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青い猫と白き罪人  作者: TKW
第1章 別れと始まり
2/2


「────で、どう思う?」


そんな言葉に反応して横を向くと、そこには幼なじみである友、山田祐二郎(やまだゆうじろう)の姿があった。


「ごめん、聞いて無かった」


「はあ?しっかりしろよな!何回目だよおまえってやつはよぉ」


しっかりと怒られたあと、ため息交じりに「だいたいさー」と、顔を覗き込んで来る。


「なんか今日変だぜ、おまえ」


俺は変らしい。

変、そんな言葉を受けて少しその元凶を考えてみることにする。

思い当たる節は登校前、フードの女とぶつかった辺りだろう。

ただぶつかっただけなのになぜか引っかかる。

なぜ彼女はフードを被っていたにも関わらず、フード付きのパーカーのみという冬には厳しい服装だったのか。

なぜ彼女は俺の顔を見てからすぐに走り去ったのか。

一度考え始めたら止まらなくなってしまう。

こういうどうでも良いことを考えてしまうのは昔からの癖らしいが、やはり気になることは気になって────


「────おい」


パンッという音と共に頭の中で考えていた事が中断される。


「なぜ叩く」


「いや、数秒前に話聞けって言ったはずだろ」


「はっ」


「はっじゃねえよ。ほんとそういうとこ変わんねえよなお前」


頭を叩いた教科書で顔を仰ぎながら祐二郎はしょうがないと言わんばかりの表情で携帯電話をポケットから取り出し、先程までの会話に戻る。


「最近、変死体が増えてるっていう話を(いくさ)も知ってるだろ?」


「あぁニュースで何度も報道されてるしな」


──松城区連続変死体事件。

現在死者数6人。

犯人は未だ見つかっておらず、松城区間で6人の成人男女が死体となって確認される。

死体には共通点があり、すべての死体には必ずどこかの部位が無くなっており、噛みちぎられたような跡が残っているそうだ。


「で、それがどうした?」


「俺、犯人らしき人物を見たかもしれないんだよな」


「え、まじかよ」


「うん、昨日部活終わるの遅くて夜帰ってたんだけどさ、学校前の路地裏にめっちゃデカい男が入って行ったんだけど、姿が見えなくなる瞬間目が合った気がしてめっちゃ怖かったんだよな」


