第三章:夢で逢えたら 8話
「・・・でも、それでもやっぱ言ってほしいです。だって、このままにしておくなんて絶対にダメじゃないですか。このままあのうつろな生活を送ってちゃどうなるか・・・」
「俺もそれはダメだと思う。誰かが何かしないと。きっとお姉さん一人じゃ変われない。誰かが何か変わる方法を教えてあげるか、無理にでも引っ張っていくか」
「・・・私には、できません」
「どうして?」
「わかりません。上手く説明できないけど、何というか──怖いんです」
「怖い?」
「“今更”ですよ。もう何年も前からなのに、今更私に何ができるのか不安でもあります。それに、もし姉に拒絶されたらと思うと・・・怖い」
拒絶。そうか、彼女は家族に、大切な人に無視されて拒絶されるのが怖いのか。
でも、それでも誰かが何かしないとどうにもならないじゃないか。
そう思う。けれど口に出すことはできなかった。
きっと彼女もわかっている。
たとえ怖くても誰かが何かしなければ何も変わらない。
しなくてはいけない。頭ではそうわかっていても、どうしてもできない。怖い。
そんないろんな葛藤が彼女の中にはあるのだろう。
「もしダメでも、また挑戦すればいい。何度でも何度でもお姉さんに手を差し伸べればいい。君は家族なんだから、“今更”なんて無いだろ。本当に変えたいのなら何年かかってでもやればいい」
そう言うと彼女は複雑そうな顔をした。今日は何度この顔を見ただろう。
本当のところ、大丈夫だって言ってやりたかった。
けれど彼女がお姉さんに拒絶される可能性は十分にある。
それを考えると、とても大丈夫だなんて言えなかった。
しばらくの間沈黙が流れ、何か考えていた彼女が少し恥ずかしそうに口を開いた。
「・・・考えてみます」
それが彼女が頑張って出した今の答えだった。
まあそう簡単に答えの出せる問題でもないだろう。
やってみるとは言わなかったものの、先程までのように否定はしなかったことに安堵した。
その安堵のせいか、「そう」という生返事をしてしまった。
その後の会話はなかなか弾まなかった。
彼女はまた何か考えているようだったし、俺も彼女のお姉さんのことを考えていた。
何度も挑戦すればいいとは言ったけれど、何をどうすればいいのか全然浮かばない。
さっきはとてもいい加減なことを言ってしまったのだと思うと、少し後悔した。




