第二章:夢の中 6話
「俺のためにも・・・?」
「ええ、会わなかったらあなた絶対一生後悔する」
「でもやっぱ俺はあの人達には会えない」
後悔なんて今までたくさんしてきた。
あの時こうしていればとか、こう言っていればとか、いつもそんなことばかり考えて、
何も変わるはずないのに後ろばっか見てた。
これからもたくさん後悔するのは目に見えてるし、
このままあの人達に会わずにこの子が言うように後悔したって、別にそれでいい。
別に今の状況を変えたいとは思わない。
今さら普通の家族みたいになれたとしても、それからどう親に接すればいいのかもわからない。
だから別にもうどうでもいいんだ。
俺はそう言ったっきり黙りこくってしまって、彼女も何も言わずにただ何処かを見つめていた。
俺たちはずっとベンチに並んで座っていて、ただ桜だけが騒がしく舞っていた。
彼女はなんだか悲しそうな目をしていた。
俺のことなのに。他人ごとなのに。
なんで彼女が悲しそうにするんだ。
いつもの俺だったら何か適当に言って、作り笑いをして、
このなんとも言えない重い雰囲気を少しは明るく変えていたと思う。
でもそんな気分にもなれなかった。
誤魔化しの笑顔なんて彼女には通じない。
そう思ったからだ。
だから俺は何も言えずにただ黙っていて、
彼女が話しかけなければ多分ずっとこの重い雰囲気のままだったと思う。
「・・・あの、さっき有休の間に本を読むつもりだって言ってましたよね?」
「え? あ、うん。そうだけど」
「何の本読むか決めてるんですか?」
「いや、別にきめてないけど。一応本屋行って一冊買ったけど、でもそれも一日で読み終わるだろうし」
「好きなジャンルとかありますか?」
いきなり何なんだろう。
「ミステリーとかかな。でも感動するのとかも読みたいかも」
「じゃあ、こんなのとかどうですか?」
そう言って彼女はいくつかの本のタイトルと著者の名前を挙げた。
どれも僕が全然知らないものばかりだった。