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出発するも問題多し



 マーケレス公爵の護衛をしていた公爵家騎士団所属の魔法士と試合して問題なく倒すと、すぐに予定通り騎士団教導という肩書きをいただきました。


 アグリファットへの出発の朝、『黒十字血盟団』の全員が見送ってくれました。盗賊団として捕まっていた人は基本的に犯罪者奴隷とされたのですが、女性や子供もいましたから何人か希望者をもらってきて、その人たちも一緒です。


 女性は家政婦のような仕事をさせて、冒険者パーティーである『黒十字血盟団』が仕事で帝都にいないときは留守番となります。


 子供たちは将来の『黒十字血盟団』のメンバーとして育成中。


 まあ、強制はしないので別の道にいきたくなったら、それはそれでいいですしね。いちおう盗賊の共犯者ということで犯罪者奴隷の身分ですから、いくら仕事をさせても給料はいらないですし、経済的な負担は少ないのでかまいません。


 もちろん、リーダーのマレック以下、『黒十字血盟団』のメンバーが元にいたスラム街から連れてきた孤児たちもいて、こっちも育成中。まるで孤児院みたいになっています。貴族の別邸というのは豪華なもので20部屋以上あって、さらに使用人専用の別棟までありますから、住むスペースに困ることはないと思いますけど。


「普段はいいですけど、わたくしが泊まるときは部屋をあけてください」


 念を押して出発しました。


 マーケレス公爵のところまで歩いていくと、門前には馬車が用意されていて、私が乗り込むのと同時に走り出しました。どうやら私が最後だったみたい。


「あやうく置いていくところだったぞ。他の方々との待ち合わせもあるので、こっちの都合で時間を決めるわけにはいかないということは覚えておいてくれ」


 いきなり嫌みっぽいことを言われてしまいました。口先だけでなく顔も実に雄弁な方で「俺を待たせるとはいい度胸だな、コイツ」という感じがよく出ています。


 リフーノさんといって、本来はマーケレス公爵の秘書や補佐官みたいな役割の人とのこと。


 公爵家の政治面の実務者の1人で、彼が公爵の名代として視察に赴き、私は公爵家騎士団教導という身分で護衛&相談役という役割となります。


 いくら公爵家騎士団教導といっても、いきなり公爵の名代にはなれませんし、他家との交渉もできません。しかし、この世界で身分のある人はどこへいくにも護衛を連れていますし、ましてや街の外に出るのですから、かなりの腕利きの護衛が必要となります。


 リフーノさんの護衛ならば彼のいくところなら、どこにでもついていけますから打ち合わせでも、会議でも、なんなら密談でも同行できますね。


 さらに相談役というのは魔法士でないリフーノさんに魔法関連のアドバイスをするわけですから、打ち合わせなり会議のときに少しくらいなら口を出せなくもありません。


 ただし、どこから情報が漏れるかわかりませんから、リフーノさんには私の正体は伏せてあります。出自の卑しい冒険者で、ただ腕のほうがあるので今回の件にからんできたという説明を受けているようでした。


公爵家の抱える魔法士よりやや優秀なので、近衛騎士団がなにをしているのか状況把握ができるという設定ですね。


 私たち以外で馬車に乗っているのは御者のベンと侍女のアン。よくある名前ですが、偽名にも使われそうな印象です。特にアンのほうは公爵が私を気遣ってつけてくれた侍女なのですが、どうやら本当の目的は別にありそうな……最初は私の監視役かと思いましたが、どうやら密偵みたい。


 つまり、みんなの視線を私に集めておいて、その陰でこっそりベンとアンが情報収集するという形を想定しているのでしょうね。


 結果として必要な情報が集まればいいのですから、煙幕でも、囮でも、なんでもやるつもりですけどね、私は。


「ところで、リフーノさん。ご一緒する視察団のメンバーはどのようになったのでしょうか?」


「つまらぬ好奇心は抑えるように」


「好奇心ではありませんわ。わたくし、魔法士としてリフーノさんの相談にのるようにと言いつかっております」


「それは聞いているが……」


 疑わしそうな視線を向けてきます。まあ、公爵であり以前は宰相だった人物の秘書といえば、本人に身分はなくても、下手な子爵や男爵では相手にならない権力を持っていたりしますけどね。


