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エピローグ

誤字報告ありがとうございました。 

pvが1日で1万までいきそうな勢いで伸びてて、作者としてはびっくりしております。

新型コロナウィルスのせいで、とてもつまらないゴールデンウィークになりそうですが、少しでも楽しんでいただけたら作者としては嬉しく思います。




 スタンピードが無事におさまったと連絡を受けて安堵していたのに、その討伐の内容を聞いて頭を抱えることになった。


 余は皇帝であるぞ!


 マグリティア帝国で一番偉いのだ!


 なのに、余を困らせるとは!


 帝国軍は問題ない。軍人なのだから戦闘は仕事にすぎず、そのために常日頃から給料を支払っている。特別な功績があげた兵士や士官がいれば昇進や勲章ということになるが、規定や前例に従えばいいだけだから簡単な事務作業だ。


 冒険者ギルドも強制徴集に関して事前に取り決めてあった金額を支払い、個々の冒険者への支払いはギルドが担当すればいい。


 もし公平性に欠けたとしたら、それは冒険者ギルドの責任である。余も、余の帝国も関係ないわけだ。


 と、これで終わればよさそうなものだが、どうやらそうはいかないらしい。


 軍人だって特別な功績があれば特別に昇進や勲章ということになるからには、当然のことながら冒険者も特別な功績があれば規定の報酬の他になにか出さないわけにはいかないだろう――具体的にはSランク冒険者の3人。


 なにしろ巨大な魔獣を討伐したのだ。しかも、目撃者多数。


 その目撃者というのが冒険者というのなら、まあ、なんとでもなるだろう。しかし、軍の士官もいる。


 それどころか野次馬までいたらしい。スタンピードを見物した命知らずに貴族階級までいたというのだから、まったく呆れる。


 おかげで余は誤魔化したり、値切ったりせず、正当な報酬を考えるという厄介事を抱えることとなったのだ。多すぎず、少なすぎず、そこそこ満足してもらい、不満には思わない程度に査定するのは意外と面倒。


 まあ、2人のSランク冒険者はそれほどでもない。騎士爵と田舎の寒村でもくれてやればいい。大きな街だと困るが、小村の出身者なら生まれた村の領主にしてやれば喜ぶだろう。


 いますぐ授爵して領主にしてやってもいいし、引退後がいいというのなら、それでもかまわない。上手くしたら引退する前に魔獣に食われて死んでくれるかもしれないし。


 問題は――残りの1人だ。これがさっきから余の頭を悩ましている。


 近衛騎士団が壊滅し、有力貴族の当主も何人か死んだ。これでストランブール王国への出兵は潰れた。帝都の防衛で国軍も消耗し、全部を立て直すのに何年――ひょっとすると10年はかかるかもしれない。


 これだけ戦力が低下してしまうと、しかも他国から侵略戦争を仕掛けられたらマグリティア帝国の存在が危うくなってしまう。


 その原因がこの小娘だ――いや、彼女が直接やったわけではない。ないが、遠因ではある。


 本当なら縛り首にでもしたいところなのだが、逆に褒美を出さなければならないのだ。


「しかし、褒美といっても……なかなか難しいのではないか?」


「帝都を救ってもらっておいて、なにも褒美を出さないのではマグリティア帝国の見識が疑われてしまいます」


 余の意見にただちに宰相が異を唱える。


 間違っているときに間違っていると指摘する立場の役職者が仕事をしただけだから怒るわけにはいかないし、実際のところ正しい意見なのだが、それゆえに腹が立つ。


「皇帝として、働きに対して褒美を出さぬわけにはいかない。ただなぁ……こういうときは授爵か陞爵だろうが、相手はストランブール王国の侯爵令嬢だぞ?」


「王国の貴族令嬢に帝国皇帝が爵位をあたえたら嫌がらせにしかなりません」


「そう考えると、ぜひ子爵位くらいは授けたくなるな」


「この件で帝国内でも過激な思想を持つ有力貴族が全滅しました。彼らほどではなくてもストランブール王国の一部でも併呑できればと望む貴族は残っていますが、実行可能な兵力がありませんので実質的には開戦という流れは完全に絶たれといってもいいでしょう。そんなときに王国の有力貴族令嬢に嫌がらせをするのは得策ではありますまい」


