第二章:夢の中 5話
彼女はちゃんと最後まで聞いてくれた。
笑わないで、黙って。
「悲しいですね」
全部聞き終わってから、彼女は穏やかな顔でそう言った。
「悲しかったのかな。自分でもよくわからないんだ。多分、悲しさよりも苛立ちの方が強かったと思う。
だから、一度も泣かなかった」
「泣かなかったんじゃない。泣けなかったんですよ」
「泣けなかった?」
「泣いてしまったら、負けちゃいそうだったから。全部全部わからなくなっちゃいそうだから。
自分が悪いんじゃないかって、自分を殺して、昔の自分に戻ってしまいそうで」
俺は目を見開いた。
下手したらこの子は俺よりも俺のことをわかってるんじゃないのか?
本当に、彼女の言っている通りだ。
いつもテストの度にビクビクして。
毎日の生活もいい子でいなくちゃって張り詰めて。
自分の意見なんか言えずに、苦しんでた自分。
そんな頃に戻るのはごめんだった。
だから自分は正しいんだって、そう思いたかった。
そのためには、誰かのせいにするしかなくて、それで両親を憎むことにした。
「子供、だったんですよ」
「まあ確かに、ガキだったのかもな」
それは、今も。
「会いに行ってみたらどうですか?」
「会いにって、あの人達に?」
「ええ、そうです」
「無理だよそんなの。ほとんど勘当状態で家出てきたし、向こうも帰ってきてほしいなんて望んでない。
それに、会ったってまた喧嘩するだけさ」
「そんなことないですよ。少なくとも、向こうは会いたいと思っているはずです。
きっと、いや絶対。今のあなたなら大丈夫ですよ」
なんでそんなことがいえるのだろう?
あの人達が、俺に会いたい?
そんなことあるわけがない。
「別に今すぐとは言いませんが、気持ちの整理がついたら会いに行ってあげて下さい。
それは多分、あなたのためにもなると思います」