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第一章:夢の始まり 8話

棚の中からホットケーキミックスを発掘したので、とりあえずそれでホットケーキを作ることにした。

材料を混ぜ合わせ、フライパンにバターをひいて焼き始める。


その時足もとになにかが寄ってきた。


俺が飼っている猫、サイだ。


どうやらバターと生地の焼ける香ばしい匂いにつられてやってきたらしい。



サイは、仕事帰りにいつも通っている路地に捨てられていた。


その日は雨が降っていて、バッグに雨がしみて書類が濡れるといけないから、俺は走って帰っていた。

そしたら、後ろから弱々しい猫の鳴き声がして、思わず俺は足を止め、その鳴き声の発信源を探した。

見つけるのにそれほど時間はかからなかった。

その鳴いている猫は、電柱のとなりに置いてあるダンボールの中にいた。

雨に打たれ、弱りながらも精一杯鳴いていた。

俺に気付いた猫は、ふらふらしながら威嚇してきた。


俺は、動物はそれほど好きではない。

昔から一度も動物を飼ったことがない。


でも、そんな弱っている姿を見たら拾わずにはいられなかった。


その猫は、俺が手を伸ばして抱こうとすると、必死に威嚇して唸っていたのを止めすんなりとその手を受け入れた。

猫が雨に濡れないよう抱きながら、ゆっくりと歩いて帰った。

俺の腕に体を預けて安心している猫の表情を見ていると、なんだか嬉しくて仕方なかったのを今でも覚えている。


それからサイは俺の家族になった。


“サイ”という名はその日の晩飯が野菜炒めで、「野菜」の「菜」を取ってサイと名付けた。


最初は、野菜は英語でベジタブルだから「ベジータ」にしようと思ったんだけど、とあるアニメのキャラクター名とかぶるからやめた。


 


サイに餌をやっていると、なんだか少し焦げ臭い臭いがしてきた。


 


「やっべ、ホットケーキ焼いてたんだった!」


 


慌ててホットケーキをひっくり返したが、もうすでに少し焦げてしまっていた。

両面を焼き終え、皿に盛り付ける。

メープルシロップもジャムも何もないので、バターをたっぷりつけて食べる。

少し焦げた所が苦かったが、まあまあの味わいだった。


とりあえず腹ごしらえを済ませた後、最初の目的であった俺の好きな作家の新刊を買いに行くことにした。


 

近所の本屋さんに入ると、店内の雰囲気が、以前来た時とあまりに違っていたのにビックリした。


 


――「外の世界の話をしてあげてるんだよ」


 

ふと進藤の言ったことが頭に浮かんだ。


 

時代は動いている。


人も動いている。


何もかも、どんどん変わっていく。



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