魔獣は製造できる?
いままで昔の要塞の遺跡だと思われてきたアグリファットが実は魔獣の生産工場だったり。
魔素たまりから湧くと思っていた魔獣を生産する工場があったり。
常識がガラガラと崩れだし、目から鱗が100枚くらいベロベロと剥がれそうな今日1日です。
しかも強い魔獣を生産する工場とか言ってましたよね?
もしかして魔獣ごとに生産工場があって、ゴブリンの生産ラインとか、ドラゴンの生産ラインとか、そんな感じなのでしょうか。ベルトコンベアーでゴブリンの本体が流れてきて、ライン工がいろいろな部品を組み付けたり、改善提案して効率を高めたり、そんなことをやっているとか?
それとも魔女のお婆さんが毒薬を作るときみたいに、大きな鍋にあやしげな材料をどんどん入れていくと魔獣ができるのでしょうか?
魔石みたいなものがあって、謎の呪文でも唱えればいいのでしょうか?
疑問は尽きませんね。
「ルイーズ殿はマーブル・タブレットのことを知らぬな? 見せてやれ」
頭のまわりでクエスチョンマークの集団がフォークダンスを踊っているような私の様子を見て、ベメロガ様が第二師団長になんとかいうタブレットを見せるように命じました。
魔獣の工場があったくらいですから、ここでスマートフォンの大きいのが出てきても驚きませんよ。オーパーツでも、なんでも持ってこい! と半分ヤケクソな勢いでしたが、出てきたのは本来のタブレット――石板です。
10インチのタブレットくらいの大きさの真っ白い石板でした。縁に欠けたところがあり、割れて少なくなっているところもあるし腐食か摩滅で読めない文字もありますが……魔法士は魔法陣で使っている古代文字を勉強しますので、ある程度は理解できます。
「ルイーズさん、それにはなんと?」
「概略すれば強い魔獣の製造するための施設である……なんでしょうね? 当時の看板かなにかの残骸とでもいえばいいでしょうか」
唯一わけわからない仲間らしいリフーノさんが側に寄ってきて石板をのぞき込むので、該当箇所を解説してあげました。
どうやら和平派のマーケレス公爵にはこの石板については知らせず、一方で開戦派の貴族には内容を知らせてあったのでしょう。そして、その報告で今度こそはストランブール王国に勝てると思い込んでいるらしい。
しかし、知らなかったほうはびっくりですよ。
「魔獣の製造?」
「はい、どうやるのかはわかりませんが、この石板が正しいとすれば、ここはかつて、そういうことをするための施設だったようです」
「できるのか?」
「わたくしはできませんし、どうやったらできるのかもまったくわかりませんが」
「ルイーズさんより上の魔法士ならできるのだろうか?」
「魔法になるのか、錬金術みたいなものの一種なのか、まったく見当もつきませんが」
「こういうときの相談役だろうに」
「おっしゃる通りですわ。不徳のいたすところです。わたくしとしては勉強することがまだまだあって、とても楽しい気分ではありますけど」
私がそう答えると、ベメロガ様が大笑い。
「若き魔法士はそうあるべきだ。魔法の深淵を少しばかり覗いたからといって、なにかがわかったつもりになられても、な」
「ベメロガ様のおっしゃる通りでございます。もしよろしければ無知なわたくしに魔獣製造について教えを」
「説明より、見たほうが早かろう。我々は視察団ということになっておるのだから」
ベメロガ様は第二師団長に遺跡を案内するように命じる。
そして、連れていかれたのは直径だと500メートルを超えそうな円盤でした。
これが製造工場?
私には巨大なマンホールに見えますけど。
それとも宇宙人のUFOかなにかで、魔獣の製造設備つきだったり?
中世ファンタジー風の乙女ゲーの世界だったはずが、いきなりSF展開になったら驚きますけど――そんな裏設定はなかったはず、ですよ、たぶん。
しかも、この円盤からなにかを感じます。術式はさっぱりわかりませんが、おそらく封印系の魔法。
いや、封印というより結界かも。
「これなんですの?」
『
バチッ!
』
鑑定をかけてみましたが、一瞬で弾かれました。私は戦闘系の魔法士ですので鑑定はあまり得意でもないですけど、ただ見えないというのならともかく、弾かれたのは初めての体験です。
悪いものではなさそうですけど――あくまで結界についてですよ。その中身については嫌な予感しかないですけどね。
邪悪なものを通さない聖なる円盤?
なにそれ、という感じですが――幕が隠していたのは、あるいは近衛騎士団が隠していたのは、この円盤のようでした。
「5年前に新たな遺構らしきものが発見されて、発掘してみた結果が石板と、これです」
第二師団長が円盤にいくつも開いている穴を指しました。
中が見えるのでしょうか?
私の顔がすっぽり入りそうな穴でしたので、実際に頭を突っ込んでみました。
暗くてよくわかりません。
他の穴から入ってくる光があるにはあるのですが……だんだん目が慣れてくると、円盤ではなく、円柱だとわかりました。
いえ、これは円柱ではありませんね。地面に深くて大きな穴が開いていて、円盤で塞いであるようです。最初に感じたマンホールという印象もそう間違っているわけではないみたい。
底は……どこでしょう?
かなり深くて、何キロもありそうですが――目に魔力を流して視力強化しないと見えませんね。
今は佳境を迎える準備段階くらいでしょうか? どこかに閑話を挟みたいと思うのですが、どうも中途半端で。
いけるところまで、いってしまえ! という勢いになってますよ。
まだ最後まで書き終わってないですけど、だいたいラストが見えてきたので、将来的な伏線になるかと仕込んだものが死に設定になりそうで泣きそうです。
悪役令嬢モノなのに学園話がありませんし、続けることはできなくはないのですがね。