 この小娘が生意気なことを言って、というような顔をしていますが、ここは無視させてもらいますね。


 私からすればただの秘書。虎の威を借りてるだけじゃん、と思いますし。


 だいたいですよ、ストランブール王国は大陸で一番といっても過言でないほど隆盛を誇っていますし、学園は王国で一番の教育機関であり、私は魔法の成績は学年1位。


「長き時を研鑽に捧げた魔法士には劣るとしても、同年代の魔法士でわたくしより上はおりませんわ」


「まあ、公爵様からどんな細かいことでも必ず相談するように命じられているので、そこを違えるつもりはないが……今回は視察団は5家からなる」


 しぶしぶ説明してくれたところによると、まずはマーケレス公爵家でもちろん私たち。


 爵位でいうと、ここが一番上で、次がビレーム侯爵家。


 残りが伯爵家が3家。ハバエフ伯爵、カヴェーヌ伯爵、ラョズール伯爵。


 なぜか見事に開戦派――というより、その中でもいっそう過激な好戦派ともいうべき名前が並んでいるようですが? 私はてっきり近衛騎士団を抑えるための視察団と考えていたのですが、もっとやれと煽りにいくような気がしないでもありません。


 どういうことでしょう?


「高位の貴族家ばかりですのね?」


「渋る近衛騎士団に視察を認めさせるには、これくらいの名前を並べないといけなかったようだな」


「ビレーム侯爵家といえば前の皇帝陛下の母上様のご実家でしたか? どちらかというと近衛騎士団と一緒になって戦争の準備をしてそうなイメージですが……」


「ストランブール王国にはあまりいい感情を持たれてないことをお隠しにならないところがある。しかし、それゆえに勝てぬ戦争はしたくないという気持ちが強いだろうな。基本的に貴族は恥をかくのが嫌いだが、その中でも飛び抜けてそういう傾向がある」


 リフーノさんの評ではストランブール王国に「負けました」と頭を下げるくらいなら舌を噛み切るほうを選びかねないとのこと。嫌いな相手を踏み潰す機会があったら大喜びで飛びつくが、反対に屈辱的な目に遭うのは絶対に避けたいらしい。


 まあ、そういう気持ちはわからないこともないですけど。


「ハバエフ伯爵様をはじめカヴェーヌ伯爵様、ラョズール伯爵様、いずれも帝国でも古い家柄であったように記憶しておりますが?」


「何代にもわたって帝国に忠義を尽くした家柄なので、たとえ近衛騎士団といえども無下に扱うことはできない」


「開戦派に連なる自分たちにまで秘密にするとはどういうことですか? と強い圧力をかけたわけですね。仲間外れにするとムクれますものね、貴族のみなさまって」


「そういうルイーズさんはどういう立ち位置なのか? 閣下からは腕の立つ冒険者だと聞かされているが、どうもそれだけでない気がする」


「一介の無学な冒険者にすぎませんわ。ただ、いささか縁がありサルマーニュ伯爵の著作を目にする機会がありまして、ストランブール王国と関係が良好であれば良好であるだけマグリティア帝国も経済や文化面での発展が大きいという説には大変に感銘を受けております。ごく一部の貴族と、それにつながる商人を除けば、たいていの人にとって戦争は損ですが」


「一介の無学な冒険者がサルマーニュ伯爵の歴史書を読んだりしない。1、2、3、いっぱい、と無学な冒険者は数の勘定すらできないはず。普通の冒険者は読めないが依頼によくある文字と数字を暗記している。博識な冒険者でやっと依頼書を読んで内容と報酬がわかるが、基礎の教養がギリギリ。本を読んだことある冒険者はいない」


「それはいくらなんでも偏見では……」


「本を読んだことある冒険者はいない。ましてや歴史書など読めるはずもない」


 なんか怪しまれてしまったようです。まあ、確かに本を読む冒険者はあまりいませんけど。


 自分の家というものがなくて、宿から宿、場合によっては野宿だと、全財産を持ち歩かないといけないですからね。本を何冊も背負って冒険者をやるのは大変ですよ。


 それでも聖書は割と普及しています。ポケットサイズの小型聖書を持ち歩く冒険者も珍しくなく、むしろ死と隣り合わせの仕事だからか信心深いことも多いですね。


 私は前世でも今世でも神なんて信じていませんが、前世でも今世でも意外と聖書は読み物として面白いと思っています。










 ブクマありがとうございました。


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 30000pv達成です。スタートしたころは100pvがやっとでしたが、昨日は1000pv超えました。育ったねー!


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