「爵位が駄目だとすれば、領地も駄目だろう?」


「爵位のない者に領地を与えるわけにはいかないですし、もし街を1つ2つもらっても帝国内では管理できないでしょう。爵位と同じく嫌がらせにしかなりません」


「勲章か?」


「他のSランク冒険者が騎士爵で、残る1人が勲章ではバランスが悪いでしょう。しかも、その残る1人が事前の偵察と、冒険者たちの実質的な指揮、そして最前線で戦い続けたわけですから、上に差をつけるならばともかく、下にしては不味いかと」


「そういうことなら3人とも勲章にしておこうか?」


「下策かと」


「下策?」


「一万を超える魔獣と戦って帝都を守ったのに騎士爵すらなれないとなったら、いったい誰がマグリティア帝国のために命がけで働くでしょうか? また、これからは貴族の陞爵には今回の帝都防衛以上の手柄が必要ということになってします。さらには――」


「まだあるのか?」


「残る1人です。王国の侯爵令嬢がドレス姿で帝国の勲章をつけてくれるとは思えません。公式行事に授与した勲章をつけないのは帝国を軽視していることになりますが、抗議して聞き届けられる可能性はないでしょう」


「帝国の勲章などつけるに値しないと面罵されたようなものなのに、抗議も受けつけられない、か……」


「抗議の甲斐がないからといって、勲章をつけるつけないで戦争というわけにもいきません」


「つまりは帝国にとってマイナスしかないわけだ。後腐れなく、色もついてないという意味では金が一番だが、噂によるとストレリツィ侯爵家は稀少な魔獣の素材を大量に持っているらしいな。下手すれば余以上に金持ちなのではないか?」


「下手をしなくても皇帝陛下より裕福でしょう。なにしろ帝国は破産寸前ですので」


 そうなのだ。この数年、小麦の不作が続いている。主食になる穀物が例年の半分以下という状況で、税どころか、自分たちが食べていけなくて、崩壊した村が結構ある。村全体でなくても、逃散した連中が難民化して街に流れ込んだり、それどころか盗賊になったりしている。


 このあたりを徴兵してストランブール王国の穀倉地帯に送り込むという提案が各方面から出ていて――開戦派と呼ばれる貴族たちや、近衛騎士団のことだが、余もそういう方向に傾いたところだった。


 マグリティア帝国になくてストランブール王国にあるのなら、そこまでいって取ってきたらいい。不足分を取ってきたなら食糧問題はだいたい解決するだろう。


 もちろん、戦争だから負けることもある。その場合は徴兵された兵士が大量に死ぬだろう。そうなったらそうなったらで別に問題ない。食糧問題の解決には食べる口を減らすという方法もあるのだから。


 さらには近衛騎士団から強力な魔獣を人工的に生産できると報告があった。腹ぺこの雑兵どもが予想以上に弱くて、ストランブール王国がマグリティア帝国領内まで攻め込んできたら人工生産魔獣を突っ込ませることで対抗できる。


 勝って負けても食糧問題が解決し、国土を損なう心配はまったくない、素晴らしい政策だったのだが――完全に潰された形だ。


 人工生産魔獣ならコントロールできるという話だったのが、結果的には一万を超える魔獣のスタンピードになってしまった。もし当初の予定通りストランブール王国と戦争になり、帝国領内まで攻め込まれて人工生産魔獣を解き放っていたら大変なことになっていた。帝都は王国軍とスタンピードに挟み撃ちにされ、間違いなく壊滅していただろう。


 この余の首も地面に転がっていただろう――あるいは魔獣の餌か。


 そう考えれば命の恩人とさえいえるし、首がなくなるよりは知恵を絞るほうがいいに決まっているのだが……本当にどうしようか?


