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そろそろ接敵!





 いつの間にかギルドに強制徴集された冒険者の指揮官みたいになっています。自宅の裏山にいくときに冒険者を連れていくことも多いですから、こういうのには慣れていますが――やってることは、ほとんど詐欺師ですよ。勝つ見込みのないのに勝てると嘘をついたり、利益が出るより死ぬ可能性が高いのに儲かると騙したりしています。


 ここらへんについて文句があるのなら、スタンピードを引き起こした貴族や近衛騎士団に言ってもらいたいです。あるいは冒険者の強制徴集をしたギルドか、ギルドにそれを命じた帝国か。


 冒険者を肉壁にして自分たちだけ手柄を立てようしている帝国軍の司令官や参謀も有罪でしょうか。


 私が自分で決めた勝利条件は2つ。


 冒険者の損害をできるだけ低くすること――ゼロとは言ってない。そもそも犠牲者を1人も出さずに乗り切れる事態ではないと思います。


 魔獣を帝都に侵入させないこと――戦闘能力がない人たちのところに魔獣が突っ込んだら大惨事。こういうときに死ぬのは軍人と冒険者の仕事でもありますからね。


 まあ、理想をいえば他にもたくさんありますけど、自分の能力でできもしないことを並べているほど暇ではないですし、最低限度のところだけ目標にしておきます。


「では、冒険者諸君! 前進!」


 命じると、まとまりなく集まっていた冒険者が一方向に歩きはじめました。


スタンピードの先頭との接触まで、あと1時間ちょっと。


 このペースで前進すれば約5キロは最前線を押し上げることができそう。


「おい、俺たちが先頭で突っ込むんだって? それなのに素材も肉も拾い放題って、他のやつらにとっては得ばかりなのに、俺たちは損しかないじゃないか!」


 こっちがいろいろ考えているのに、ディランがうるさく話しかけてきます。損ではなく、必要経費ですよ。


 いくらSランク冒険者といっても単騎で魔獣の群れに突撃したら死にますから。しかし、隙間をこじ開けたところに、それを後続が広げてくれれば生き残れる余地が出てきます。


 ただし問題が1つ。まったく見返りがないのなら後ろに続く冒険者はいないですよね。


だから、倒した魔獣を自由に回収していいことにしたのです。


「どうせランクの低い冒険者はマジックバックを持ってないのではなくて? 一方でディランは持ってますよね、当然わたくしも持ってます。エラ・サトラさんもお持ちではないでしょうか?」


 私が視線を向けると彼女も頷きました。


「あたしも持ってる。それから、エラって呼んでいいから、あたしもルイーズと呼んでいい?」


「もちろんですわ。エラ、わたくしのことはルイーズと呼んでくださいませ」


「で、ルイーズ。マジックバックがどうしたの?」


「討伐した魔獣が欲しければマジックバックに放り込んだらいいのですわ。あなたたちなら魔法を使ったり、剣を振りながらでも、素材回収できますわよね?」


「できる」


 ディランは渋々認めました。一瞬でも気が抜けない場面ですと、さすがにSランク冒険者といっても戦闘と素材回収を同時におこなうのは面倒なんですよね。ですけど、あなたならできるよね? と問われて、できませんと答えるのはプライドが許しませんから、嫌でもやるしかないのです。


 しかし、あまり厳しくするとディランの士気が下がりそう。こいつはバカですけど、一般の冒険者の100倍くらいは強いですから、この状況での戦力としては欠かせません。


 私はディランとエラに近くに寄るよう手招きして、他の冒険者たちに聞こえないように、こっそり提案してみました。


「この3人で共闘するのはいかが? 目についた獲物はマジックバックにどんどん放り込んでおいて、あとで山分け。誰が、どれだけ活躍したとか、そういう揉め事は一切なしで、きっちり3等分」


「悪くないな」


 とディランが乗ってきます。過去に私の実家の裏山で何度も一緒に遠征に行っていますからね、私が最低限度の利益は確保するために上手く立ちまわると信頼してくれているのでしょう。


 エマも賛成してくれました。こっちとは一緒に戦ったことはありませんが、私を信用しているというより、自分を信用しきれないタイプみたい。


「あたしもそれいいと思う。たまに魔法を撃ってて、回収を忘れるときがあるから!」


「下級の魔獣は基本的に放置。小銭にしかならない割にかさばるので。それよりも一番後ろにベヒモスがいて、他に4頭のサイプロクスがいたので、これだけは忘れないように。ここが絶対で、あとは拾えたら拾うという方針でいいかしら?」


「あわせて5頭プラス小物か……3等分しても充分な稼ぎになりそうだ」


 ディランはバカですけど、報酬の計算になると急に頭が冴えます。普段は両手を使って10までは支障なく数えられても、それを超えると靴下を脱いで足の指でも使わないことには足し算引き算もまともにできない癖に。


 まあ、話がまとまったので問題ありませんけどね。


「あれを見ろ!」


 そのとき、ギルドマスターが前方を指して叫びました。


 街道の先、森の上にもやもやしたものがかかっていました。魔獣の大行進が引き起こした砂煙です。


 ぞろぞろとついてくる冒険者たちが「うわーっ」とか「おーっ」などと叫び声のような、うめき声のような、変な音を口から吐き出していました。


 なんでもいいですけど、足を緩めるのは勘弁してもらいたいです。帝国軍の配置位置からすると、もう少し前へ出たいところ。


 ところが、ペースが確実に落ちています。


 さらに進んで、遠目にも魔獣らしきものが見えてくると、完全に足が止まってしまいました。


 このままでは……もう無理でしょうね。


 私たちが最初に突撃してみせるしかありません。


「そろそろ出ます。よろしくて?」


 いちおうギルドマスターにお伺いを立てます。


 なんとなく、うちの領地で冒険者たちを指揮しているような気分で帝都の冒険者たちを煽って、勝手に作戦を押しつけてしまいましたので、いまさらになってしまいましたけど本来の指揮権はギルドマスターにあるはず。


「まだ遠くないか?」


 距離的にはざっくり1キロ以上ありそうですけど、先制攻撃で叩いておくには悪くないと思います。


「軽く一当てして、みなさんの士気を高めないと」


 そう言いながら後ろに続く足取りが重くなっている冒険者たちのほうに視線を向けると、ギルドマスターは頷きました。


「先行して攻撃を開始する。続け!」


 うつむきかげんで、とぼとぼと歩いている冒険者たちに声をかけ、私は走り出しました。


 5歩、10歩、と加速していきます。頭にかぶった飛行帽を深くかぶり直し、額のゴーグルを両目にきっちり装着します。


「見えざる巨人の手!」


 自分の周囲を無重力にしました。


 両手を地面に向けます。


「風よ、すべてを飛ばせ!」


 エアロストームを地面に向かって発動させると、ロケットのように上空に向かって私の体は急加速。ものすごいGがかかりました。


 もう1発、今度は後ろに向けたエアロストームを発射してから、背中のリュックをさわります。このレイシキと名付けたリュックサックは飛行専用のアイテムですから。


 それに反応してレイシキの左右から翼が展開しました。


 いまの私はジェット機みたいに異世界の空を飛びまわることができるのです。


 全速力で馬を駆けさせるよりずっと早く、それこそ10倍くらいは違うのではないでしょうか? アグリファット往復だってすぐですし、偵察だって簡単。


 これが私の最大の切り札なのです!













誤字報告ありがとうございました。きちんと読んでくださる読者がいらっしゃるという意味でも、ありがとうございました!


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