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とんだ羞恥プレーですよ



 助けた馬車は知り合いの商人のものでした。どうやら私が知っているのは父親らしく、この商隊の責任者とは会ったことがありませんが、20代の後半から、せいぜい30前後の、商人としてはまだまだ若手な人物。


 そのせいでしょうか。私としては情報を仕入れているだけのつもりでしたが、隣に座っている青いとんがり帽子の魔女さんから嫌みを言われてしまいました。


 しかし、こういうときは冷静に対処したほうがいいでしょうね。せっかくの旅の仲間ですから、ちょっとした誤解から険悪な関係になってもつまりません。


「そういえば、わたくしは名乗りましたが、あなたのお名前はまだ伺っておりませんでしたね?」


「リレンザ。あんたの本当の名前を教えて」


「本当もなにも、生まれたときからこの名前でしたが?」


 意味がまったくわかりません。


 するとリレンザは大きくため息をつきました。


「あんたね、空色は特別なんだから! ルイーズ・カサランテ・ラクフォード・エラ・ストレリツィ侯爵令嬢、知らないの?」


「まあ、まったく知らないと申したら嘘になるでしょうね」


「高貴な生まれで、次のストランブール王国の王妃となる素晴らしい方よ。あんた、ちょっと尊敬の念が足りないんじゃないの? 魔法士としても超がいくつもつく一流の腕前。凶暴な魔獣の巣窟になっているストレリツィ山脈を幼いころから1人でお散歩していた、魔獣討伐のエキスパートなんだから」


 いや、わざわざ教えてくれなくても、たぶん私のほうが詳しいよ?


「はいはい、それくらいで――」


「だから、あんたは尊敬の念が足りないと言ってるのよ! いい? 彼女は『碧天を翔る空色』という異名まで持っていて、彼女に憧れる魔法士は大陸中にいるだから。空色に似た色のものを身につけるのは彼女に敬意を捧げてるという意味になるのに、あんたのそれはなんなの?」


「水色です」


「ひょっとして、あたしをバカにしてる?」


「してません。本当に水色です」


 空色って別に私が自分で名乗っているわけじゃなくて、どっちかというと恥ずかしいからやめてもらいたい! もともと私は水属性魔法が一番得意だったのと、たまたま革をきれいに染められる染料を発見したから装備を水色にしたかったんです――みんなから空色、空色と呼ばれますので、最近は開き直って自分でも空色装備なんて呼んでますけど、どっちかというと自虐ネタですよ、コレ。


 リレンザにはルイーズ・カサランテ・ラクフォード・エラ・ストレリツィという人のことは誰よりもよく知っているからいろいろ教えてくれなくても大丈夫と止めたかったのですが、どう説明していいのかわかりません。


 いまは身分を隠して極秘任務中。


 だから、言うに言えなくて……なんの罰ゲームなんでしょうね?


「あんたも本当は『碧天を翔る空色』のファンなんでしょう?」


 そんな恥ずかしい2つ名の人なんて知りません。ただの『空色』と呼ばれるのだって結構な抵抗があるのに、『碧天を翔る空色』なんて冗談ではありませんよ。


 しかも、これ、そう呼んでいる当人たちは敬意を持ってるつもりなのです。


 リレンザもうっとりとした表情で『碧天を翔る空色』と口にしているのだから、こっちはゾゾゾと全身に鳥肌が立って、ギャーと叫びたくなりますよ。


「そういえばストランブール王国の第一王子ってどんな方なのかな? きっとストレリツィ様にとてもよく似合う素敵な男性なのでしょうね」


 とうとう第一王子まで礼賛しはじめました。これはいけません。ちゃんと真実を教えておかないと。


「わたくし、噂を耳にしたことありますが、剣の能力しかないような方らしいですわ」


「剣の達人ですのね、天才魔法士にお似合いだわ」


「剣だけ達人のようですわ」


「一度でいいから直接拝見したいな。結婚式のあとパレードやるかな? 朝から並んだらよく見える場所がとれるかな?」


「どうでしょう?」


 パレード以前に結婚式をやる予定がないのですが。あるのは婚約破棄の予定なのですよ、ごめんなさいね。


「そうよね、朝から並んだくらいじゃ無理よね。前の日には場所取りしないと」


 それからもリレンザがルイーズ・カサランテ・ラクフォード・エラ・ストレリツィを大絶賛するものですから、Eランク冒険者ルイーズとしては悶絶ものですよ、本当に。














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