「祝勝会……」


「は?」


「祝勝会に招待したら出席するだろうか?」


「さて……なかなか大胆な娘のようですので、あるいは。さらに冒険者ギルドに所属しているのですから、ギルドマスターに釘を刺しておけば完璧かと」


「帝国軍の慰労会だけでなく、冒険者たちの祝勝会もやろう。祝勝会のほうの招待客は冒険者のみとすれば問題ないはずだ。それで本人に欲しい褒美を聞こう」


「考えるのが面倒になってませんか?」


「手っ取り早くてよかろう。もし祝勝会を欠席したなら、こちらは相応の褒美を用意していたのに、それを渡す機会がなかったと釈明できる」


 なかなかの名案だろう? と余は口元をニヤリと歪ませた。




 こういう経緯で行われることになった祝勝会だが、反対意見も結構あったようだ。帝城に平民を招くのが許せないという貴族も多いし、冒険者といえば一般的な平民よりさらに身分が下だからであろう。


 結局、帝城の中庭での立食パーティーという形式になった。身分的に城内に入れるのは憚られるので、庭先にということだ。


 冒険者などとかっこつけて名乗ってはみても、実際には街の雑用係。誰もやりたがらないゴミ仕事、クズ仕事でなんとか食べているような連中だから、帝城に招かれるのは一世一代の晴れ舞台だろう。流行遅れだが、ちゃんとした礼服を着ている者もそれなりに見かける。


 ただし、礼儀はなってない――余も最初から期待していないし、冒険者ギルドにもその旨は伝えておいた。皇帝として謁見するのではなく、お忍びで中庭を散歩しているという形式だ。


 よって、余はこの祝勝会場にはいない――ことになっている。あくまで、いまは散歩しているだけの1人のオッサンだ。


 それでもひどいものはひどい。あちらこちらにテーブルが置いてあり、食べ物や飲み物が用意されていて、これは軽食程度のものを用意して「よかったらつまんでください」というイメージだ。ところが冒険者たちはテーブルに群がって口に入るものは残らず食べ尽くしている。


 立食パーティー形式なのに、地面に座り込んでいる冒険者もそこそこ。中には車座になって宴会やってる連中までいるではないか。


 今日は文句をつけるつもりはないので、さっさと目的を果たそう。褒美になにが欲しいのか聞き出すことができれば、こんなところにいる必要はないのだから。


 ギルドマスターに案内させ、最低限の護衛だけを引き連れて冒険者たちのところに向かう。


「陛下!」


「マグリティア帝国万歳!」


「皇帝陛下万歳!」


 余を見かけると騒ぐ連中もいた。もっとも、ほとんどが酔っ払いだから、やたら声が大きい。


 そんな中をゆっくり歩いていく。


 問題のSランク冒険者は3人揃っていた。


 ディランという朱色の大剣という異名持ちの冒険者はきちんとした礼服を着ている。しかも今シーズン流行のもので、靴もそれに合わせてあるし、さすがに冒険者でもSランクともなれば財布の厚みが違うのだろう。


 ただし、左胸の徽章はいただけない。ストレリツィ侯爵家の契約騎士であることを示すもの。別に正式な騎士というわけではない。領内で魔獣を狩るときに優遇措置があるとか、侯爵家の遠征に同行できるとか、腕利きの冒険者として認めるというだけのものだが、なにもわざわざ帝城でつけなくてもいいものだ。


 きちんと授与された勲章ならともかく、ただの徽章。それも他国の有力貴族と縁があると宣伝するようなもの。


 しかも、その隣にいるエラというSランク冒険者もバッジが欲しいらしい。余の頭痛の種にねだり、1つもらったようだ。


 嬉しそうに銀バッジをドレスの胸につけている……が、華麗なドレスに、無骨な銀バッジはまったく似合ってない。


 そもそも帝城でストランブール王国の侯爵家が帝国の冒険者を自家の戦力としてスカウトしているのか? スカウトされて嬉々として応じる帝国の冒険者も冒険者だ。それも下っ端の冒険者ならともかく、Sランク冒険者が。


 いちおう建前上は冒険者ギルドは独立団体で、どこかの国の紐付きではないとされている。しかし、今回のスタンピードのようなことがあれば国家が強制徴集することだってできるのだから、マグリティア帝国の冒険者はマグリティア帝国の戦力なのだ。


「おお……これでストレリツィ侯爵家の騎士だ!」


 エラというSランク冒険者が歓声を上げている。いや、だから、なんでそういう発言をマグリティア帝国の帝城内でするのか?


 空気が読めないがSランク冒険者に必須のスキルなのか?


