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迎撃作戦




 真夜中過ぎに偵察に出たついでに、アグリファットに戻って蓋をしてきました。そのまま帝都に戻ろうとしたら、軍勢のようなものが目に入ったんですよ。慌てて近くの木の陰に隠れました。あと2時間もすれば接敵という状況で、なにか問題でも?


 そっと近づいていくと、どうやら帝国軍みたい。


 スタンピードが起きてるのですから、当然のことでした。相手が敵国だろうと、魔獣であろうと、国家の防衛が仕事ですものね。


 街道の脇に陣取って迎え撃つようです。


 よく見ると、街道の反対側の脇にも別の部隊が展開中で、これだと両側から攻撃できそうですね。


 そして、街道上に武器も防具もバラバラで、まとまりのない武装集団が歩いてきます。どうやら冒険者が集められた様子。


 魔獣は街道に沿って進行中。ということは、冒険者が最初にぶつかって……突っ込んできた魔獣が足を止めたところで帝国軍が包囲殲滅という作戦でしょうね。


 帝都を守らなければならない一方で短い時間しかないのですからシンプルで効率的な作戦が望まれます。そう考えると悪い戦術ではないですが、このままいくと冒険者は壊滅に近い損害を被るような。


 しかも、帝国軍が包囲する前に冒険者が壊滅したら中央を突破されて魔獣が帝都に雪崩れ込むことになってしまいます。そうなったら、冒険者はただの犬死に。


 まあ、皇帝にとっても、帝国貴族にとっても、帝国軍にとっても、冒険者なんて使い捨てにしても惜しくもなければ、心が痛むわけでもない存在なのでしょうね。まともな仕事にありつけない連中がしかたなく就く底辺職業という扱いですし。


 一方で帝国軍のほうは、士官を育てるのにコストがかかっていますし、徴兵した一般兵にしても本来の職業は農業や商人で、なんにしても冒険者よりは帝国の国民として重要――まあ、冒険者は底辺ですから、誰と比較しても冒険者が下ですが。


 しかし、私もそういう冒険者の1人。壊滅するとわかっていて、傍観するわけにもいきません。


 まずは帝国軍の指揮官に面会です。もちろん、マーケレス公爵の名前を使いました。なにしろ、私は公爵家騎士団教導ですから!


 こういうときは使えるものはなんでも使ってしまいます。


 偵察の結果として接敵まで約2時間。勢力としては約1万。半数がキラーアントの群れでしたので、あそこはダンジョンであるのと同時にキラーアントの巣になっていたのでしょう。穴の底にたまった魔獣の食べカスを食料としていていたのかもしれません。


 身長1.5メートルほどの巨大蟻ですし、外骨格が硬いので、フルプレートのアーマーを着込んだ人間と同等程度の戦闘力があります。それが5000もいれば、かなりの脅威。


 残りの半数の内、さらに半数の2000から3000はコボルドやゴブリンで、これも1対1なら低レベル冒険者でもまずまず戦えます。


 あとのオークやオーガをはじめ、サラマンダーやケルベロスなど、ちょっと手応えがありそうな魔獣が問題です。


 さらに問題なのはもっと強い魔獣が5頭いること。一番厄介なのがベヒモス。あとはサイプロクスが4頭。なんだか魔王と四天王みたいです。


 そういう報告をすると、私は帝国軍から辞そうとしました。


「防衛戦にも協力してくれないか?」


「参加はします」


「では――」


「ただし、わたくしはEランク冒険者でもありますので、冒険者ギルドの配備場所で」


 帝国軍の指揮官が一緒に戦わないかと誘ってきましたが、お断りしました。私は冒険者ですからね。


 しかし、帝国軍の陣地を出て、冒険者たちのほうに近づいていくと、うさんくさそうな視線を向けられました。


 なんだか怒っている人いっぱい。


「俺たちは肉壁じゃないぞ!」


「なんで冒険者が正面の配置なんだ!」


「俺たちをぶつけて魔獣の足止めして、それを軍で叩く作戦なんだろ?」


「冒険者は柵や塀じゃないんだぞ!」


 どうやら軍から指示された作戦が気に入らない様子。まあ、冒険者が壊滅してもおかしくない配置ですし、足止めした魔獣は帝国軍が討ち取るという、損害は他人に押しつけて、おいしいところは自分たちがいただく作戦ですから、大喜びで参加するという話にはならないですよね。


