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護衛の仕事を説明してもらい、護衛を雇うの巻




 冒険者ギルドの仕事はさまざまで見ていてまったく飽きません。まあ、冒険者なんてかっこよく言ってみても内容的には日雇い雑役みたいなものも多いですけど、みんながみんな戦闘能力が高いわけではないですしね。 


 そういう仕事を私が横から奪ってはいけません。しかし、それ以外の仕事ならなんでも引き受けていいのかというと、それも疑問があります。


 特に護衛に関しては、どうやら狙われているっぽい私が他人の護衛なんてやれるわけがないですよね。下手をしたら護衛対象を巻き込んでしまいますから。


護衛のせいで危険度が上がったら駄目ですよね、やっぱり。


 ただ、将来的にはそんな仕事をするかもしれないので、仕事の内容だけはきちんと確認しておきたいところ。


「護衛は1日あたり金貨3枚くらいが相場でしょうか?」


「まずまず相場じゃねーの? あまり安いと誰も手をあげねーし、低レベルなのが何人か集まったところで、邪魔になるだけだし」


「例えば、わたくしがユノを1日あたり金貨3枚で護衛として雇うことも出来まして?」


「ギルドに指名依頼を出せよ。ただし冒険者の報酬は金貨3枚でも、依頼人のほうは5枚くらいはとられるけどな」


「ギルドは意外とボッタクなのかしら?」


「まあ、ギルドの運営費もあるが、護衛については互助金の分もある」


 ユノが説明してくれたところによると、お金の一部は積み立てられ、依頼が失敗した場合――例えば途中で積み荷が奪われたとしたら、その補償に当てることになっていると言う。


 つまり保険みたいなシステムがあって、その保険料を込みにした値段なので高くなるらしい。


「だから、盗賊のほうが圧倒的に人数が多いなど、絶対に勝てないという状況であれば降伏も許されるぞ」


「護衛という割には、あんまり緊張感のない仕事なのですこと」


「パーティーとしても、冒険者個人に関しても、護衛失敗という記録が残るからな」


「失敗ばかりだと護衛の仕事が出来なくなってしまうのかしら?」


「まあ、どんな仕事であろうと失敗すると冒険者として傷がつくぞ。特に、ここのところ地方の寒村から逃げ出してきたような連中が増えていて、紹介状もなにも持たない奴が手っ取り早く稼ぐなら冒険者だろ? 新しく登録する奴がどんどん現れるんだから、仕事に何度も失敗するようなボンクラはいらん」


「なるほど……互助金のことは理解いたしました。逆に盗賊たちはどうなんでしょうか?     降伏すると両手を上げたら認めるのですか? 犯罪者に決まり事を守らせるのは無理ではないかと考えますが」


「あまりに凶悪だと大規模な討伐隊が出てくるだろうな。戦えばたいてい負けて、運がいい奴は殺されて、運の悪い逮捕者は見せしめになるように、できるだけ残虐に処刑されるなぁ」


「勝てないなら逃げればいいのに」


「盗賊にも縄張りってもんがあって、隠れ家や拠点があって、買収のきく門番がいる街があって、訳ありと察しながらも黙って買い取りしてくれる商人がいるわけだ。そうそう簡単に遠くにいったり、ましてや他国に逃げたりはできないんだよ」


「アウトローがこのくらいなら大丈夫かな?と気にしながら犯罪行為に手を染めているのですね」


「まあ、アウトローだからといって本当に好き放題してたら、すぐに首がコロリと落ちるだろうな」


「世知辛い」


「いやいや、犯罪者に世知辛いほうが健全だろ?」


「そういえばそうですね。護衛の仕事についてはだいたいわかったと思います。それではユノに護衛の指名依頼をしてきましょう」 


「えっ! 本気か?」


 受付に並んだ私を慌ててユノが止めよとしましたが、念のため「ひょっとして、わたくしの護衛のような仕事はしたくないのですか?」と少し悲しそうな顔をして訊いてみたら、すぐに「引き受ける」と頷いてくれました。


