第三章:夢で逢えたら 9話
朝。いつものように目が覚め、サイに餌をやってから朝食を取り、身支度をして出所する。
いつもと同じ日常。進藤に興味のない話を聞かされ、小林さんと軽く話して仕事をする。
夢の中の彼女のお姉さんの日常はどうなっているのだろう。
自然と彼女のお姉さんのことばかりが頭に浮かぶ。
事務所に居れば必ず誰かと会話をする。誰かに聞かなければいけない時や何かを頼む時、話せなければ困る。
コミュニケーション、意思の疎通として会話は大事だ。喋れない人でも手話などでそれを補っている。
しかし彼女のお姉さんはそれをやめてしまった。自分が困ることの辛さよりも、人との会話の方が辛いと判断したということだ。
そう思わせるほどの何かが、彼女のお姉さんにはあったのだろう。
その何かを越えるのは容易なことじゃない。一人でできることじゃない。きっと誰かの支えや助けがいる。
そしてそのためには、話すことが必要になる。
問題はどうやってそこまで気持ちをもっていくかだが──
また早く事務所を出た。
真っ直ぐ部屋に戻る。ついてすぐにシャワーを浴び、サイと自分の晩御飯の用意をした。
今日の晩御飯はカレー。そしてこの量だと明日の朝もカレーになる。それでもきっと余るだろうから次の日の夜もまたカレー。
だいたいカレーを作るといつもそうなる。二日目の夜もカレーとなるとさすがに飽きる。けれどまた一ヶ月もすればなぜかふとカレーが食べたくなるのだから不思議だ。
きっと女の人ならば何かアレンジしたりするのだろう。自分でもやってみればいいのだが、なんとなくそれも面倒で、結局いつもカレー漬けになってしまう。
具材を煮込んでいる間に残っている仕事をした。
カレーができた後も食べながら作業し、今日は12時に仕事を終えた。
そして布団にもぐったのはその30分後。
布団はやはりすこし冷たい。目を閉じる。夢の中の彼女のことを想った。
彼女はどうするのだろう。答えはもう出ただろうか。
あの時の会話が頭に浮かぶ。
──家族なんだから、“今更”なんて無いだろ
彼女にそう言った。それは素直に出た言葉だった。
──本当に変えたいのなら何年かかってでもやればいい
本当に変えたいのなら、自分でそう言った。
人のこと言えないじゃないか。
何も変えようとはしなかった。それどころか俺は逃げ出した。