真剣な眼差しで語る祐二郎の顔には確かに嘘を言ってるようには見えなかった。

そして、報道内容でも犯人が大男であることが判明している。

が、そこで大事なことを思い出す。


「報道では、前日に被害者全員が大男を目撃しているって聞いたぞ!お前やばいんじゃ無いのか!?」


そう、被害者全員が目撃した次の日の夜の0時ちょうどに殺されているのだ。

もし祐二郎が見た大男が本当の犯人だった場合、次に狙われるのは………。


「祐二郎…お前…」


「ああ、めっちゃやばい。で、だ。俺に作戦がある。」


指を一本立てて自信ありげにこちらを見つめた。

嫌な予感しかしない。


「普通に家にいたらバレて殺られそうだから家に帰らない!」


「…ん?それはそうだけどさ」


「え、なに!理解できない?あの俺より成績優秀な戦さんが!?」


「うるさい黙れ」


頭を机にぶつけて声が大きいバカを沈める。

ほら見ろ周りから注目を浴びている。

昼休みも無限じゃないし、早くこの話を終わらせたい。


「場所を移そう」


「ぐぅぅ…そうだなっ」


2人とも立ち上がり廊下を歩いていく。

そこで戦は先程の続きを振り向きながら話していた。


「さっきの家に帰らないっていうのは賛成だけど、問題は場所だ。ネカフェにでも泊まるのか?」


「いい提案だな!金貸してくれ!」


「聞いた俺がバカだったよ」


誰もいない廊下の隅で立ち止まる。

ここなら人通りが少ないな。

しかしどこに逃げればいいんだ。

そもそもこの話が本当なのかもわからんし、祐二郎の親御さんに迷惑かけられないし。

はたまた俺の家で(かくま)うのもな。

1人の世界に入り込んだ戦は顎に手を当てながら考える。

そこで祐二郎は無邪気な子供のような明るい声で提案をする。


「あるじゃん!いい場所!」



*


「で、ここになったわけだが…この後考えてるのかよ」


「腹へった〜」


「この単細胞が」


夜。

俺たちはどうにか学校の中に潜伏し、明日になるまで隠れるという作戦に入った。

これで大丈夫なのだろうか。


「安心しろよ。いかに最強の殺人者でも学校に隠れてるなんて思わないだろうがよ」


「それはそうだが、なぜ俺まで?」


「何言ってんだよ。俺たちは運命共同体だろ!?そしてお前断らなかったし」


当たり前のように俺まで付き合わされる。

グッジョブと親指を立てこちらを見つめる。

だが、祐二郎の置かれている状況を考えると断ることが出来なかった。


「ネットによれば0時まで見つからなければ大丈夫らしい」


「本当かよ、それ」


信憑性はないがそれに賭けるしかないな。

現在23時。

残り1時間。

窓から外を監視しながら会話しているが、流石は学校。

だれも近寄ってくる様子がないし大丈夫だろう。

と、思っていると祐二郎が肩を叩いて来る。

振り向くとさっきまで陽気だった顔は強張っていた。

視線の先を見ると、学校前のグラウンドから人物らしき影が学校に向かって歩いて来ている。

全身が黒ずくめで片手には何かを引きずっているようだ。

そしてなにより───


「───デカい」


身長は2メートルを越しており、肉のつき方を見るに体重は100キロを超えていそうだ。

あれが連続殺人の犯人なのだろうか。


「すぐに警察に電話しよう!」


「ああ……え!」


携帯を何回もかけ直しているようだが、繋がらないないようだ。

涙ながらに携帯を見つめていると、玄関の方から勢いよくガラスが割れる音が響く。

ここは3階の1番端の教室。

入ってきたとなれば見つかるのは時間の問題だ。


「なんで繋がらないんだよ!…くそ、くそ!」


「まて、落ち着け。大きい声出したらバレるだろ」


「黙れ!お前は何にも関係ないからそんなこと言えるんだろ!」


「…っ!」


祐二郎に言われ、腹が立ったがなんとか収める。

ここで俺が焦ってどうするんだよ。

祐二郎の焦りが止まない状況の中、戦は立ち上がる。


「場所を移動しよう、隣の棟に行くけば見つかる確率も低くなる」


自分の中の恐怖心を噛み殺し、幼なじみである友にそう伝える。

その様子を見た祐二郎は流れた涙を乱暴に拭き取り、戦の指示に従うように立ち上がった。


「取り乱してごめん、逃げよう」


戦は無言でうなずき、教室のドアを開けると、左右を確認してから耳を澄ます。

よし、近づく足音は聞こえない。行くなら今だ。

戦は先頭で祐二郎を誘導しながら歩いていると床には何かを引きずった後が続いていた。


「これはなんだ?」


「さぁ、でも俺たちとは反対の方向から続いているようだな」


跡を辿るか、そのまま隠れるか。

いや、迷うまでもなく隠れた方がいい。


「このまま隠れよう。何があるかわからない」


「そうだな」


進んで隠れてを繰り返して、時間を確認する。

現在23時50分。

残り10分。

今まで犯人とは遭遇していないが、逆に姿が無さすぎて気味が悪い。

どこかでに待ち伏せしているのか?

