第二章:夢の中 3話
「さっき、久米公園って言ってましたよね」
「え、うん。このベンチがさ、久米公園のベンチだったような気がして」
「そうですよね! このベンチってやっぱ久米公園のですよね!
私、久米公園の近くのアパートに住んでて、よく本を読むのに久米公園のこのベンチを使うんです」
彼女の顔がパッと明るくなった。
その時気付いたのだが、彼女は化粧をしていなかった。
多分歳は俺より2つ3つ下。
最近はよく、化粧を落としたら眉がない子とかもいるけれど、彼女はそんなことはなくスッピンでもきれいだった。
「俺もこのベンチでよく本読んでたよ。この小さい机に、手軽につまめるもんと飲み物置いてさ」
「このベンチの形って不思議ですよね。久米公園にもこれ一つしかないし」
久米公園はなかなか大きな公園で、ベンチはたくさんあるにはるのだが、なぜかこの形のベンチはこれ一つしかない。
俺が大学生だった頃、大学の近くのアパートを借りていて、その近くにあったのが久米公園だった。
勉強で行き詰った時とかによく、このベンチでたくさん本を読んだ。
夏の日差しの強いときでも、この大きな桜の木が庇ってくれる。
とても居心地のいいおれのベストプレイスだった。
まぁ国家試験に落ちてから行かなくなったんだけど。
「あの、本はよく読まれるんですか?」
「昔は結構読んでたんだけど、最近は時間がなくて全然。でも今は有休取ってるから、
ここ五日間はいろいろ読んでみたいなとは思ってるとこ」
「そうなんですか。私は小さい頃から本を読むのが好きで、だから図書館司書になるのが夢なんです」
「なれるといいね。図書館司書」
「はい。でも、資格が取れても採用とか厳しいみたいで、ちょっと自信ないんですけどね」
苦笑しながら彼女はそう言った。