無詠唱からのボコボコ
冒険者としてランクが高いからといって指揮の経験が豊富というわけでもないので仕方ないのかもしれませんが――普通の高ランク冒険者はパーティーのリーダーをやっていたり、複数のパーティーが協力しなければ達成できないミッションを率いたりと、そこそこ経験するはずなんですけどね、本当は。
「いまディランが斬りつけたところに集中攻撃、まずは10本!」
うちの騎士団を指揮したり、冒険者も含めて遠征隊を率いたりと、お父様が不在のときは私が名代でしたので、こういうことには慣れています。
エラの魔法が次々に炸裂しました。私も合わせて10発。
そこにディランが飛び込んで、魔法で削られた皮膚に大剣がブチ込まれました。
「痺れろ!」
大剣でえぐった足にエラが激しい電撃を浴びせました。
さすがにベヒモスもガクッと膝をつきましたが――そのまま前へ勢いよく倒れ、魔法で大きなダメージを与えて得意顔をしているエラにボディプレスするような形になりました。
反射的にディランが飛び込みます。
大剣に身を隠すように、まるで盾とする使い方で、おそらく一般的な魔獣の攻撃はほとんど無力化できるのでしょう。
だけど、相手はベヒモスです。こんな巨体を人間が支えきれるはずありません。
危ない!
私もエラをかばえないかと動きかけ――そんな時間はないと瞬間的に判断しました。
脊髄反射で魔法を撃ちます。
見えざる巨人の息吹を使ったのですが、とっさのことで呪文を詠唱している時間がなくて、無詠唱でやってしまったのですが――本来の巨人の息吹は二酸化炭素を生成する魔法で、結界で囲った範囲にいる魔獣を窒息死させるのに使います。息を吸うタイミングで口の前に生成することもできますが、今回は詠唱すら省略したので結界を作っている時間なんて、もっとありません。
口内に直接二酸化炭素をブチ込んでやろうとして――ベヒモスはドライアイスの塊をくわえることになりました。
私は無詠唱が苦手で、特に魔法の制御に問題が出るんですよ。つまり出力を絞るようなことができなくなって、どんな魔法も最大出力になってしまいますので、どうにも効率が悪い。こういう継続戦闘が求められる場面では、つねに最大出力だと最後まで持ちません。
さらにはコントロールも甘くなるので、撃っても撃っても当たらないことも。今回はたまたまベヒモスの口の中にドライアイスを放り込む形になったのでよかったですが、失敗して頭にコツンとぶつかるだけだった可能性もあったんですよ。ベヒモスに「痛いじゃないか」と怒られるだけで、ダメージはゼロとかね。
だから、普段は呪文詠唱を欠かさないようにしているのですが、今回はどうしても時間がありませんでした。ほんの数秒でも遅ければディランは死んだか、大怪我で戦線脱落。エラもどうなったものか。
いきなり口の中にドライアイスを押し込まれることになったベヒモスは激しく暴れて――だんだん動きが鈍くなってきました。
呼吸のたびに高濃度の二酸化炭素を取り込んで、酸欠に近い状態になっているみたい。二酸化炭素を大量に吸うと気絶してもおかしくないので、そのあたりは生命力の強い魔獣なのでしょうね。
口腔内も凍傷になっているはず。喉や、肺にまでドライアイスの冷気がダメージを与えていてもおかしくありません。
「全力攻撃!」
敵の弱ってきたところをつくのが巧みなディランが大剣をブンブンさせながら叫びました。
エラにとっても巨体の魔獣が動かなくなったら、魔法を当て放題の素敵すぎる的です。
もちろん、私も参加ですよ。
Sランク冒険者3人によるベヒモスのタコ殴りがはじまりました。実に美しくない光景。
でも、本当にそんなことでもしないと勝てない相手でした。
一番後ろにいるボスを討伐しましたので、もう前に障害物は一切ありません。冒険者たちはスタンピードを突っ切ったのです。
「折り返して、後ろから襲撃する! 素材も肉も拾い放題を忘れるな!」
冒険者たちを180度ターンさせますこういうときに上空から指示を出せると便利です。
そのまま突っ込ませると後ろにくっついてきた低ランクの冒険者が今度は前になってしまい死傷者が続出しそうです。あくまで、こちらの最大戦力であり、斬り込み隊はSランク冒険者である私とディランとエラですので。
低空まで降りて、上から丁寧に誘導して冒険者たちを折り返させると、ふたたび突撃させました。
帝国軍は私たちが一撃入れた魔獣たちを包囲しつつありました。その、まだ完全に包囲が終わってない隙間に冒険者たちの一群が突入します。
殲滅しつつ、討伐した魔獣を回収していきました。これでしばらく冒険者ギルドの買取窓口には長い列が絶えることなく、近辺にある酒場は大変に賑わいそう。
どうもうまく書けませぬ。なのに、次に書きたいものの話が頭の中で勝手に進んだりコントロール不能になってます。
まあ、頭の中は楽しい状態なので作者としては割と悪くないんですけど。