はゲームの設定にも出てきますけど、実際にゲームで操作するのはヒロインですから、悪役令嬢の視線とは違っていますし、学園に入るまで、どんな生活だったのかも詳細には語られませんが……こんなハードだったんだ、と驚きましたよ。


 まあ、RPG好きとしては乙女ゲーに転生とはついてないな、と思ってがっかりしてたところに、たぎる展開でしたけど。


「お嬢さんがどういう出自か知ってるが――知ってるつもりだったが、これは、いくらなんでも規格外だろ!」


 会敵するたびに殲滅していったのですがゴブリンの討伐数が2桁ではおさまらなくなりそうで、いいかげん数えるのが面倒になったころには、囮&餌の盗賊のオヤブンはまるで私をバケモノかなにかのように言うのでした。


 いやぁ……低レベルの魔法しか使ってないんですけど。ゴブリンの怖さは数ですから。何頭ものゴブリンに囲まれると意外と腕利きでも殺されてしまうことがあります。


 でも、いまは数頭ずつ順番に倒すだけでしたから、ちょっとした作業を数十回ほど繰り返しただけ。


「いえいえ、侯爵家では最弱クラスですよ、わたくし。当家には魔獣討伐のベテラン、百戦錬磨の騎士や魔法士が多数所属しておりますし、わたくし、まだ学生ですから」


「これで最弱?」


「ケンカを売るときは、相手をよく見たほうがよくてよ?」


「よく前を見てなくて、うっかりドラゴンの尻尾を全力で踏んづけた気分だよ」


「わたくしの方は貴方がこんなにもゴブリンを引き寄せるとは誤算でした。実に優秀な囮であり餌ですね、なんなら侯爵家御用達のゴブリンの誘引剤として売り出したいくらいですわ!」


「お嬢さんは俺のことをなんだと思ってるんだ?」


 誘拐犯は被害者に向かって、涙目になりながら変な質問を投げかけてくるのでした。


 返事のかわりにフン! と鼻で笑っておきます。


 私は討伐したゴブリンをマジックバッグに放り込みながら、改めて状況を考えてみることにしました。誘拐されかかったり、そのボスとゴブリンを退治しながら国境を目指したり、どうも出発前に考えていたのと展開が違います。


 あまりにも違うんですよ?


 まず大前提として、この世界は前世でやった『紅碧双月のストランブール』というゲームによく似ていると、私は思っているのですが……よく似てはいても、まったく同じでもないみたい。


 もっとも、この世界がリアルになってみると人生の岐路でゲームのように示された選択肢の中から選ぶだけというわけではなく、選択肢にない行動をとったり、ある選択肢と別の選択肢の中間あたりを選んだりすることもできますから。


 しかも主人公なら遊んだことがありますから、少しは選択肢も覚えていて、それなりに正解を引き当てることも可能ですけど、悪役令嬢の前にどんな選択肢があったのか知るわけありませんし。


 さらには、ゲームは恋愛関係が中心で、背景になることとか、そんなに詳しく描かれているわけでもないし、知らないうちにフラグを踏み潰すことくらいありますよ。




 私のせいじゃありません!




 どうせならフラグの根元に←ここ注意と大きく目立つように書いておいてくれないと。


 このイベントは私の(つまり悪役令嬢の)負けイベントの1つとなるはず。つまり婚約破棄となる理由の1つですね。


 王族や貴族の結婚は政治100パーセントです。恋愛成分なんて1ミリだって混ざりこむ余地はありません。好き嫌いで政略結婚が覆るなら、恋愛結婚の割合がもっと多くなりますよ。


 ヒロインがどんなに性格がよい素敵な女の子だとしても、だからといって私との婚約を破棄するわけがないし、できるわけもない。


 私はヒロイン役と適当に距離をとっていましたが、もしいじめたとしても、それを理由に婚約破棄はありえません。国の安定と比較するには、あまりにも矮小ですから。


 地位が高くなったり、権力があったり、財産があったり、次世代に引き継ぎたいもろもろがあればあるほど政略のない結婚なんてありえません。


 そういう意味でいえば王族なんてしがらみの塊ですよね。


 つまり私の婚約破棄は侯爵家の没落とセットなんですよ。


 ゲームの通りに歴史が進むのなら、これからストランブール王国はマグリティア帝国と戦争になるのですが、私のお父様は和平派で、武力衝突が不可避な状況を覆すため、マグリティア帝国の和平派の貴族と秘密会談をおこなうように段取りをつけます。


 ところが、ここでお父様が病に倒れ、代理として私が密使となります。


 この和平工作が失敗し、さらには開戦派の貴族に戦争回避工作が露見して侯爵家は帝国と内通した国家の敵となるのでした


 すでに国王すら開戦やむなしと考えていることを知らず、戦争を回避することは可能であると読み間違えたお父様の誤算ですね。


 反逆の徒となれば一族まとめて処刑だってありそうなのですが、いままでの国への忠誠で助命し、国外追放となります。


 国外追放を回避するなら密使を引き受けるのではなく、お父様に帝国の和平派と手を切り、開戦に賛成するよう説得するのが一番じゃないかと思います。


 あるいは病に倒れたわけですから、私が実権を掌握して開戦派に寄せることもできたかもしれません。


 それがわかっていて密使を引き受けたのは戦争を回避したかったから。


 前世の記憶があるせいか、ゲームの世界とそっくりだったせいか、私は子供のころからこの世界をプレイヤーとして眺めるような気分がどこかにありました。


 街を見て「いやぁ、よくできてるな」とか、がんばっている人がいても「NPCのくせによくやるな」とか、そんな感じ。侯爵令嬢だから許されてたものの、平民の娘なら生意気だとブン殴られてますよ。


 だけど、私は一度死んだ人間です。人生が終了して、いってみればエンディングデモのあと、おまけのミニゲームがあった! そんな感じ。


 そして、そのミニゲームをプレイしているわけですよ。どうせならRPGがよかったんだけどな、とか。最期にやっていたゲームだから『紅碧双月のストランブール』なのかな、とか。ちょっぴり文句を言いつつ、ね。


 死ぬ寸前、走馬灯を見ると言いますよね? 人生を振り返るみたいな。そのかわりにゲーマーはゲームの世界で最期にちょっと遊ばせてもらえるのかな? とかね、そんなふうに考えていたのですよ。


 あるいは夢の没入型VRゲームが完成して「スゴい! リアルだ! まるで本当に異世界にいるみたい!」とゲーム機購入からログインまでの記憶を飛ばす勢いで遊び倒してるとか、ね?


 いまの私はルイーズ・カサランテ・ラクフォード・エラ・ストレリツィですけど、これだって侯爵令嬢のロールプレイやってる感覚が結構ありますよ。例えば一人称だって頭の中で考えるときは「私」ですが、口に出して喋るときは「わたくし」ですもん。


 普通はゲームの世界に転生といわれても信じられないですから! 私も信じてませんでした。実際の人生だって夢じゃないかと思う人いますよね、ことわざだと邯鄲の夢みたいなの、ありますし。


 でも、戦争になると思ったら、急にこの世界や、まわりの人たちが好きだと気づいたんです。


 だから、戦争を止めたいな、と。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