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魔獣で蠱毒



 マグリティア帝国の切り札は魔獣製造工場。


 強い魔獣を人為的に作ることができる設備をアグリファット遺跡で発見したとのことでした。


 しかし、その魔獣製造工場というのが直径500メートルは超えようという巨大な穴を、封印か結界系の強力な魔法術式が使われた巨大なマンホールで塞いだもの。


 雨水用なのか、空気穴みたいなものか、その巨大マンホールには穴がいくつもあいていて、ちょうど私の頭がすっぽり入るサイズでしたので中を覗いてみました。


 たぶん、いま私すごい格好になっていると思いますが、こういうときは気にしたら負け。見るべきものは見ておかないと。


 しかし、あまりに深すぎるし、暗くてよくわかりません。


 それで視力強化で見てみたのですが――見なければよかったです。


 地下深くでは魔獣と魔獣が戦っていました。勝ったほうが負けたほうを捕食するという、とても原始的な営み。


 何十、いえ、何百もの魔獣がうごめいている。見えないところにもいると思いますので、総数は何千とか、ひょっとしたら万までいくかも。


 どうやら穴の底ではそんなことが何百年と続いているようで、食べカスとか骨とか、ひどい環境です。あまりのことに驚いていて気づきませんでしたが、臭いもひどい。


 いったいこの穴はなんだろうかと周囲を確認すると、どうやらダンジョンみたいです。


このダンジョンを封じていた?


「蠱毒」


 マンホールの穴から顔を出し、新鮮な空気を吸った後に吐いた言葉。


 前世で中学生のときにクラスメイトで呪術にハマっている子がいました。


 おまじないとか、占いが好きな女の子は多いですけど、たまにちょっとヤバいんじゃないかと心配になるレベルの子もいます――いま考えると中二病の一種なのかもしれないですけれども。


 こっちにはそういう趣味はなかったので、そんなに仲が良かった記憶はありませんが、なにかのときに彼女の話を耳にしました。


 5月5日に100匹の虫を集めて壺に入れて、共食いさせて最後に勝ち残った1匹を使うと人間を簡単に殺せるほど強力な呪術ができるとか、なんとか。


 詳細は覚えてません。


 覚える気もなかったので。


 気持ち悪い。


 しかし、いま目の前にあるものを見て、魔獣の蠱毒だと感じました。


 ただの蠱毒ではありません。無限の蠱毒です。


 壺に虫を入れるなら、最初の100匹から増えることはありませんが、ダンジョンは魔獣が湧きますから、終わりが見えない永遠の蠱毒。


 おそらく、ここには高難易度のダンジョンがあったのでしょう。どれほどの技術と時間と人手をかけたのか、気が遠くなりそうですが、そのダンジョンを使った下劣な施設を作った。


「わかったかね?」


 ベメロガ様がニヤニヤと笑いながら顔を近づけてきます。


「もともとはダンジョンだった場所に立坑を掘って深い穴にして、湧いた魔獣を共食いさせている……」


「そう。魔獣も魔獣を殺すことにより、より上位の強い魔獣になれるようだな。これこそが魔法の深淵のひとつ!」


 自慢そうに言ってますが、マッドサイエンシストのイカれた実験じゃないですか。いってみれば魔獣をレベルアップするか死ぬかという環境に長期間さらす施設ということですよ?


 そういえばさっきの石板には強い魔獣を作るとありましたね。似たような意味合いだったので製造とか製作だと思ってしまいましたが、なにもないところから魔獣を作る技術ではなく、あくまで魔獣を強くするものということでしょう。


 まあ、どっちにしても、こんなものが魔法の深淵であるはずがありません。


 どちらかというと外法の極みですよ。


 そんな外法をやった連中は死に絶え、施設も埋もれて遺跡となってしまったのに、蓋をしたダンジョンは生き続け、魔獣が生まれると立坑から下へ落下して、ずっとずっと蠱毒のような状態が続いていたなんて。


「きっと底にいる魔獣はいままでにない強さでしょうね」


「強いだろう」


「人工魔王製造機と呼んでもいいほど」


「素晴らしい理解力だ。一目でダンジョンに立坑を掘ったものだと見抜き、目的を推測する能力、よかったらマーケレス公爵から暇をもらい、帝室魔法士にならないか? よく引きまわしてやろう」


「過大評価ですわ」


「そんなことはないだろう」


「でも、わたくし、この魔獣をコントロールする方法がわかりませんもの」


「さっき自分で人工魔王製造機と呼んだではないか。この下では共食いが延々と続いていると当初は思われていた。しかし、観察すると数頭のボスがいて、従う配下がいるという、我々のような制度をひどく原始的にした生活形態のようなのだ」


「だからといって、まさか条約でも結ぶわけにもいかないと思いますわ」


「まさか昔の人たちも使えない施設を作るわけがなかろう。つまり、こいつらは使えるのだ」


「その方法はわかっていまして?」


「ボスを従えれば配下も従う。この中は暴力の世界。強い者が偉いのだ」


 ベメロガ様は自慢そうでした――ここにも肉体言語で脳筋理論を語る奴がいます。うちの一族とか、領内にいる連中はこんなのばかりなのですが、まさか帝国でも悩まされるとは。


 断言しますが、こいつら、なにも考えてない!


「どうしてもボスが従わないのなら倒してしまってもかまわないでしょう。少々劣るとしても、ボス以外の配下の魔獣がこちらのものになるのですから」


 ハバエフ伯爵がそう言うと、カヴェーヌ伯爵もラョズール伯爵もその通りと同意しました。


 しかも困ったことにリフーノさんまで瞳を輝かせはじめたんですよ。


「これは……素晴らしい。とても素晴らしい。魔獣の大群を王国軍にぶつけてやれば一瞬で壊滅されることも夢ではない」


 やめましょうよ――というか、やめさせるために私たちが派遣されてきたと思うんですけど。










 ブックマークありがとうございます。

 

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