攻略完了? それ、駄目です!
なぜかアルフレッド様が私のお父様との面会を求めています。なぜでしょう? ちょっと用件が思い当たりません。
政治的なものでもなさそうですし、魔獣の希少部位が欲しいなんて話でもないようで、ましてや侯爵家の契約騎士になりたがるとも思えないですから。
「わたくしの父との会見を求める理由を教えてくださいますでしょうか?」
わからないことは、わかる人に訊くのが一番。
「いや……その……ルイーズ殿はわたしのことをどう見ているのだろう?」
あれれ? お父様の話しだったはずが、いつの間にか私のことになっています。
「立派な伯爵様におなりになると思いますが。歴史学者としても今回のことだけでも大変な業績になるかと」
「そういうことではなくて……つまり、その今回の件でのことでルイーズ殿には強い恩義を感じている。道中での会話も印象深く……わたしはルイーズ殿のことを好ましく思っているのだが」
はっ???
いや、なんか、この人、いくらなんでもチョロ過ぎでしょう?
好感度を上げるだけのつもりが、攻略しているとは、なにしてるんですかね、私。
おい、部屋の隅で控えている執事、ちゃんと主を止めろよ!
「それはそれは光栄なことですが……」
えとえと、これ、どうやって誤魔化しましょうか?
きっと、これが吊り橋効果というものなんでしょうね。言葉としては知っていても、実際にあるとは思いませんでした。ハリウッド映画の中だけの現象ではないんですね。
「伯爵家だから釣り合いがとれないところはあるが……」
「そうですね」
この大陸で現在もっとも栄える王国の侯爵家からすると、どんどん落ち目になる帝国の伯爵では格落ちもいいところ。それに私、まだ婚約者がいます。いずれ婚約は破棄される運命になるとしても、実際に破棄になる前に別の人と結婚の約束をするわけにはいきません。
しかたないですね、たまには第一王子に役立ってもらいましょう。
「わたくし、婚約した男性がおりまして」
「なんと!」
「せっかくのお話ですが」
「しかし、帝国の伯爵では比較にならないだろう?」
「それは確かに」
落ち目の帝国の伯爵と、大陸一の王国の次期国王である第一王子を比較するまでもありません。
「ルイーズ殿、身分差などはなんとかなると思うのだ。貸しのある貴族が何人かいるので養女ということにしてしまえばいい」
アルフレッド様、なにやらがんばっています。
しかし、私が帝国の貴族の養女になって身分差を埋める意味がわかりません。まあ、侯爵令嬢から子爵令嬢にでも落ちれば、まあまあ身分差が埋まるのは事実ですが。
まあ、吊橋効果なんて長続きするようなものではないと思いますので、しばらく冷却期間をおけば元に戻るはず。ということは、いまやるべきは早急な伯爵領からの脱出。
「わかりました」
「わかってくれたか?」
「婚約者のこともありますので、一度、父と相談いたします」
「ルイーズ殿のお父上も帝国の伯爵と聞いたらびっくりするであろうな」
「それはそれは驚くと思います」
娘が欲しいなら俺を倒してみろ、と2メートルくらいある大剣を振りまわしますね、たぶん。
食事のあと、泊めてくれるというのを振り切って私は伯爵領から去りました。
「わたしとのこと、一刻も早く父上に報告したいのだな。そういうことならしかたない」
アルフレッド様はなにやら変なことを呟いていますが、先を急ぐので緊急脱出しました。