表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/67

到着しました



 顔合わせをかねた昼食会のときに偉そうなジジイに遭遇してしまいました――まあ、帝室魔法士筆頭という皇帝直属の魔法士であり、マグリティア帝国でもっとも権威ある魔法士でもあるので、実際に偉い人ではありますけど。


 問題はビレーム侯爵の代理として視察団のメンバーになっているかという部分。皇帝直属ですよ、そのトップですよ、帝室魔法士筆頭という肩書きは。


 侯爵の部下という扱いにしていい存在ではありません。


 考えられる線としては皇帝が侯爵に命じたか、もしくは帝室魔法士筆頭が侯爵に頼んだというところでしょうね。


 そんな不安な要素を抱えながら私たちはアグリファットに到着しました。マグリティア帝国の貴族が学校の遠足でいくような場所――ちょっと意訳気味ですけど。


 前世の日本だと県内にある大きな公園とか、動物園とか、お城とか、そんなところにお弁当と、何百円と決められたお菓子を持っていくイメージでしょうか。バナナがお菓子に含まれるかテンプレな質問が飛び交うヤツですよ。


 ただ観光バスが存在しない世界ですので、日帰りとはいかず馬車で片道1日かかってしまいますけど。かわりに道中には高級なレストランで休憩できたり、遺跡の近くにある高級なホテルがあります。


 夕方に到着し、その高級ホテルで1泊。翌朝から、やっと視察開始。


 アグリファットの要塞遺跡は広い広い野原のようなところでした。一つの街くらいのサイズで、ちょっと考えていたのとスケール感が違います。


 よく考えてみれば城みたいなものですものね、街ひとつ収まるくらいでもちっともおかしくありません。この世界の城だってそれくらいありますし、前世の日本の城ですと残っていてもせいぜい天守閣だけですが、もともとは周囲の、いわゆる城下町を含めて石垣や堀が巡らせてあったはずで、やっぱり街ひとつ分ありますから。


 そんな広大な敷地の端に建物があります。周囲のスケール感がすごすぎるのでたいしたものに見えませんが、単体で見たら大きいですよ、出土品を集めた博物館ですから。


 門らしきものや、見張り台なのでしょうか? 櫓のような建造物もあって、おそらく当時あったものを一部復元しているのでしょうね。


 しかし、それ以外のところは地面と堀と石垣ばかり。まあ、長い年月の間に建物はなくなり、あとは堀と石垣が残るだけ。遺跡なんて、そんなもの。


 それだけだったら、別に問題ありません。


 つまり問題がありそうなんですよ、困ったことに。


 ちょうど遺跡の中心付近にロープが張り巡らされ、立ち入り禁止になっていました。彼らが近衛騎士団の団員なのでしょうか、武装した騎士が数百人はいます。それぞれが立番していたり、巡回しているんですよ。不審者が忍び込もうにも、その前に心が折れるほどの厳戒態勢。


 さらにロープの内側には幕が巡らせてあり、中の様子をうかがうことができません。縦横がメートルではなくキロの単位になりそうな範囲が完全に封鎖されています。


 それを包囲するように今回の視察団の警護についてきた騎士たちが動き出しました。近衛騎士団が暴走する兆候でもあるのでしょうか? まさか戦争の前に内乱ということはないと思いますけど。


 私たち視察団はロープの内側に案内され、さらに幕の内にも入ることができ、そこにあった仮設小屋みたいなところに案内されました。


 長机と椅子が用意されていて、壁際には発掘品らしいものがいくつも置かれていました。


 ご存じの方もいらっしゃるでしょうが、と前置きして話しはじめたのは近衛親衛隊の第二師団長さん。私はご存じの方ではないのでまったく知りませんが、どうやらベメロガ様のような帝室魔法士筆頭という皇帝にかなり近い地位の人だけでなく、他の貴族もどんな話になるのか察している様子。


「5年ほど前に出土した本にあった記述通り、ここには強い魔獣の生産工場のようなものがあったようです。それで、試掘してみたところ生産設備はどうやら生きていると報告いたしましたが、さらに調べたところ、まだ使える状態というレベルではなく、いまだに稼働し続けているのです」


 おお……と唸ってしまいましたよ。最初から最後までびっくりです。どうやら帝国のみなさまはアグリファットが要塞ではなくて、強い魔獣の生産工場という報告を受けていたようですが、まずそこから驚きました。


 魔獣って工場で生産するの?


 これですよね。


 そんな疑問を抱いてみれば、いままで魔獣がどうやって生まれるか真剣に考えたことはありませんでした。ストレリツィ領では魔素たまりがあって、そこから湧いてくるので、この世界では全体的にそういう仕組みになっていると思い込んでいたので。


 まさか生産工場があって、人為的に作成することが可能だったとは。しかも、いまでも稼働状態の施設がマグリティア帝国の管理下にある、と。


 当然、ただ魔獣を生産できるだけでは損失のほうが多そうです。討伐を繰り返すことにより騎士や兵士の練度を上げることができますし、稀少な素材を手にすることもできますが、なにしろ場所が帝都の近くですから、やたらと魔獣が湧いたら迷惑ですよ。


 うちの裏山みたいにドラゴンが暴れても問題ないほど広い地域でしたら、騎士団も冒険者も全力で戦える、とても楽しいバトルゾーンになるのですが。


 それなのに発掘を進めているということは、魔獣を生産するだけでなく、その生産した魔獣を御すための手段もあると推測できます。


 この世界には魔獣を従わせるテイマーもいますけど、魔獣が強くなれば強くなるほど従魔にするのは難しいらしい。凶暴なドラゴンを従えて――というのは子供の夢物語の世界で、現実には小型魔獣に芸を仕込んで酒場で披露するとか、吟遊詩人のような商売をやっているテイマーがほとんど。


 ところが、ここに魔獣を大量生産できて、すべてを従わせることができるとしたら?




 なるほど……これは戦争案件です。










 なんとか50話まで辿り着くことができました。ブックマーク、評価、誤字脱字報告、感想、あるいはTwitterでの更新報告をいいねしてもらったり、リツイートしていただき、いろいろな形で応援いただいたおかげです。


 昨日もブックマーク、評価、誤字報告、感想いただきました。ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