 ところが頷かれた瞬間、本当に悲しくなる事実に思い当たりました。仕事をしてもらって給金を払うのは当然のことですが、趣味嗜好に金銭のやりとりは問題です。


 具体的には護衛に護衛の仕事をしてもらい報酬を払うのは問題ありません。


 しかし、護衛という名目で雇って、実際には耳や尻尾をもふもふさせてもらうと金で男を買ったみたいになってしまうんですよ。


 侯爵令嬢で、未婚で、婚約者がいて、なのに金で男を買ったと噂になっては困ります。


 雇う前になんとかして耳の先っぽくらいは触っておけばよかった。


 内心の葛藤はともかく、実際に依頼票が発行されると、すぐ隣にいたユノに渡し、その場で受託したことになりました。


 ついでにEランクに上がった登録証ももらいます。


「要するに、どういうことだ?」


 ギルドの建物を後にしつつ、ユノが尋ねます。


「1つは街の案内ですね」


「それだったら依頼とか仕事じゃなくても案内してやったのに」


「もう1つが問題で、ある方に私信をお渡ししたいと連絡してあるのですが、わたくし、たった1人でいきたくないのです」


「ああ……強面の護衛がついていたほうが話が早いわけだな? そういうことなら仕事だ。ちゃんとやるぜ」


 ユノが胸を張って引き受けてくれました。


 やれやれ、安心です。


 領主であるレアット子爵にお父様の手紙を渡さないといけませんから街に入るときに衛兵に伝言しておきましたが、まさか侯爵令嬢が侍女も護衛もつけずに訪問するわけにはいかないですからね、体面というものがありますもの――本当は最低でも数人の護衛と、それに侍女が欲しいところですが、あまり贅沢を言ってもしかたないですよね。


 たぶんメーラント共和国のスパイみたいな人たちは何人も入り込んでいるのでしょうが、まさかユノに仲間のスパイを呼んでもらいたいと頼むわけにもいかないですし――メーラント共和国の軍人なら味方になってくれないとは思いますが、敵にもならないはずなので、正体不明な冒険者を護衛や侍女として雇うくらいなら、ユノとその仲間たちがいいんですよね。


「まだ、はっきり決まっていませんが、遅くとも2日か3日もあれば会見の段取りが出来るのではないか、と」


「依頼票にも最大で3日とあったな。それから、今日は街を案内してやろう」


 ユノはどうやら下町を案内してくれるようです。護衛がいるのならスラム街がどんなところか見てみたいところでしたが、冒険者だからといって、わざわざ冒険することもないですよね。


「あっちに気になるものでもあったか?」


 どうやら私がスラム街のほうを見ていたのに気づいたようです。


 このヌーベルトという街はリゾート地として有名で、温泉もあるし、湖で泳いだり、安全が確保された森でピクニックを楽しんだりできるんですよ。地理的にはマグリティア帝国になるのですが、ちょうど国境沿いということでストランブール王国の貴族や庶民でも咎められることはありませんし。


 ダンジョンだっていくつもあります。護衛付きのガイドがついたツアーから、高難易度のものまで。広いダンジョンなんか隣の街の近くまで続いているんですから。


 騎士団の精鋭を連れてきてダンジョンで戦わせたり、他の貴族とどっちの騎士団が優秀かタイムアタックで勝負するなど、刺激的なバカンスが楽しめるので有名なんですよ。王国と帝国の貴族が勝負することになったら、結構な大金が賭けられるという噂もありまして、かなり盛り上がるみたい。


 この私も名目としては避暑にきているとこになっていて、いちおう学園のほうにもそのように届けてあります。帝国にいくのにヌーベルトに遊びに行くというのは、そうそう怪しまれない口実になるほど王国でもリゾート地として有名なのでした。


 当然、お金を持っている観光客が見たくないものは街に存在しないことになっています。つまりスラム街なんて楽しい観光地にはあってはならないもののはず。










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