 いや、Sランク冒険者だけではないな。侯爵令嬢がエラに契約騎士章を差し出したとき、周囲にいた冒険者たちは熱い、羨望のまなざしを向けていたし。


「他に欲しい方はいらっしゃいますか?」


 侯爵令嬢だから少しは礼儀作法を身につけているかと思ったら、こいつもSランク冒険者らしく空気が読めないらしい。帝城でスカウトはやめろ!


 ついでに服装にも文句が言いたいところだ。下々の出身である冒険者でさえ誰かに借りたのか、古着屋の掘り出し物か、なんとかして礼服か、それに近いものを着ている。女性はドレス。


 なのに、侯爵令嬢は冒険者スタイルのままで、背中にはリュックサックまである。


「それでは……どうしましょうか? ちょっとわたくしと腕試しでも」


 いままで熱い視線を向けていたはずの冒険者たちが一斉に目をそらす。Sランク冒険者に挑もうという命知らずはいないようだ。


 そんな条件ではスカウトに失敗するのは確定なのに、やはり空気が読めないのだろう。


「帝都が壊滅してもおかしくなかった状況なのに、まったくの無傷で事態を収拾できて大変喜んでいる。褒美はなにがよいか?」


 まずはディランという男に尋ねてみた。


「どんなもんくれるの?」


「出身はどこか? 帝国の者か?」


「チャドン村なんて田舎の小さなとこだから知らないだろうが……」


「騎士爵に叙爵して、その出身の村を領地にやろう」


「俺が貴族?」


「不満か? このあとも帝国に貢献すれば、さらに男爵、子爵と陞爵する」


「いやいや不満はないよ。冒険者を引退したら故郷に帰って領主様だな」


「よい領主となることを期待する」


 事前にも案が出た授爵に落ち着いた。次はエラという女性の魔法士だ。


「爵位には興味ありません」


「どこかで見た顔だ」


 しかし、彼女はふてくされたように顔を背ける。その横顔にもやはり覚えがある。宰相でも連れてきたら正体がわかったかもしれないが、おそらくは没落貴族。この年齢で、しかも女性だから本人に落ち度があったわけではなく、父親か祖父か、なにかやらかして爵位を失ったのだろう。


 だから、本人の顔に見覚えがあるというより、いくつかの帝国貴族家の女性の特徴が色濃い顔だ。


「気のせいでしょう。金貨でもいただきましょうか」


「取らそう」


 エラはかたくなな様子。これは没落しただけでなく、当主は処刑くらいまであったのかもしれない。普通の没落貴族の一番の願いは家の復興のはず。そのチャンスをあえて蹴るのだから、壮絶な足の引っ張り合いだったり、ドロドロとした闇の闘争の結果、上手くハメられたとか、そんな感じだろうか。


 いまとなってはどうにもならないことであるし、本人が褒美として金貨を望むのならそれでいい。


 さて、これからが本番だ――と、その前に、この小娘をどう呼べばいいのだ? もちろん、ルイーズ・カサランテ・ラクフォード・エラ・ストレリツィという名前なのは知っている。だが、それはストランブール王国の侯爵家の者ということになる。


 しかし、侯爵令嬢として帝城に招いたわけではないのだ。もし、そういうことなら正式に謁見しなければ礼を失することになるし、ましてや中庭に通すなど他国とはいえ高位貴族に対する扱いではない。


 しかし、Sランク冒険者ルイーズというのも……本人は隠しているらしいが、まったく隠せていない。それなのに侯爵令嬢と気づいてないふりをして一介の冒険者として接するのはあまりにも馬鹿馬鹿しいぞ。


 皇帝ともあろう者が、つまらない茶番劇に付き合うわけにもいかない。


 すると残りは『碧天を翔る空色』という異名だな。2つ名とか、異名というのは冒険者の夢らしい。伝説として語り継がれるとまで言っては少しオーバーかもしれないが、普通の冒険者につけられるものではないし、ただの腕利き程度でも不足。


 冒険者に捧げられる最高の栄誉としての敬称だ。


 帝国や王国にも関係なく、侯爵という地位にも関係ない、冒険者の間での慣習だ。こちらが下手というわけでもなく、相手に敬意を表すこともできる。


 異名というのは名誉なことだから、皇帝みずからそれを認めれば相手も喜ぶだろう。


「碧天を翔る空色はいかがいたす?」


「ルイーズとお呼びください。それで……税の免除のような特権は無理でしょうか?」


「碧天を翔る空色は帝国にも領を持っているのか?」


「ルイーズとお呼びください。わたくし、冒険者として『黒十字血盟団』というパーティーに所属しております。この帝都に拠点がございまして、わたくし個人の家ではなくパーティー名義ではありますが。それで、その家の税を免除いただけますと、とても助かります」