廊下を曲がった瞬間──


バリーーーンッ


「っ!!!」


「っ!!!」


すぐ前の教室からガラスが割れた音が響く。

いる。

すぐそこに。

気配を消して教室を覗き込むと、1人の大男が立っているのを確認する。

ずいぶんと暗い場所にいたおかげで目が慣れている。

顔を隠すための何かの皮でてきたマスクと、黒のハット。

自分の太ももくらい太い腕には大きな鉄の斧を持っていた。

あれが廊下にあった傷の正体か。


「戦あれは何してるんだ?」


「バカ、こっちにくるんじゃない」


「え────」


ギィィィ


祐二郎が踏んだ床は音を立てて(きし)む。

その音を聞き、大男は勢いよくこちらを振り向いた。


「走れええええ!」


わけもわからないように走り続ける二人。

学校の中を右へ左へと走っていく。

まずい、息が切れそうだ。

戦は走りながら背後を確認すると、そこには斧を振りかぶった大男がいた。


「避けろ!祐二郎!」


「え?」


その言葉に疑問を持った祐二郎は振り向くと、大男が何十キロもあろう斧を祐二郎に向けて投擲(とうてき)するが、ギリギリの所で避ける。


「痛ってーな……!」


祐二郎のすぐ横には、今飛んできた斧が壁に大きなヒビを入れて刺さっていた。

こんなものが刺さっていたら確実に死ぬ。

あの大男からどうにか逃げないと。


「ニンゲン、ミタナ。オレヲ」


「…!」


戦と大男の目線が被る。

窓から月の光で大男の姿が露わになる。

身体には無数の血の跡があり、大男のマスクからは蛆虫が沸いていた。

そういえば酷い臭いもする。

教室の暗がりで見た時よりも遥かに恐怖が増していき、もう足に力が入らない。

残り5分。

時間を稼がないと。


バタンッ


戦の後ろで何かが倒れる音がして振り返る。

そこには何かにつまずいたのか、裕次郎が倒れていた。

それを見た大男は不敵な笑みを浮かべ、立ち止まる。


「ハァァァ…ハァァ…」


大男が近づいてくる。

一歩一歩。

大男の重さで床が軋み、ギシギシと音を立てながら1mあるであろう腕を振り上げた。

潰す気かよこいつ。


「逃げろ裕次郎!!」


「わかってるけど、足に力が…!」


今までに無い焦燥感が裕次郎の身体をさらなる恐怖へと(いざな)っていく。

死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。死ぬ。

気がつけば涙が流れていた。


「コレデオワル…。」


大男は振り上げた腕を何の慈悲も無く振り下ろして────。


*


なんか思い残すことあったっけ。

まぁ、この程度の人生だったって事か。

友達と一緒に死ねるなら俺みたいな陰キャは本望だろ。

てか、死ぬ前にこんな事考えてること自体ダセーな。

天国とか地獄とかあるのかな。

あったら天国いきたいな。

どうせなら母ちゃんと父ちゃんに会いたいし。


「い……くさ!……お…。」


そういえば祐二郎大丈夫かな。

もともとはあいつのせいでこうなったわけだし、あいつは地獄だな。

はは…。

あれ?長くね?

死ぬ前はスローモーションになるって聞いた事あるけど、実際ってこんな感じなの?

それにしても長い気がするわ。


「…………い!……ぶか!…。」


ほら、向こうで呼んでる。

早く行かないと。

身体動かして祐二郎と一緒に逃げないと。

あんなの一撃食らったら死んじゃうってば。

おれ、昔から身体強かったけど、流石にあれは例外ね。

そろそろ行かないと。


「戦!……なんでお前おれをかばって…!」


あれ、言葉が出ない。

目も開かないぞ。


「死んだらどうにもなんねぇじゃんかよ!!!」


それは違うって。

待ってろよ祐二郎!

今助けに行ってやるから。

ほら、だんだん目が開いてきた。

これでお前を助け────────。

思考が停止した。

見間違いだよな。

なぁ。


「なんでなんだよ…」


戦はそこで思い出す。

自分が裕次郎を庇ったことを。

右半身が潰れ、自分の腹部から臓器が見えておりそこからおびただしい量の血が噴き出していた。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


熱い。

寒い。

燃え上がるような痛みが戦の体を(むし)ばんでいく。

これが死というやつか。

結構早く逝っちまうんだな俺って。

自然と涙は出なかった。

自分の“死”って案外納得できるんだな。

なんていうか、諦めがつくっていうか。

未練がない。

しかも人の役に立てて死ねるなんてご立派だろ?

俺みたいなやつが、人の役に…。

そこで戦は目を閉じた。


*


産まれた時から親の顔なんて知らずに生きてきた俺は物心つく前から、両親が死んだことだけ伝えられて育った。

小学校では両親がいないことから“普通じゃない“といじめられ、孤独に浸っていた頃。

あいつに出会った。


「死ぬの?」


自殺スポットの心縁橋(しんえんばし)で身を投げようとした時だった。

後ろから声がかかり、死への恐怖が戻ってくる。


「う、うるさい。僕は生きててもしょうがない”普通じゃない“人間なんだよ!」


「ふーん、そっか」


「なっ…」


必死に伝えた自分の思いを軽く受け流す子供に対して怒りが芽生える。


「俺の事は構うなよ凡人が!帰れよ!」


「親がいることがそんなに大事?」


「あぁ!大事さ!だってそれが“普通”ってやつなんだろ!」


「じゃあこれを見ても言える?」


そういって服を(めく)り上げる。

そこには無数の痣と傷が多くあった。

虐待の痕。


「あ…」


声を失った。

気がつかなかった。

第一こんな場所に子供1人で来るわけがない。

だってここは有名な自殺スポットで、1人で来るようなやつは決まって────


────自殺しに来るのだから。


「ねぇ、さっき言いそびれたけど、僕も君の隣に行っていいかな」


「…」


「これは何かの縁だし、1人で飛ぶより2人の方が気が楽だよ」


「…」


「ん?聞いてるかな」


勘違いしていた。

自分が世界で1番不幸な人間なんだと。

でも現実はそうじゃなくて、こんな近くに同じ思いを持った人間がいるのだと。

もうバカらしくなってしまった。

こんな自分が。


「…ねぇ」


戦は口を開く。


「名前は何ていうの?僕は(いくさ)たたかうって意味らしいよ」


「山田祐二郎…だよ。でもそんなの関係ないじゃん。今から死ぬんだから」


「いや、僕は死なないよ」


こんな時に思うのはおかしいかも知れないけど、少し嬉しかった。

自分とおんなじ思いで生きてる人がいるのだと。


「僕と友達になってよ祐二郎」


これが2人の出会いだった。


*


やばい、やばい、やばい


目の前には今にも斧を振りかざそうとしている大男。

後ろには肩から半身の無い親友が血だまりを作って横たわっている。

恐らくこのままではどちらも殺される。































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