方針が決まる
盗賊団を壊滅させて、結構すっきりしたのですが、降伏した護衛の冒険者を危険にさらしたということで商業ギルドと冒険者ギルドが立ち会って話し合いが開催されました――まあ、冒険者ギルドが商業ギルドにクレームを入れた形でしょうか。
よく知ってる店ですし、お詫びとか、慰謝料とか、別にいらなかったんですけど、お礼をというのなら適当なホテルを商会の名前でとってもらえないかな? と思ったら、なぜか家をもらいました。
意味がわかりませんか?
私もよくわかりません!
しかも20部屋くらいあって、使用人専用の別棟まである、なかなか豪華な仕様です――もちろん、私の実家には負けますけどね。あれは家というより城ですから。
マグリティア帝国の帝都に家をもらったところでしかたないので、どうしようか困ったのですが、この際だから『黒十字血盟団』に押しつけてやりました。確か自分たちの家が欲しいとか、なんとか言っていたはずですし、いちおうメンバーである間に起きたことですから、私個人の名義ではなく、パーティーの共同所有にすべきでしょうね。
その話をしたらマレック以下、『黒十字血盟団』のメンバーが大喜び――泣くほどか? と若干私は引き気味でしたけど。
「ルイーズ、おまえは最高のメンバーだ。この帝都にくるまでの臨時という話だったが、あれは嘘だ。正式メンバーが駄目なら名誉メンバーだ。あるいは『黒十字血盟団』の顧問だ」
ものすごく興奮しているマレックから妙なポジションを押しつけられてしまいました。
リレンザも鼻を真っ赤にしています。
「ストランブール王国で嫌なことがあったら、すぐここに逃げてくるんだよ。いつだって、ここはルイーズの家だし、大歓迎するし。同じ碧天を翔る空色ファンなんだから!」
もし王国で私がからむ嫌なことがあったとしたら、たぶん国家レベルの問題なので弱小冒険者パーティーには手に負えない気がします。それから、私はそんな変な2つ名の人のファンではありません!
そもそも私が家をもらったのは、一時的な拠点として私が必要だからもらったのであって、別に『黒十字血盟団』のためではないのですから。
ヌーベルトでユノから冒険者用の安宿は治安があまりよくなく、特に最低価格の大部屋での雑魚寝だとエロいことをしてくる男性冒険者もいると聞いていたので、ただ少しましなホテルに泊まりたかっただけですから。
なんだか、私が『黒十字血盟団』に家をプレゼントしたような話の流れになっていますけど、別にあげたわけではありませんよ!
ちゃんと数年後には国外追放になる予定ですし。
拠点を手に入れて、そこからお父様の手紙を配達したり、会談したり、お互いに独り言を呟いてみたりしたのですが、あまり状況はいいとはいえない様子。やはり皇帝が強気みたいですね。
アグリファット要塞遺跡についても情報が集まってはきましたが、それほど納得できる内容ではありません。
難攻不落の要塞を使って訓練しているという話で、もちろん激しい訓練で精兵を育てるのはわかりますが、それで大幅な兵力差を埋められるのかと問われると……まず無理。
例えばストランブール王国の主要軍事施設がアグリファットを参考に設計されていて、攻略シミュレーションに使える場合など、具体的に訓練の成果が勝負の行方を左右するのなら別ですけどね。
ただ、もし本当にそんなことがあったとしても、まさかストランブール王国の軍事施設がすべてアグリファットの劣化コピーであるはずがありませんので、たった1度だけ軍事拠点を占領できても大きな意味はないと思われるのですが。
しかたない、やっぱりアグリファットの要塞遺跡で帝国の近衛騎士団がなにをしているのか確認にいく必要がありますね。
そういうところに、引退した前宰相から一考に値する提案をされました。
「なにをやっているのか、わたしも知らないんだよ。どうしても教えようとしないから、視察団を送ると言い渡してやった。わたし1人だけでなく、有力貴族に根まわしして連名にしてやったから、さすがに近衛騎士団でも断れん。で、そこにもう1人くわえることもできなくはないが」
「わたくしもご一緒させていただけますの?」
「そうだな。できたら、まずはじめに我が家の騎士団を叩きのめしてはもらえないか?」
「騎士団を叩きのめす?」
質問に対して質問で返すのは失礼な行為ですが、本気で意味がわかりません。できたらと言いますが、まあ、たぶん、できます。我がストレリツィ侯爵家の騎士団は大陸最強という評判ですから、帝国の前宰相であるマーケレス公爵の騎士団はそれ以下なのは確実。
その程度の騎士団ならそれほど問題はありません。
「まさか王国の侯爵令嬢を帝国の公爵家が雇うわけにもいかないだろう。かといって、Eランク冒険者なら公爵家の騎士として抱えられるのかといえば、それも難しい。身分がどうのと文句をつけてくる奴がいるゆえに。侍女とか適当な名目だと一緒に連れていくことはできても、視察団の他のメンバーとの情報交換や、近衛騎士団への直接質問の機会がなくなってしまうだろうな」
「現地で会議のようなものがあっても、それに侍女が参加できるはずもありませんしね、それはわかりますわ」
「騎士は無理でも、指導教育の担当者なら冒険者でも言い訳が立つ。技術指導のために、その技術を身につけた者を雇っただけだ、と。つまりルイーズ殿はわたしの騎士団の魔法士を叩きのめす必要がある。騎士団教導という肩書きで、魔法的見地で視察するという名目にしたいのだが」
「まあ、わたくしの通っている学園でも平民出身の教師がいないわけではありませんが……」
「言い訳というものは、それらしく聞こえればなんでもいいんだ。通す力が我が公爵家にはあるし、わざわざ事を荒立てる意味もない。さらにいうと、わたしは少々ボケてきたので宰相を引退したことになっているから、軍事や遺跡が専門の学者などより、いくぶんピント外れな人選をしたほうがふさわしいだろう」
「送られてきたのが高名な専門家ではなく、ただの冒険者のほうが、相手も油断して隙を見せるかもしれませんから、わたくしにとっても都合がよろしいのですが」
「その結果はちゃんと報告してもらえるのだろうな?」
「便宜を図っていただけるのであれば、そこは確約いたします」
「であれば、ボケたじじいのボケ人選が実は的を射ていたことになるな。まあ、それが理解できる人材が帝国にどれだけいるか不安だが」
「ところで……わたくしは誰のお相手を務めればよろしいのでしょう?」
「わたしの護衛の魔法士でいいだろう」
そう言ってマーケレス公爵はソファーに深く腰かけたまま、ぐるりと首をまわし背後に立っていた男に視線を向けました。気配なく控える男は無駄に威嚇してくる馬鹿より使える場合が多いですけど、さて、私の相手になるでしょうか?
ストックが切れた上に、いろいろ忙しくなかなか原稿が用意できませんでしたが、やっと更新を再開できます。
更新が止まっている間、ブックマークがどんどん剥がれていくかな? と思っていましたが、それほどでもなく、逆にブクマ増えて評価もいただき、とても感謝してます。