私魔王として働きます(6)
「先ほども話したが、私が行くのが一番被害を最小限にできる。
そして何より私は見て見たいのだ。
先代を凌駕するほどの力を秘めたその勇者という人種を。」
沈黙が続く。
みんなには申し訳ないけれど、勇者に興味がある。
人として近づいて、言葉を交わして見てその人となりを見極めてみたい。
もしかしたら人と魔族が争わなくても良い未来があるかもしれないのだから。
私が引かないことがわかったのか。
沈黙を続けていた3人だったが、はぁっという溜め息が聞こえたかと思うとヒューゲルが話し始めた。
「王にこんなこと言っちゃあ不敬かもしれねぇが、あんたもあんたで中々頑固だわな
仕方ねぇ、そこまでいうなら配下の俺たちとしては送り出すしかねぇじゃないですか。
…まぁ、送り出すにしても色々と準備が必要ではありますがね。」
「そうですね。そこの獅子のいう通りです。
貴方様がいない魔界はいざという時に指揮を取るものがいなくなるということです。
そのような事態が起こらないとも限らない。その時はどうするとお考えで?」
ヴィアベルが鋭い目つきで答えを促してくる。
もちろん、それに関して考えていないわけじゃない。
「もちろん。その辺りのことは抜かりなく考えている。
私が人里に行く際、私の半身をこの地に置いて行くつもりだ。」
「?
それは、腹心の部下…ということでしょうか?右腕のような?」
頭の上にはてなを浮かべるヴィアベル。
中々貴重な顔が見れたな。
「いや。文字通りの半身だ。
…いうより見せた方が早そうだな。」
魔力の流れの掴みは、さっき人間に化けた時にわかった。要はあれの応用編を見せればいい。
瞳を閉じ、体の中に巡らせた魔力を徐々に片腕へ、そして体外に出して行く。
その状態で放出すれば強力な攻撃になってしまうが、そのまま魔力を留めて…
徐々に形作っていく。
そう、自分の姿を脳内に浮かび上がらせ、そのイメージを魔力で投射するように…
そうして、次に目を開けた時には、自分そっくりの存在が隣に立っていた。
「これは…たまげたなぁ…」
「まさか、こんなことが…」
「あ、あぁぁぁあ!!!!!よもやその様な、ドラゴニカ様がもう1人現れるなど…ッ」
1人は目を見開き、1人は目を光らせ、1人は涙していた。
あれ、そんなに驚くことだったのだろうか。
「ドラゴニカ様、これは一体どのような陣を構築されたのでしょうか。とても興味があるのですが。そもそも全く同じ個体を、無から作り出すなど。そんな魔術、いったいどなたから…!」
あのヴィアベルが食い気味に話す。そうだった、彼は魔術専門家みたいな役職についていた気がする。
しまったなぁ。これ、ほんとに思いつきのぶっつけ本番だったから成功しないと思ってたんだよね…
魔術というか、感覚でやってることだから、うーん。説明難しい。
ここは魔王っぽく…
「…クックック…ハッハッハッ!!!
貴様等、よもや魔王である私にできぬことがあると思ってはおるまいな?
魔王である私が、分身を作れずしてどうする!!」
「ド、ドラゴニカ様っ!!!
なんと気高きお方!!このアガルス、一生ついて行きますっ」
アガルスからの熱い視線が痛い。