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私のターンがはじまるよ!



 誘拐犯にそのまま誘拐されてしまうのもどうかと思ったので、反撃してみたところ、魔法耐性のある甲冑なんか着てやがりまして、私の攻撃魔法がさっぱり通りません。


 困りました……ふふふふふっ。


 どうしましょう……あはははっ。


 しかたなく、本当にしかたなく、切り札を切るしかないんでしょうんねぇ。


 初級の雷にやられって少し痺れて、しばらく動けなくなるだけなのに。


 初級の炎だって熱くて皮膚が真っ赤になりますが、火傷として残るほどではないのに。


 しかし、切り札は基本的に殺傷能力がわりと高め。


 だから、そうそう使いたくないのですが、使わないといけない羽目に追い込まれたので……人に向けてはいけません! と禁止されている魔法を人に向けて放ったらどうなるか?


 どうなるんだろう……わははははっ。


 せっかく魔法を使っていい理由をこしらえてくれたのだもの。そりゃ使いますよね?


 バトルって、楽しいですよね。顔がニヤけるし、唇から笑い声が漏れるし、もうダメです!


 私は『アルブス』と名付けた杖の先を敵に向けて構えました。


「見えざる巨人の足!」


 10人の盗賊の手下たちはたまらず倒れ、がんばって耐えた者でも膝くらいはついています。私を殺すどころか、自分が潰されないようにするので精一杯。


「なんだ、これは……」


「なにが起きている?」


「魔法だが……どういう魔法かわかる奴いるか?」


「甲冑で無効化できてない……」


 潰されそうになりながらも、盗賊の手下たちはいろいろ魔法について推測を巡らしているようですが、たぶん全部ハズレ。


 正解は重力を10倍にしただけ。がんばって修行したらスーパーサ○ヤ人になれるかも? 魔法名は透明の巨人に踏まれたという設定にしておきたいので。


 ちなみに魔法というのは対応する魔法陣を暗記しておいて、脳内で正確に再現しつつ、魔力を流すと発動します。当然、価値のある魔法陣は秘匿されるため、魔法で名を馳せた家であればあるほど先祖代々の研究成果が残っていることになり、平民より貴族のほうが圧倒的に有利にできているのでした。


 侯爵家の図書室にも、御先祖様をはじめ、過去に仕えていた魔法士などが何百年に渡って繰り返した怪しげな実験データーが残っていて、結果から読み取ると、手当たり次第いろいろやっているだけで、魔法陣については解析がかなり甘いんですよね。


 経験則と勘だけで魔法陣を組み合わせて成功したのが『新魔法』と世間で呼ばれるようになるだけ。


 実際のところ、魔法陣なんて少々おかしくても魔力を強めに流せば割となんとかなりますし。


 私が考えるに、魔法陣は数学の方程式と化学の化学式をオカルト風味に融合させたものなんですよ。この世界の数学や化学のレベルだと魔法陣を解析しようにも基礎がまったく不足していますが。


 だから、魔法陣の解析がある程度できたのは私の才能というより、本当は日本の教育システムのおかげなんですけど。


 ただ、逆に教育を受けた身からすると、数学と化学はともかく、そこにオカルトは混ぜるな危険ですよね。だから、最初はなかなか抵抗があって。


 そこに目を瞑って、気にせずどんどん混ぜます。混ぜて、混ぜて、混ぜまくった果てに魔法陣があり、魔法の発動があることがわかったので、いまでは平気で混ぜ混ぜしてますけどね。


 この重力操作の魔法も5代前の先祖が開発した『体重軽減による移動速度上昇』の魔法陣を解析していたときに、体の重さを減らすのではなく、自分のまわりの重力を0.8G程度にしているのではないかって気づいたのでした。


 あとは0.8Gという数字を大きくしたり、小さくするにはどうしたらいいのかと、自分だけでなく、指定した任意の地点に魔法が発動するには魔法陣のどこを改良すればいいのか、それを実験すれば完成します。


 そして、この世界の人たちにわかりやすく誤解してもらえる技名をつけておきました。


 魔法の運用としては魔法陣と魔力のみで、技名は発動のトリガーにすぎず、無詠唱でも可能は可能ですけど、私の場合、まだまだ発動速度と安定性に難がありまして。


 中二な呪文は実戦的ではありませんし、だからといって無意味な技名ではトリガーとして不足気味ですから、私には意味があって、他人には理解できない技名がかっこいいですよ!



 私だけの必殺技ですから!


 


 私だけの必殺技ですから!


 


 大切なことなので、もう一回言っちゃおうかな? 私だけの必殺技ですから!


 


 まあ、その途中で失敗して重力に潰されかかったことは何度もあるので、いまの敵の気持ちはわからないでもないですけどね。


 まず、肉体が耐えられません。根性とか、そういう精神論が通用する世界ではなくて、血管にかかる血圧がものすごいことになるので、どんなにがんばってもブチブチと毛細血管が破裂していきます。


 骨だって持ちませんよ。体重+甲冑ですから余裕で100キロ超。それが10倍で1トン超になるのですから、軽自動車を2本の足で支えるようなもの。


 あんまりがんばると腰や膝が壊れて騎士を引退しなければいけなくなるよ?


「ぎゃっ!」


「あっ、あっ……」


 腰か、膝か、足首か、だいたい関節が壊れますね。


 もう地面に這いつくばるしかありません。


 でも、手加減はしません。私は10人に向かって宣言します。


「わたくし、ルイーズ・カサランテ・ラクフォード・エラ・ストレリツィは侯爵家の一族として無礼な行為を咎めます。ただし、すべてを喋ると約束するなら助命はしましょう?」


 あと裏切って、あっさり私を引き渡した護衛はギロチン――というのが悪役令嬢として正しいと思いますが、首チョンパーを見物して楽しむ趣味はないので……どうしましょう?


 おしおきしないわけにはいかないですけど、どんなのがいいのかな?


 いえ、勘違いしないでくださいよ? 私の個人的趣味でおしおきするわけではありません。


 物事にはケジメってものがありますから。


 この盗賊の手下たちにしても侯爵令嬢にケンカを売るなんて身の程を知らずの行為をやって高く伸びた鼻をポッキリ折られたのですから、私としては「これをいい経験として一層精進するように」と上から目線で説教して済ませてもOK。


 だけど、誘拐事件を説教程度で済ませてしまうと世の中の秩序が保てないんですよねぇ。


 勝手に自刃でもしてくれれば私が楽できるんですけど



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