ダンジョンの歩き方
壊滅しつつあったパーティから託されたアルフレッド様は伯爵領を継ぎ、その地にある魔獣が吹き出してくる穴を封印した遺跡を発掘したかったのですが、もちろん周囲は大反対。
せっかく封印してあるのに、わざわざ掘って魔獣が吹き出てきたらどうするつもりなのでしょう? 歴史学者として高名な伯爵家が強力な騎士団を抱えているとも思えませんし、下手をすれば――しなくても、たぶん大惨事。
アルフレッド様の仮説によると問題の封印の穴は、このマグラナカン峡谷のダンジョンとつながっているとのこと。
ならば反対にマグラナカン峡谷のダンジョンから伯爵領にいけるか実験することにしたと言う。
「でも、目的地が塞がっているなら、たどり着けたかどうか判断できませんわ」
私は疑問に感じたことを口にしました。
「我が一族は歴史研究に力を注いできたから、君のように戦闘用の魔法はさっぱりだが、発掘などに役立つ魔法は結構いろいろ伝わっていて、いま現在どこにいるのかわかる魔法もある」
「どっちの方向に進めばいいかも?」
「無論だ。我が伯爵領はこっちにいけばいい」
アルフレッド様はビシッとダンジョンの奥を指しました。
トコトコとダンジョン散歩です。とにかくマグラナカン峡谷のダンジョンというところは渓谷までくるのが大変なのと、内部は深層が殺しにきているとしか思えない難易度なのですが、比較的浅いところはそうそう危険はありません。
サーチライトをつけっぱなしでは目立ちますし、魔力の浪費でもありますから、ライトの魔法で前方4、5メートル先を照らしておいて、あとは探知魔法で警戒しておけば、まず大丈夫。
ときたま魔獣が出てもアルフレッド様は私の隣にいるのですから、接近される前に鏖殺ですよ。
かなり余裕があるのでアルフレッド様にいろいろ教えていただきました。和平工作としては父親と同じような歴史研究をしていてくれるとよかったのですが、彼は記録の残る以前の歴史が専門とのこと。
それならそれで今回の件の情報を仕入れることができます。
こうやって私がダンジョンにもぐっているのも帝都の和平派貴族に会いにいくという理由もありますが、それにくわえて帝国の近衛騎士団がアグリファットの遺跡でなにをしているのか探りにいくのも大きな目的となります。
そして、そのアグリファットの遺跡というのが500年前の魔王の侵攻で人類の抵抗拠点となった大規模要塞なのでした。他の軍事施設の遺跡とはサイズ感があまりに違い、魔王と戦う人類の最後の砦だったという説も有力視されています――帝国においては定説ですね。
「アルフレッド様はアグリファットの遺跡を実際にご覧になったことがございますでしょうか?」
「あるな。そもそも帝国の貴族でアグリファット要塞を見たことないという者はいないと思う。貴族向けの学校がいくつかあるのだが、どこであろうと見学に一度はいく。極端な虚弱体質など、どうしても学校に通えなかった貴族は別だが、およそきちんとした教育を受けていればいったことがないはずがない。我が帝国の祖先たちが立て籠もり、見事に魔王に打ち勝ったのだから」
「ああ、なるほど。帝国の誇りともいうべき遺跡になるのですね?」
「ルイーズは帝国の生まれではないのか?」
「わたくしはストランブール王国の生まれとなります。そもそも生活拠点があちらにありまして、どんなに長くても来月には戻ります」
「ストランブール王国民か」
「つきましては帝国の常識に欠けると感じられるところがありましてもご容赦いただけたら幸いです」
「アグリファット要塞の見学は帝国で教育を受けた者にとっては常識だが、例えば帝国民でも学校に通うゆとりのない者などは知らないほうが普通だ。ましてや他国の人が知るはずもないな」
「お許しいただいたところでアグリファットの遺跡の話に戻りますが、アルフレッド様もあれを魔王との最終決戦で使われた要塞であると考えているのでしょうか? おっと、ちょっとお待ちを! 光よ、集いて彼方を照らせ……切り裂く水の刃! 切り裂く水の刃! 切り裂く水の刃! 失礼しました。ポイズンバットの群れがいたもので。光で照らして先頭の数匹をたたき落としたら残りは逃げていったので、もう大丈夫です。それでお話の続きですが、これは帝国の方々の魔王討伐の栄誉を否定するようなものではなく、単純に学術的な話なのですが」
「………………一瞬だったな」
「あれは数と、噛みつかれると血を吸われ、かわりに毒を流し込まれるところが面倒ですが、たいして強くないので問題ありません」
「そんなものか?」
「はい。それより学術的見地での魔王討伐についてですが」
「帝国でするには、いささか障りのある話だな、単純に学術的な観点であっても――それはともかく、遺構としては要塞または城あるいは極端に規模の大きな砦のように見える。また、かなり激しい戦闘の痕跡と、戦死したであろう兵士の埋葬跡も発見されているな。もっとも、それをもって魔王との最終決戦に使用されたと断定するわけにはいかないから、確定できるだけの証拠はない、というのが現実的なところだろう。これ以後に建造されたと見られる遺跡に戦闘の痕跡が残ってないなど、いくつか状況証拠のようなものはあるが」
「わたくし、別に否定したいのではなくて、そもそも魔王の侵攻があったのか? いえ、そもそも魔王とは何者だったのか、という疑問を抱えておりまして」
「なるほど……まず魔王とはなにかを定義するところからか。おとぎ話によれば千万の魔獣の統率者ということになるだろうな」
「これは冒険者としての意見ですが、ドラゴンなど一部の上位魔獣を除くと、ほとんどの魔獣は知性というものを感じられません。従えるといっても言葉すら通じないの――光よ、集いて彼方を照らせ。切り裂く水の刃! いまウォーターカッターで2つになったオークにしたところで、ゴブリンやコボルドよりは上位になりましょうが、頭はそんなによくないと思われます」
話を邪魔するオークは真っ二つです!




