戦いの始まり
僕たちは絶望した。
今から命を摘み取られる事への恐怖と、人生がたった16年目で終えようとしてる事への失望で胸が一杯になった。
オーガブロックは200年前の大戦途中に宇宙から飛来し、人類文明の殆どを海の底へ沈めた。
目的、意思の有無、人類との対話の可能性、その全てが謎に包まれた鉱石生命体だ。
機械ではない。
世界で唯一オーガブロックの死骸を展示してある島がある。
「希望島」だ。
中学の修学旅行で行った時には、こんな奴が宇宙から降ってくるなんて思いもしてなかった。
「にっ、逃げないと…」
僕は右にいるはずの勇をみた。
勇は泡を吹いて気絶している。
「どうすれば…置いて行くわけにもいかないし…」
オーガブロックがこちらを見る。
ギリギリと石の擦れる様な音が響く。
10個ぐらいある翡翠色の瞳が輝く。
ああ…もう終わりだ…
そう諦めて目を閉じた。
オーガブロックが放つ怪光線で僕は骨まで溶かされて死ぬんだ…
そう思った。
だか、僕の体は健在。
勇も無事だった。
少し離れたところに落ちていた自転車はまるでチョコレートの様に溶けていた。
「なんだ…あれ⁉︎」
僕の目の前には巨人の様な物が立っていた。
巨人というか、アニメに出てきそうなロボットだ。
濃いサファイアの様な美しい青を基調とした、まるで海の様な色のロボットだ。
ロボットと呼んでいいのかどうかはわからない。
すると、巨人の背中からスポットライトの様な光が照らされる。
僕と勇はいつの間にか、狭い部屋の様なところに移された。
どうやら、このロボットの中の様だ。
「アナタハダレ?」
頭に声が響く。
「僕はユイだ。君が助けた弱い人間だ!」
僕は叫んでいた。
よくわからないけど、本能的に叫んでいた。
「ユイ、オカエリ」
そう聞こえた瞬間目の前が光、ロボットが見ているものが見えた。
ここはこのロボットのコクピットなのか。
よく見ればレバーやペダルの様な物もある。
僕は何も考えずにレバーを握る。
そして、ペダルを押し込んだ。
「お前達が何を考えてるのか僕にはわからない。
でも、これだけはわかる。」
僕はオーガブロックに向かって叫んだ。
「お前達は僕達の敵だ!」
そう叫ぶと、ロボットは背中のブースターの様な部分から光を放つ。
機体が勢いよく進むと、オーガブロックの顔面の右側に、ロボットの拳がめり込んでいた。
オーガブロックがよろける。
そして、左手の鋏をこっちに向けて振り払った。
しかし、左手の鋏は轟音を立て海に落ちる。
ロボットがビームの剣のような物を使ってオーガブロックの手を切ったからだ。
僕はとっさにレバーを捻り、機体を動かす。
ロボットがビームの剣を逆手に握り、オーガブロックの頭に突き刺した。
大量の火花を散らし、ビームの剣はオーガブロックに突き刺さる。
そして、オーガブロックはゆっくりと海に倒れた。
「はあ、はあ、はあ、倒した?僕が?オーガブロックを倒した?」
僕は訳が分からなくなっていた。
しかし、思考はすぐ現実に戻される。
目の前が明るくなる。
誰かに照らされているのだ。
「そこのロボット!聞こえるか?」
この声は信心島の防衛部隊の隊員の声だ。
目の前には防衛部隊のヘリがホバリングをしている。
「敵意がないなら両手を挙げさせてくれ。」
僕は声に従った。
その瞬間コクピットが開く。
「おや、第四集落高校の制服?」
防衛部隊の隊員は驚いていた。
当たり前だ。高校生が、こんな巨大なロボットを操り、オーガブロックを倒したのだから。
「詳しい話は基地で聞こう。そいつを動かして付いてきてくれ。」
防衛部隊の隊員は、そう言うとヘリを基地の方へ向けて動かした。
「なるほど、君達は帰宅途中にオーガブロックと遭遇。警報装置は起動しなかったと?」
「はい、いきなり海に落ちて、そこからの事はよく覚えていません。」
ここは、島防衛軍の軍施設内だ。
僕はここの会議室で、取り調べの様な物を受けている。
僕は正直に話した。覚えてないことも多かったけど、確かに覚えてるいる事は全て話した。
「君達の安全は保証させてもらう。ただ、あのロボットに関しては、調査したいからここに置かせてくれないか?」
隊員は膝をつきながらため息を吐いた。
「とは言っても、我々ではアレを動かすどころから起動させる事も出来ない。」
隊員は僕をジッと見る。
「おそらく、君の声か、バイオデータが起動のキーとなるはずだと我々は考えている。」
隊員は僕の手を握った。
「実験に協力してくれないか?なんなら貴重な青春の時間だ。実験に伴う拘束時間の対価は用意させてもらう。」
隊員は通信機か何かで人を呼び出した。
「そう言えば君の名前はなんだい?」
隊員は僕に尋ねた。
「あっ、ユイです。ユイ リーブスです。」
「ユイ リーブス…もしかして、アスカ リーブスの息子さんかね?」
隊員が母の名前を口にした。
そう、僕の母は軍関係の研究員だ。
それのおかけで生活に困窮することはないけど、母とは最近全く顔を合わせてない。
家に帰ってこれないのだ。
そう思っていると、会議室のドアが開く。
入口に立っていたのは母だ。
苦笑いを浮かべ、僕を見つめる。
「本当にこの子が動かしていたのね。」
母は呆れた様に隊員に話しかけた。
「ええ、驚きました。アスカさんのお子様とは、優秀な研究員の息子はロボットまで、操縦できるんですね。」
そう言うと隊員は笑い声を上げた。
何が面白いのか理解できない。
「ここは私に任せて、あなたは被害状況を確認してきて。過去最高レベルに抑えられてるけど、道路とか所々破損してるから。」
「了解しました。久しぶりの親子水入らずですので、私はこれにて。」
そう言うと隊員は、会議室から出て行った。
母とは顔を合わせるのはいつぶりだろう。
そう思ってると、
「半年ぶり…かしら?」
母も同じ事を思っていた様だ。
「まだそんなに経ってないよ。せいぜい、2〜3ヶ月じゃない?」
母はクスクスと笑った。
アジア系人種でも特に生き残った数が少ない日本人。
母は純血の日本人だ。
父は僕が小さい頃に何処かへ行った。
「まさか、アレを動かすなんてね。また、失敗して、父さんと同じ様になったらどうしようって思った。」
「えっ?父さんって生きてるんじゃないの?」
僕は驚いた。父は死んでいたのか?
「父さんは生きているわ。でも、あのロボット。アンダーコアの起動に失敗して、その責任を負わされて、希望島の収監施設にいるわ。」
そうだったのか。父はそんなところにいるのか…
「母さんね。まだ、ユイに黙っている事が1つあるの。」
そう母は唇を震わせながら話しだした。
続きます。
書き出すと修正点が多く浮かびなかなか次回が書けずにいました。
これからはちょこちょこ書いていきますけど、かなり不定期になると思います。