助けた商人さんは?
オーガに襲われている馬車を発見。異世界テンプレだ、よくあるパータンだと大喜びして助けに入りました。電撃の魔法で蹴散らしてやりましたよ。
「改めて自己紹介されてもらう。『黒十字血盟団』のリーダー、マレックだ。助かった」
「Eランク冒険者ルイーズです」
戦闘終了後、私のところにやってきたマレックはこっちの自己紹介を聞いて変な顔をしました。
「いや、オーガを一撃でEランクはないだろう?」
「実際Eランクなので」
首からさげた冒険者の登録証を見せました。
「いや、これは……まあ、本当にEランクなんだな……」
首を傾げていますが、それが事実なのだからしかありません。まあ、がんばって、そのうちランクを上げますから。
ひっくり返った馬車を起こしたり、散らばった荷物を積み直す間、怪我人の手当も手伝いました。幸い致命的な怪我はなく、ちょっとした傷や打撲ばかりでしたので、オーガの集団に襲われたにしては損害が少なかったほうだと思います。
「ねえ、あんた」
一緒に負傷者の手伝いをした魔法士の女の子に声をかけられました。私と同年代でしょうね、長く伸ばした黒髪に勝ち気そうな瞳が特徴の、かわいいというより美人な雰囲気です。とんがり帽子をかぶっていて魔法士というより、とっても若い魔女みたい。
そのとんがり帽子は真っ青で、とても目立ちますね。
「Eランク冒険者のルイーズです」
「装備も空色なら、名前まで……あんまり失礼じゃない!」
「失礼? わたしく、なにかしましたか?」
一緒に負傷者の手当てをしただけです。それで失礼とは……なるほど、わかりました! きっと私が手当てした中に彼氏か、まだそこまではいってないものの気になる男性がいたのでしょう。なのに、私が横からきて勝手に傷薬を塗ったり包帯を巻いたから怒ってるんですね。
ヤキモチ、かわいい!
しかし、これは謝っておいたほうがいいですね。このパーティーには、このパーティーなりの人間関係があるのに、いきずりの私がかき回すような形になっては禍根が残ります。
「それはそれは申し訳ありませんでした」
「……なっ!」
「やめろ」
ゴンと彼女の頭にゲンコツをくらわしたのはリーダーのマレックでした。
「もしルイーズが加勢してくれなかったら、俺たちは全滅していてもおかしくなかった。くだらんことで恩人にカラむな」
そんなふうにたしなめておいて、私にこれからどうする予定なのかと尋ねてきたので、帝都までいくと答えました。
すると同行しないかと誘ってきたのです。
考えてしまうところですね。時間的にいえば1人でいったほうが早いです。また、私は私でオトエサの仲間に狙われる可能性がありますから、この人たちを巻き込んでしまうかもしれません。
一方で護衛の依頼はやってみたいですよね、いかにも冒険者って感じで。
「わかった。ここから帝都まで2日あれば着く。それで金貨5枚だ」
なにがわかったのか、いきなりマレックが報酬の話をはじめました。
そういえばヌーベルトの冒険者ギルドでどんな仕事があるか見ていたとき、護衛の仕事の相場は金貨1枚から、せいぜい2枚だったはず。2日の仕事で金貨5枚ということは、1日あたり金貨2枚半。つまり相場より多く出すということは――私が安い報酬で引き受けるのを嫌がっていると思っているようです。
いや、そんながめつくありませんから!
「2日で5枚でも駄目か……それなら――」
「やります、やります」
もっと上がりそうだったので、慌てて引き受けました。
ひっくり返った2台の馬車のうち、1台はどうやら修復できないほど壊れてしまったようで、4台の馬車で再出発しました。
私はマレックに探知魔法が得意で魔獣の気配なら事前にわかると申し出ると、先頭を頼まれました。するととんがり帽子の魔法士も着いてきます。
先頭の馬車の御者台に座らせてもらうと、商人さんに挨拶しました。
「Eランク冒険者のルイーズです」
「この商隊の責任者であるナーラック・ライゼンだ。さっきの魔法は見事だった」
「ありがとうございます。ひょっとしてストランブール王国にあるライゼン商会と縁が?」
「オヤジの店だな」
「跡取りでしたか。それはそれは。帝国にも支店があるのですね」
うちの領地に出入りしている商人の息子でした――狩ってきた魔獣を買い取ってくれるので、いつも小遣いには不自由してないんですよ。高価買い取りしてくれる、とてもいい商人ですから、この護衛は絶対に成功させないといけないですね。
なかなか律義な商人さんで最初はネックレスと裏山で拾った魔獣の骨みたいなものと交換したんですよ。
うちの一族は基本的に戦闘民族なので、なにかプレゼントをくれるときは武器とか防具とか、そんなのばかり。領地にある街でも魔獣討伐グッズを扱う店がほとんど。
女の子なんだから可愛いものとか、綺麗なものが欲しいんですけどね、私は。
たまたま行商にきていた商人がネックレスを売ってて、それを譲ってもらったのですが、何か月かして、たまたま再会したら交換した魔獣の骨みたいなものが意外と高かったらしく、お釣りとしてイミテーションではなく本物の宝石がついたネックレスをくれたのです。
嬉しかったですよ、あのとき。いまでも大切にしてますもん。イミテーションのほうも、本物も。
その息子さんでしたか。
「オヤジから任されていてな、失敗はできないんだ。さっきの襲撃で荷馬車を1台、荷物も載せきれないものが少し出て、かなりギリギリなんだ。これ以上損害が出ないようにしてもらえると助かる」
「確か互助金という制度があったように記憶しておりますが? もしかして、あれは積み荷だけで馬車の損害補填はされないのでしょうか?」
「少しはカバーできるがな、やっぱり損害は少なければ少ないほどいいんだ」
「できうる限り努力いたします」
「期待してるぜ。しかし、結構な美人だな」
「はあ?」
「いや、わざわざ冒険者みたいな危険な仕事をしなくても、いくらでも稼げそうだと不思議に思ってな」
「美人だと稼げますか?」
不細工より美人のほうが得をすることが多いような気はします。男性でもイケメンはイケメンというだけでチート能力があるようなもの。
ただし、それが直接金銭に結びつくのでしょうか?
そういえばヌーベルトでいろいろ冒険者のことを教えてくれたユノが女性冒険者は娼婦になれないような奴がやるとか、なんとか言ってたような記憶が。
すると冒険者をやるより、娼婦のほうが稼げるという意味なのでしょうね。あまり嬉しくない、褒められた気がしません。
しかし相手は依頼人です。それに、それが冒険者の実態なのでしょう。適当に聞き流せばいいですかね。
「魔法が得意だったもので」
「魔法士として立身出世を目指すつもりか? 腕がよければ冒険者出身でも貴族のお抱えになることもあるらしいな」
「そのように聞きます」
「いいことがある。俺のオヤジが出入りしている貴族の家で契約騎士という制度があって、腕のいい魔法士ならそいつになれるかもしれない」
「それも聞いたことありますわ」
「なんなら、オヤジに頼んで紹介してやってもいいぞ」
それ、たぶん私の家のことですよね。わざわざ紹介してもらう必要はないというか、私が私の家の契約騎士になるわけありません。
そんなやりとりをしていましたら――
「媚び売っちゃって」
隣から魔女さんが嫌みを投げつけてきました。
 




