私魔王として働きます(5)
「そうだぜ、王よ。流石にその作戦はちと危険すぎやしねぇか?
それに、何も魔王であるあんたがわざわざ身を呈してまで人里に降りなくてもいいと俺は思うぜ?
あんたは俺らの頭だ。あんたが人里に降りてもし魔族とバレちまった場合、人間どもはあんたを死刑にするだろう。
んなことになっちまえば、俺ら魔族は頭を失い、下手したら人間共に殲滅されかねない。
そんなリスクを背負ってまで、あんたは人里に降りなければいけないのか?」
ヒューゲルが真剣な表情で諭す。
そうかもしれない。わざわざ王であるドラゴニカが行かなくても良いかもしれない。でも…
「だが、私が行かなければ代わりに誰かが行かねばならぬだろう。
その者にはもしかしたら家族がいるかもしれぬ。
その者がもし、失敗し殺されるようなことになってみろ。
家族は憎しみを覚え、それこそ人間との争いの火種になりかねん。
…それならば、私が赴いた方が生き残る可能性も高いし、何より私には肉親が居らぬからな。
私が死んだとしても、事を起こそうとする者はおらぬ。」
はっはっは。と高笑いし場を和ませようとした。
しかし、賛同し笑ってくれる者はおらず、心なしか先ほどよりも場が凍りついた気がする。あれ、何だか寒気が…
「…何を、何をおっしゃっているのですか!!!!」
ダンッ!と机を叩き立ち上がったのはアガルスだった。
「?!
えっと、アガルスさん…?」
「あ、あなた様は、ほ、本当にッ本心からそのような事をおっしゃっているのですか?!
あなた様を、崇拝し、敬愛し、尊敬している者など、この国には数多くいますッ
そ、それなのに、それなのにッ!!!
あなた様は、ご自身の身になにかあった時!悲しむ者がいないと、本気で思っていらっしゃるのですか?!」
「だ、だが…」
「だがもでももありません!!!
あなた様の身に何かあれば、私は悲しむし!!!もちろん泣きわめきますし!!!!下手したら人間共を1人残らず残虐非道の限りを尽くし痛めつけ、滅ぼします!!!!」
そう大声で宣言したアガルス。心なしかその表情は今にも泣き出しそうなほど歪んでいた。
「す、すまない。アガルス」
思わず謝罪の言葉が溢れる。
まさかこんなに慕われていたとは…ドラゴニカって凄いんだなぁ。
頭の隅でそんな事を考えている自分がいた。
「…まぁ、アガルスも言っていましたが俺達もあんたを犠牲にして生きるなんて事考えちゃあいません。
あんたの考えに平気で賛同出来ないほどにはあんたも慕われてるんだっつう事をもっと自覚していただきたい。」
いつもよりも落ち着いた、そんな声色でヒューゲルは再度諭した。
「…そうか。私はこんなにも部下に恵まれていたのだな。
…しかしそれならば尚更のこと。私が赴かねばなるまい。
私を慕ってくれている部下を危険にさらすなど、それこそ魔王として行ってはならぬことだと私が思うからだ。」