「税の免除か……よい。しかし、家1軒の税免除では不足になろう。他の者とのバランスもある。碧天を翔る空色にも金貨も少し持たそう」


「ルイーズとお呼びください。それで金貨をいただけるのであれば、年金という形はとれますでしょうか? わたくしではなく『黒十字血盟団』に宛てて少額でかまいませんので毎年支払っていただけますと助かります」


「認めよう」


 所属する冒険者の団体名義の不動産の税の免除や、その団体宛の年金など、本人の直接の利益になることは避けるようだ。まあ、ストランブール王国の貴族令嬢がマグリティア帝国から利益を得てしまうと少々スキャンダラスな話になりかねない。


 一方で皇帝みずから褒美をやると声をかけてきたのに、それを断るのも不敬。


 空気が読めない令嬢かと思っていたが、まずまずのバランス感覚はあるようだ。


「碧天を翔る空色はあまり欲はないようだな」


「ルイーズとお呼びください。わたくし、小銭に興味がないだけで。いまのところ知識のほうを欲します。質問させていただいても?」


「答えられることであれば」


「なぜ戦争しようと思われたのでしょう? いまは国内のほうが難しいような印象を受けましたが。難民のような人たちを多く見かけました」


「小麦の不作が原因だな。このままだと飢え死にする民も多く出そうだ」


「なおさら戦争をする余裕がないように愚考いたします。兵糧が集まらないでしょうに」


「攻め込むのは穀倉地帯だ。いくらでも現地調達できるだろう」


「まともな食事もなく国境まで移動して、それで戦ったとしたら勝つのは難しいかと」


「負けたら食べられないのだから、死ぬ気で戦うだろう」


「精神論を戦術に組み込むのは危険だと愚考いたします」


「なに、負けて死んだら、それはそれで問題は解決する。小麦の収穫高がいつもより低くても、食べる口も少ないのなら飢饉も回避されるであろう」


 ストランブール王国の高位貴族といっても、令嬢というだけなら政治というものがわからないのもしかたない。無知な娘に少々教えてやった。


「しかし、近衛が壊滅ではその手は使えそうにありません。もっと他の素晴らしい方法で解決されることを期待しております」


「飢え死にするよりは、ずっといいチャンスだったのにどこかの誰かのせいで潰されてしまったわ。しかし、まあ、かまわない。その飢え死にするのは平民だけなのだから」


「いえいえ、小麦がないのなら、ゴブリンの肉でも食べたらいいのです。しぶといですよ、下々の民は」


 なんともものすごい笑顔でとんでもないことを言う。ゴブリンというのは下級の魔獣だったはず。味のよい魔獣もいるが、ゴブリンが美味だとは聞いたことがない。


 いや、そもそもゴブリンは食べられるのか?


 食用ですらないと記憶している。


 討伐自体の難易度は低いが、やたらと繁殖力が強く、倒しても倒してもきりがない厄介な魔獣のはず。しかも、素材として使えるところがないから、本当に迷惑な魔獣と聞いている。もし食用となるのなら、簡単に大量の肉が調達できるのだが――そんな上手い話があるはずもない。


 それとも、ストランブール王国にはゴブリン料理なるものが存在するのであろうか?


「我が帝国にはゴブリンを食べる習慣はない。しかし、ストランブール王国ではあのようなものまで食べるのか?」


「いえいえ、王国では食べませんよ? いや、食べるのかな? わたくしは帝国でいただきましたが……」


「帝国で?」


「はい。パンがないのならゴブリンを食べたらいいのに」


 やっぱりニコニコしながら、とんでもないことを口にする。


 参考になったとか、なんとか、適当に言葉を濁して彼女たちの元を去る。


 その直後、ディランが碧天を翔る空色に声をかけていた――そして悲鳴を上げる。


「おい、空色。皇帝陛下から碧天を翔る空色と呼ばれたんだ。これで冒険者だけでなく帝国公認で碧天を翔る空色の名前が広がるな」


 振り返ると碧天を翔る空色が飛んでいた、ディランの足首をつかんで逆さ吊りにして。


「おい、やめろ! やめてくれ!」


 ディランはジタバタと暴れるが、空中に逆さで吊された状態ではどうにもならない。


 とうやら彼は碧天を翔る空色を怒らせたようなのだが、いったいなにをしたのだろう? 余と報償について話をしていたときは不機嫌ではなかったはずだから、その前になにかあったというわけではなさそうだが、後では時間がなさすぎる。


