第一章:夢の始まり 6話
「じゃあ僕と食事行かない?今度にでもさっ」
と言いながら、進藤が俺のデスクの上に身を乗り出してくる。
進藤は小林沙也が入所してきた頃から沙也のことを気に入っていた。
確かに顔は目が大きくて可愛いが、このぶりっ子具合がどうも俺は苦手だ。
「進藤さん、アイドルの話ばっかりするから嫌ですぅ」
「愛ちゃんの話は橘にしかしないよ?だからさ、行こうよ沙也ちゃん」
・・・なんで俺だけにするんだよ。
「それでもダメです! あ、もう行かなくちゃ・・・じゃあ橘さん、仕事空いたら誘ってくださいね」
そう言って彼女は小走りで去って行った。
「沙也ちゃん可愛いよなぁ」
「・・・そうですか?」
「そおだろ。なぁ俺そんなに愛ちゃんの話ばっかりしてるか?」
「してますよ。充分」
あんなに毎日熱弁してるくせに、自覚ないのかこの人は。
「そうか・・・。それより橘、仕事空いても沙也ちゃん誘うなよ」
「誘いませんよ。俺、小林さんに興味ないですし」
「本当か? 絶対だぞ。橘君っ」
そう言いながら、俺の背中をバシバシ叩いてくる。
「はいはい。絶対ですから、背中叩かないで下さいよ」
「ああ、すまん。すまん」
それっきり進藤もようやく仕事をし始め、何も話すことなく黙々と仕事に励んだ。
そして12時30分。俺は仮眠を取ろうと、休憩室に行った。
仕事中も寝不足のせいか、頭が痛くて仕方がなかった。
休憩室のソファに横になった。
体が重い。
目を閉じる。
意識がだんだん薄れていく。
ああ・・・ヤバイ。
また来たか・・・。
体を動かそうとするが、動かない。
声を出そうとするが、出ない。
このままじゃ、“落ちる”
ガチャッ
ドアの開く音。
「おっ橘か」
この声は・・・進藤?
「おい。お前どうした? 大丈夫か?」
その声は俺の顔の前まで来た。
なんでこんなところで。ここは俺の職場なのに。
そうだ、仕事がある。何が何でも起きないと・・・
そう思い、体に精一杯力を込める。
「・・・っ!」
目が開き、体も動く。