 帝国軍に対する不信感があり、そんなときに私が帝国軍の陣地からやってきたから勘違いされたようです。


 そうやって騒いでいる中に知った顔を発見。『黒十字血盟団』のメンバーもいました。


 ここもなんだかもめています。


「スタンピードだ! もし小さな規模だったとしても……」


「俺たちだって生き残るのが難しいぞ。ましてや子供たちは……」


 リーダーのマレックとサブリーダーのオセトが難しい顔をしていました。


 もめている理由はどうやら彼らのまわりいる子供みたい。私も会話に混ぜてもらいましょう。


「この子たちも冒険者として登録してしまったわけですね?」


「ルイーズか、帝都に戻っていたのか? そうなんだ、ギルドの仕事は戦闘ばかりじゃないからな。子供でもできる簡単なお使いや、街の清掃、外の仕事でも虫や草の採取ならやれる。自分たちで稼げる分は自分たちで稼いでもらおうと思ったのだが、まさか強制徴集で、こんな状況に巻き込まれるとは」


 私の顔を見て軽く挨拶めいたことを口にしてから、いまの事情を説明してくれました。


「夜明け前に強制徴集の鐘が鳴ったみたいでしたが」


「そうだ。それで全員集合だ」


「ランクや年齢で制限はつかないものなの? 低レベルや、ましてや子供なんて最前線に連れていっても足手纏いになるだけでしょうに」


「帝国軍は魔獣の暴走を止められなかったとしても、少しでもスピードを落とすことを狙っているようだ。小石だって躓けば転ぶ。子供だって踏み潰せばわずかでも勢いが削がれる」


「最低最悪の作戦ですわ」


「これ以上、効果的な作戦を考えられなかったんだろうな。犠牲になる冒険者が俺たちってところは気に入らないが、全体的には実行可能なプランでもっとも効率が高いと思う」


「高くありませんわ、だって魔獣は1万を超えますのよ。オーガやオークのような比較的小型の魔獣が大半ですけど、ベヒモスがいましたし、冒険者が数千人ほど踏み潰された程度で落ちるスピードなんて微々たるものでしょう。ここが突破されてしまったら、あとは帝都まで一気ですわ」


「1万……だと? オーガやオークが最弱になるのか? ベヒモスって冗談だよな?」


「最弱ということになればコボルトとかゴブリン、あるいはキラーアントあたりかも。ただオークにしても1000くらいはいましたけど」


「ルイーズ、あんた見てきたの?」


 私たちの会話にリレンザが割り込んできました。真っ青なとんがり帽子が心なしくすんで見えます。


 でも、嘘をついてもしょうがないので、スタンピードに追いかけられる形でアグリファットを出て、先行して帝都に入ったと言いました。そして、夜明けまで体を休めて、ふたたび偵察に出たことも説明します。


「わたくしが見てきたところによりますと、あと2時間でこのあたりまでやってきますわ。いっそ逃げたらいいが?」


 もちろん、最後の一言は声を潜めました。冒険者ギルドの強制徴集に応じなければペナルティーがありますけど、死んだらペナルティーどころではありません。


 実際のところ、すでに文句を言うだけ言ってみて、ダメなら逃げ出す冒険者だって出てくるでしょうね。いえ、すでに出ていてもおかしくありません。


「身一つなら逃げられるけど、せっかく帝都に家があるのに、捨てられない」


 リレンザが泣きそうな声を出しました。


 そして、マレックが補足してくれます。


「ペナルティーは資格剥奪か、違約金だ。ここにいる全員の違約金を支払うなら、それこそ家を売らないと無理だ。いや、家を売った金だけで足りるかどうか。資格剥奪だと金はかからないが、これから金を稼ぐ手段を失う。食べていけなくなるし、家には税がかかるから、結局は売ることになるだろう」


「そういえば税金を忘れていました」


 普段は取り立てる側で、自分で支払ったことなかったので。


 うっかりしてました。


「まあ、現実的には勝ち馬だったら乗る。危なくなったら逃げる。これだけだな」


 みんな同じような考えだろうが、とマレックが言いました。


 だいたい似たようなタイミングで逃げ出すので、一瞬で総崩れとなり、逃げ道には人があふれて進めなくなったり、将棋倒しで圧死する人が出たり、大パニックになる様子が目に見えるよう。


 かといって別の方向には逃げられません。もし『黒十字血盟団』が強いのなら魔獣の群れを突き破って好きなように逃げることもできますけど。


 詰んだ状態ですね、これは。









ブックマーク100未満の作品しかないと某所では底辺作者というようですが、昨日100件目のブックマークがつきまして、やっと底辺卒業です!

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