 ポイ、と碧天を翔る空色はディランをそのまま放り出す。


 充分に墜落死する高さだが、さすがSランク冒険者だけあってディランは空中でクルクルと回転して姿勢をととのえると、上手く受け身をとった。


「なにをするんだ!」


 しかし、それを見ていた冒険者たちは大爆笑――碧天を翔る空色は怒ったのではなく、パーティーの余興をやったのか?


 両手を空に向けて歓声をあげていたエラの後ろに着地した碧天を翔る空色は抱え込むようにして再び飛んだ。さっきの逆さ吊りとは違い、空中散歩のような雰囲気でとても楽しそうだ。


 しかし、碧天を翔る空色がエラになにか耳打ちした瞬間、ディランの頭の上に雷撃が落とされた。エラという魔法士は雷系統の魔法が得意と聞いていたが、これがそうなのだろう。


「ギャッ!」


 出力は絞ってあったのだろうが、それでもかなり痛かったのだろう、ディランは引っくり返る。


 それを見て、またしても冒険者たちは大爆笑。


 侯爵令嬢なのに、みずから余興を買って出て、わざわざ下々を楽しませるとは――ストランブール王国の貴族は妙なことをする。


 いや、王国と帝国の差はあっても、貴族はそんなことしない。余興は道化の仕事。貴族が冒険者を装っていたとしても、体面を汚すようなマネはしないだろう。


 すると政治的な意味が?


 そう気づくと、碧天を翔る空色のとった意味不明の行動の解釈が容易に出来る。


 ゴブリンでも食べて満足しておけよ。さもなければ逆さに吊すぞ。守りを固めても無駄だぞ、空から魔法を撃ち放題だから。


 こんなのは例外だと思いたいが……ひょっとしてストランブール王国には1人で国を1つ潰しかねないような奴が結構いたりするのか? こんな力量の若者がどんどん育っているとすれば、今回のことで失った戦力を回復できたとしても、下手に手を出すと火傷するだろう。


 メッセージはよく理解した。


 その翌日、碧天を翔る空色ことルイーズ・カサランテ・ラクフォード・エラ・ストレリツィ侯爵令嬢は帝都から去ったと聞く。


 やれやれだ。








 このエピローグで終了予定だったのですが、書きはじめたら長くなりそうで、だったらもう1章やろうかと書いていたのですが、結局この物語の寿命はこのへんだったのでしょう。どうでもいいエピソードで水増しみたいな感じになってしまい、本当は寿命が尽きているのに無理に延命させているような形になってしまいました。書いていてつまらないし、読み返してもつまらない。


 結局、ゴミを生産していただけで無意味に時間があいてしまいましただけ。結局、元の形に戻してゴミはゴミ箱に放り込んで終了しました。最後のつけたしみたいなエピローグのせいで、なかなか完結できず今回一番の反省点ですね。




 さて。

 素人の落書きみたいな作品を最後までお読みいただき感謝、感謝です。内容的にも作者が自分だけ楽しんでいるようなものですしね。




 悪役令嬢モノであれば1話の冒頭で「おまえとは婚約破棄だ!」と王子様が叫ぶところからスタートしないといけないんですよね、本当は。


 恋愛タグは必須ですよ、きっと。


 そのあたり、ちゃんと承知の上で王子様は出てこない、恋愛タグはつかない物語をやっているのですから、最初から読者を楽しませるためでなく、作者が楽しむために書いてるわけですよ。確信犯というヤツですね。


 まあ、そもそも非モテな作者にラブストーリーとか絶対に無理ですし。


 ネットを見ていると、なにやら登録するといいことあるらしい広告がよく引っかかりますけど、あれは作者に婚活しろという意味なのか? いやいや、どんながんばって活動しても無理でしょ!



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