山の少年 一
ワシの名前はアルゴー。
山の中にワシのじいちゃんと暮らしている。
え?一人称はワシなのにじいちゃんがいるのがおかしい?
いや、おかしいのはワシのほうで、ワシは昔からお爺ちゃんっ子で、小さいころから一緒にいるせいで一人称がうつってしまったのだ。
じいちゃんの名前はデクソン。
狩りが得意で、家にいないときは大体山で狩りをしていた。
なんでじいちゃんと一緒に山で暮らしているかというと、ワシがこの一人称のせいで虐められていたからだ。
虐められていたワシは学校に行くのが嫌になり、学校に行くといってナイフ一本持って山に籠った。サバイバルの技術はじいちゃんから教わっていたし、何とかなると思っていた。
実際何とかなった。しかし一週間も帰らなかったのが家族を心配させるきっかけになり、じいちゃんが山を捜索しているときにワシが拠点にしている洞窟が見つかったのだった。そのことをじいちゃんに話すと、じいちゃんは「無理せず自分のやりたいことをやればいい」と言って一緒に山に籠ってくれたのだった。
ただいつまでもそこにいてもしょうがないということで山を移動し、ついには知らない街の近くの山まで引越したのだった。
そしてその山に引越してから実に5年が経った。
ある日、じいちゃんが急に切り出した。
「のう、アルゴーや。」
「ん。」
「ワシはそろそろ婆のところに戻ろうと思うのじゃが、アルゴーにはまだまだ教えなければいけないことが沢山ある。」
「どうしたのさ、急に。」
「いやな、婆を長いこと待たせてしまっているのじゃよ。それでな、アルゴーに魔力猟銃を預けようとおもうのじゃ。」
魔力猟銃。それは利便性を求める人間が作り出した猟銃だ。
火薬が存在しないこの世界で火薬の代わりに発達した「魔力を爆発させる」という技術を使って作られたものだった。ちなみにこの仕組みを生み出したのはノーグルという発明家だ。
これまではデクソンが独断で危険と判断してアルゴーに教えてこなかった。
しかし、ナイフ一本ではいつか限界が来る。その時のためにとっておいたのだが、デクソンが婆と約束した3年はとうに過ぎていた。
もともとアルゴーの面倒を見るのは3年と決めていたのだが、デクソンは婆のお小言よりもアルゴーと過ごすほうが心地よかったのでつい長いしてしまったのだった。
「それでな、今から一週間で習得してもらいたいと思うのじゃ。」
普通、新しい魔法を扱うのは半年かかる。それも初心者なら魔力の仕組みに馴れるのに一年、そのうえで半年乗っかるのだ。魔力猟銃を使うには合計で二年かかる。それもただ撃つことができるようになるだけで、当てれるかは本人の技量次第だ。実際に狩りができるようになるまで修行しようと思ったら五年くらいかかる。それを一週間でやろうとするデクソンは鬼だ。しかし、これ以上婆を待たせてお小言を増やしたくない。その一心でアルゴーを鍛えようとしている。
「まあじいちゃんがいうからには何か方法があるんでしょ?なら一週間で習得してみせるよ。」
とアルゴーは簡単に言う。
確かにデクソンは一週間で習得させる算段はあった。しかしそれはアルゴーの性格を考えてただゴリ押すといったやり方だ。合理的でない。しかし、デクソンはアルゴーがそれを良しとしたときからアルゴーの負担は考慮しなかった。
まず初めに一日で一年分の修行をした。
魔力とは水のようなものだ。高いとこから流せば下へ流れる。容器に入れれば溢れたりひっくり返したりしなければ周囲に広がることはない。そういった仕組みを実際に水を使用してアルゴーに叩き込んだ。アルゴーは見た分、すぐにものにすることができたが一般人はそうはいかないだろう。これはデクソンとアルゴーだからできたことだ。
二、三日目は魔力を爆発させる仕組みをやらせた。
魔力を一点に集中させて一気に拡散させることで爆発が起きる。集中させる量や、その範囲によって威力が変わる。扱いに長けるほどその魔法を強くすることができる。魔力猟銃を使うにはそこら辺の岩――直径30cmの岩が壊せるほどあればいいので、そこまで教える必要はなかった。しかし、岩を砕くほどの爆発魔法をたった二日で習得したのだ。アルゴーはかなり優秀だろう。
四、五日目で魔力猟銃が撃てるようにした。
火縄銃のような形をした銃に魔力の弾を入れ、それを爆発魔法で撃ち出す仕組みだ。まず魔力の弾を作り出すところから始まる。魔力の弾は爆発魔法に巻き込まれても一緒に溶けないようにしなければいけない。なのでまずは石ころ程度の大きさの魔力の玉を作ってそれに爆発魔法を放つ。そして崩れないように保っていられれば玉を作り出すことは成功だ。しかし、それは小さくなるほど結合しにくくなるので弾と呼べるほど小さくしたものを形成するにはかなりの時間がかかる。それを一日でやってのけた。あとは撃つだけだ。それは弾を作り出すほどは難しくなく、爆発させる場所の前に弾を置いてその後ろで爆発させればいいだけだ。銃の中に弾を作るのに苦戦したが午前の間にマスターしてしまった。
残りは銃の扱い方だ。
まずどうやれば獲物に気づかれないで移動するか、撃つときにどう構えればよいのか、仕留めた獲物はどうするのかなど。それを徹底的に叩き込んだ。
そしてアルゴーが獲物を一人で仕留めた肉を食べてデクソンは自分の郷里へ帰っていった。
アルゴーはこの一週間で学んだことを忘れないようにしながら狩りに励んだ。
初めは逃がすことも多かったが、次第に慣れていって、さらに一週間したころには罠を使わずに仕留めることができるようになっていた。
初めて書くので途中で更新が停止するかもしれません。
しばらくは山の少年のことを書いていきたいと思います。ある程度進んだら次のキャラを進めようと思っています。