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君は僕の可愛い男の娘 エピローグ

浜辺では冬のイルミネーションが始まっていた。


冷たい海風を温かく包む光の空間の中で、クリスマスソングが静かに流れる……

それはとてもロマンチックな光景だった。

今年も一人かと思って諦めていたのに、今こうやってシュウと並んで歩いているのだから不思議だ。


「ごめんねチロ君。イヴの日は会えなくて……」


年末年始は救急車の出動が急増するシーズンで、それはクリスマスも例外ではない。

救命救急医のシュウにとって、その時期は休みなど取ってる場合ではないのだ。

しばらく会えないことをシュウは申し訳なさそうにしているけれど、仕事なんだから仕方がない。

俺はこうやってクリスマスムード満天の砂浜をシュウと歩けるだけで、嬉しくてワクワクしていた。



「じゃあ今日が俺達のクリスマスにしよっ。俺、この後ラーメン食べに行きたいっ!」

「クリスマスディナーがラーメンか。いいねっ。」



一通り見て回ったあと、俺達はイルミネーションを見渡せるベンチに腰を下ろした。

浜辺を300mにわたって彩るオレンジや青、白色などの電飾は光の絨毯のようで、要所ごとに星座や天使やペガサスなどのオブジェが幻想的に浮かび上がっていた。


まだ12月に入ったばかりなのに、夜ともなると全身が凍りつくほど寒い。

すっかり冷たくなってしまった指先を、シュウが優しく包んで温めてくれた。

シュウに手を握られるとどうしてこんなにも温かく感じるのだろう……

とても心地が良い。

僕は人より体温が高いからだよとシュウは言うが、それだけではないと思う……


手の平に違和感を感じて見てみると、小さな丸いものが乗せられていた。



「……なにこの輪っか。部品?」

「チロ君、それワザと言ってる?それとも天然?」


シュウがその輪っかを手に取り、俺の左手の薬指に付けた。

「良かった。サイズぴったり。」

えっ…これってまさか……

シュウも指に同じものを付けてニッコリと笑っていた。


「エンゲージリング?!」

「そうっペアリン……」

シュウがキョトンとした顔で固まった。

間違えた!恋人同士なんだからペアリングだっ!


エンゲージリングって、婚約指輪じゃん……



「チロ君はエンゲージリングの方が良かった?」

「シュウ…あのっ……」


「プレゼント渡したとたん、次のをオネダリをされるとは思わなかったな~。」


言い間違えたのがわかっててシュウがいじめてくる。

シュウからのプレゼント、めっちゃ嬉しいのに、恥ずかしさの方が上回ってお礼が言えないっ。


「そっかーチロ君は僕と結婚したいと思ってるのか~。」

「もうっシュウ!!」




「僕も思ってるよ。ずっと離さない。」



シュウが甘えるように俺の肩に頭を乗せてきた。

シュウって不意に甘えてくるんだよな……

ダメだ…顔がニヤける。

シュウといるとドキドキしっ放しだ。



「シュウ、プレゼントありがとう……大事にする。」


毎日忙しいのはずなのに、シュウはちゃんと俺へのプレゼントを考えてくれてたんだ……

姉ちゃんに俺達のことを伝えるのも、シュウは僕から言うといってわざわざ休みを取って家まで来てくれた。

最初はどこから突っ込んでいいのやらと言っていた姉ちゃんも、シュウの実直さに安心してすんなりと認めてくれたんだよな。

つくづく俺って愛されてる、なんて思ってしまう……



「シュウごめん。俺、クリスマスまでまだまだだったから用意してきてないや。」

「いいよ。チロ君は高校生なんだから。」


「それはあかんっ。俺からもシュウになんか渡したい!」

「じゃあ今もらっていい?」



シュウが俺にキスをしてきた。

なんでいつもこんなごく自然な流れで出来るんだろう……大人ってズルい。

周りにいっぱい人がいてるのは気にならないんだろうか……

恥ずかしいやら嬉しいやらで顔が真っ赤になってしまった。


「そんな顔されたら、チロ君にやらしい診察したくなってくるな~。」


なっ……!爽やかさの塊のようなシュウからそんな言葉が出てくるだなんて!!

リアルお医者さんごっこじゃねえかっ!












ずっと彼女が欲しいと思っていた俺が好きになったのは、大人の男の人だった。



────LGBT。

この用語をちゃんと説明出来る人は少ないだろう。


L・・・女性同性愛者(レズビアン、Lesbian)

G・・・男性同性愛者(ゲイ、Gay)

B・・・両性愛者(バイセクシュアル、Bisexual)

T・・・トランスジェンダー(Transgender)


この4つの単語の頭文字を組み合わせた表現であり、「性の多様性」と「性のアイデンティティ」からなる文化を強調する肯定的な概念である。



別に偏見を持っていたわけではなかったけれど、俺とは無縁の世界なのだと決めつけていた。








「……シュウって俺のこと女の子って思ってる?」

「まさか。君は僕の可愛い男のコ。だよ?」


男のコのコがえらい強調して聞こえたのだが……


「コって子供のコ?それとも娘の方?」

「う~ん。どっちだろうね~。」


「絶対娘の方やと思っとるやろ?!」

「ねえチロちゃん。寒いしそろそろラーメン食べに行こうか?」


「なんでちゃん付けやねんっ!!」

「その後はどうする?僕の部屋に来る?」


「えっ…ちょっ……それはっ………」


部屋に呼んでなんかする気なのだろうか……

シュウになんかされるかもって…想像しただけでのぼせてしまう。

白衣姿のシュウが頭にチラつく……




「ほら、チロちゃん。照れちゃって可愛い。」

「もうっ、シュウ!!」








人は誰しも魅力的な人が目の前に現れたら、それが男か女かだなんて関係なく惹かれてしまうもんだと思う。




LGBT。


彼らや彼女らは特別な存在ではない。

自分に正直に生きただけだ。





俺だってそうだ。



八重歯を見せながら笑う無邪気なシュウにキュンてしてしまう……





そんな自分に、素直でいたかったから──────








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