生命の樹の下で君は何を思う
僕たちは、当たり前の事をありがたく思う必要があると思うんだ。
例えばご飯が美味しいとか、雨上がりの空がこんなにも綺麗だとか。
なんでそんな事を聞くかって?
それは、遠い未来、君たちが守って来た星は、死ぬ一歩手前まで来てるからだ。
人類は疲弊して眠っている。
あと数年で、今生きている人類と同じ大地で生活するんだ。
すぐ馴染む人間もいれば、自分たちのプライドを保つために立ち上がる人間もいるだろう。
僕は見守るよ。
みんなが守った人類を、この生命の樹で。
だから今はゆっくりとお休み。
みんな。
現在 西暦3200年。
4月9日。新学期が始まる日だ。
僕は今日高校生になった。
今日も見渡す限りの海と、それに負けないように対抗してる青空と、むせ返るような日差しの中、新しい生活が始まる。
その前に1つ昔話を。
地球はおよそ200年前に一度文明が滅んだと言われている。
原因は人類同士のこれまでの戦争よりもとても大きな戦争だったと言われている。
どれ程の規模だったかはよく分からないと言われている。
それは何故かって?
記録する手段があったけど、僕たちの文明じゃとてもじゃないけど再生することが出来なかったらしい。
昔は指先に乗る大きさのチップに一年間同じ所で撮影したビデオを、まるで肉眼で見ているかのような再現度で再生できる機材なんかもあったそうだ。
ちなみに今はVHS。
DVDは作成可能だけど、一般的には普及されていたない。
学校の教材でも見た事がない。
昔は空飛ぶ車とかフロートシューズが一般的に普及してたらしいけど、今は自転車とか電気自動車が主流だ。
そうそう。
昔は大陸なんてのがあったらしい。
なんでも凄く大きな島で、国家という形で人々が分けられて生活していたんだって。
今現在の地球は、8.5割が海。
残りの1.5割が陸地だそうだ。
陸地と言われても、この陸地は旧世代の巨大な戦艦に大陸の残骸とも言える土を乗せて島のようにしただけだ。
ちなみにこの島の名前は信心島
この島におよそ20万人が生活している。
飽和状態にならない程の大きさを持つこの戦艦。
移動とか結構不便じゃないのかな?
僕、ユイリーブスはこの島で退屈で代わり映えのない日々を送っている。
勉強も普通。スポーツも普通。友達関係も普通だし
。背の高さもクラスで真ん中。
母さんはいつもこんな事を僕に言うんだ。
『普通が1番難しいのよ。お父さんもそう言ってたからね。』
『高校生になっても、変わる事なんてあるのかな?』
僕はつい口に出してしまった。
すると隣から
『変わらねーよ。俺もお前もな。』
呆れた様な返事が返ってくる。
隣を見ると一緒に自転車を押しながら歩く男がいた。
僕の友人の1人だ。
名前は笠元勇
僕より少し背が低い。
顔は日本人より少し濃い顔をしている。
なんでもクオーターらしく、確かゲルマン系の血が混ざってるらしい。
ちなみに僕は名前こそ、日本人らしくないけど純血の日本人の母と、純血のイギリス人の父の間に生まれた。
とは言ってもこの時代になると、人類のカテゴリーは国別ではなく、肌の色の違いになる。
『しっかしよ〜、こんなに暑いとせっかく旧日本エリアに来た意味ねーじゃん。』
勇は滝の様に流れる汗をカッターシャツの袖で拭いながら文句を言いだす。
現在気温35℃ 湿度75%
暑いのも無理はない。
かつて、美しい四季を見せていた島はもう海の底だ。
なんでも、先の大戦で地球全体のバランスが大幅に崩れ、四季どころか赤道に近くなればなるほど暑く、
遠ざかれば遠ざかるほど寒くなるのだ。
だからここ信心島は年中夏。
1番寒いのは南極だけど、今現在立ち入りが不可になっている。原因は不明。調査隊の船は全滅。
『暑い〜。ユイ!アイス買いに行こう!な!俺奢るからさ!』
汗を滴らせながら勇は顔を近づけて来る。
『昨日も食っただろ?それにこの近くの売店のアイスはもうとっくの昔に全制覇しただろ?』
そう、この島は第一集落から第二十集落まで存在していて、僕らは第四集落に住んでいる。
その集落で生まれそして集落で死ぬ。
これが幸せな生活の理想だそうだ。
『頼む!お願いだ!この通り!』
勇が深々と頭を下げる。
この光景は見飽きた。
『仕方ないなぁー』
僕が渋々了承をした次の瞬間だった。
凄まじい轟音。
体が吹き飛びそうになる突風。
その後に雨の様に海水が降って来る。
この光景には見覚えがある。
『ま、まさか…』
『これが、オーガブロック?』
蟹のような、亀のような姿の謎の発光体が目の前の海に落ちて来たのだ。
思えばこの日がすべての始まりだった。
地獄のような戦いの日々の。
続きます。