第三章:夢で逢えたら 12話
弱く、しかし気持ちの良い風。あまりに閑散としているが、とても落ち着く場所。
夢の中ではあるけれど、あきらかに普通の夢とは違う、なにか変な力がある。それが一体何からくるものなのか、何のための力なのか、見つける術はいまだない。こうやって考えているうちにも、だんだんどうでも良いように思えてくる。それもまたここの力なのだろうか?
誰にも言えなかったことを打ち明けたためか、彼女との距離が近くなったような気がする。お互いにお互いの悩みを抱え、その悩みを真剣に話し合う、ただそれだけなのになんだかとても心地良い。きっと普通は当たり前にできてしまうのかもしれない。けれど俺にとっては初めてのことで、なんだか嬉しく思えた。
仕事も確かに少しの疲れはあるが、前のような虚しさやひどい疲労もなくなった。あの進藤にも「なんかお前、余裕そうだな」と言われたほどだ。
「じゃあちょっと前まではどんな感じでした?」興味本位でそんなことを聞いてみた。
「いっぱいいっぱいだったな」
まさにその通りだと思った。余裕なんて何処にもなくて、ただ周りにそう装っていただけで、本当は苦しかった。こんなに仕事をしていてもやりがいは感じなかったし、何の楽しみや進展もなく、ただ忙しいだけですごく退屈な毎日だった。
しかし今はどうだろう。ほんの少しではあるけれど心に余裕ができたと自分でも思う。外では自然といつも気が張っていたのに、それもだいぶなくなったようだ。同僚との会話も前より楽しくなって、たまにではあるが一緒に飲みに行くようにもなった。酒が入るともっと気楽に話ができた。どうして今まで距離を置いて、こうやって話すのを避けていたのだろうかと今となっては疑問に思う。他にも自分で勝手に壁を作ってしまっていたり、勝手に抱え込んでいた重荷があるのかもしれない。自分が思っているより簡単で面白いことがたくさんあるのかもしれない。
日を追うごとに微妙に見かたや考え方が変わってきた。それは進藤に言われるだけでなく自分でもわかるほどに。
自分のことを考えるのは嫌いだった。しかし自然に考えてしまうのは自分のことばかりで、考えてまた自分にあきれ、嫌いになる。そんなことの繰り返しだった。でも最近は違う。前ほど自分が嫌じゃない。まだ全然バカで情けなくなるけど、それも少しずつ受け入れられるようになってきた。