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07. 出会い

「――ク。ククク。フフ――フハハハハハハッ!」


 身を震わせて、ロックは高笑いをした。


 ――いいじゃないか、聖龍王っ!


 一年間の影武者! 成功すれば金も! 女も! 豪邸も!  思いのまま!


 人生を何回やり直したってお釣りが来る。金貨五百枚! 山賊時代の不自由な生活とは、雲泥の差!


「クフフ、ハハッ! ついてる。俺はついてるぜぇ!」


 山賊時代の同僚たち。さようなら。こんにちは、聖龍王の豪勢な生活。


 資料を読んで確信した! これは、聖龍王の影武者なんてものじゃない。まさしく王の生活だ! 贅沢を極め、地位を極め、羨望と尊敬を支配する、守護王の生活っ!


「俺が、俺様が、王だっ! クフフハハハッ!」


 ――。


「待てライラ、少し勢い加減しろ! ライラ落ちるっ」


 塔の外。人知れず聖龍王のファンたる二人が、上へ、上へと登る。


「ごめんライラ~。でももうすぐよ。上層部が見えてきたわ!」



「クフハハハッ! 無事に影武者に成りきった暁には、まず何をするか! 高級料理店に足を運ぶか? いやいや夜の街で女を買うのもいい。それともあれだ、豪勢なパーティでも開かせて、贅沢三昧するか! クフハハッ!」



「えい、えい、えい。でも本当に高い塔よね~。けれど大丈夫、私、ライラを背負って、必ず登ってみせるわ~」

「そうだ、馬鹿力もこういうときは役に立つ! いけ、いけ、イリーナ! 聖龍王様の尊顔を見るために!」



「やはり一度はやってみたかった金の風呂というのを試してみるのいい! クハハッ! 黄金の風呂に美女を侍らせ遊泳する! マッサージにダンスに酒だ! クハハッ! 全ての男が夢見る贅沢を、遊び尽くしてやる!」



「さすがに手が痺れてきたわ~。硬い石だし高いし寒し、体が凍えそう~」

「頑張れ、イリーナ。聖龍王様の部屋は、もうすぐそこだぞ! さあ、あと五メートル!」



 ロックは知らない。まさか聖龍王の部屋に素手でよじ登るバカがいることを。

 

 そして塔の、見張りの兵士たちも知らない。正面扉やそこに至る階段の見回りは数あれど、まさか素手で、五百メートルを超える尖塔を、身体能力だけでよじ登れる怪力少女イリーナがいることなど。


 的確に部屋へのルートを選定し、イリーナを登らせる参謀少女ライラ共々迫っていることなど、夢にも思わない。

 

 原始的で、常識はずれなクライミングを行うイリーナと、その背中に乗るライラ。

 

 ロックは自分に危機が訪れることなど微塵も思わず、高笑いする。



「クフハハハッ! 聖龍王カリスが瀕死で世界が破滅間際と知ったときはどうなるかと思ったが! 俺はただ影武者をすればいい! 一年間! 何とか聖龍王が持ち直すまで、俺は人々を欺き続ければいいのだっ! やればなんとかなるっ!」


 少女達は、聴こえた声に反応し、硬直する。

「え――」

「い、いまのは……まさか……!?」


「しかしファンサークルとやらは厄介だな。くれぐれもバレねぇようにしなければ。聖龍王ユーベルが風前の灯の命と知ったらヤバイな。だが、ククク……案ずることはない。俺は全て、やり遂げる自信がある!」


「せ、聖龍王様が――瀕死!? そ、そんな、大変だわ!」

「嘘だ……そんな、か、ユーベル様がっ、そ、そんな!」


 聖龍王の部屋から、声は外にダダ漏れである。


「しかし聖龍王も水臭い。この俺がいなければ世界をどうする気だったのだ? さっさと俺を探し出し、影武者として頼れば良かろうに。だがまあ、俺様は寛大だ。――クク、やってみせる。見事やり通してみせる! 俺が聖龍王だっ! 偽物であると微塵も悟らせぬっ! ファンサークルも! 騎士団も! 王侯貴族も! 全ては俺様の演技の虜だ! クハ――ハッハッハッハッ!」



「大変っいますぐ仲間サークルに知らせなきゃ!」

「待てイリーナ、慎重に、慎重にだ。偽聖龍王とやらはまだライラたちが窓の外にいることに気づいていない。音を立てず、慌てず、けれど迅速に、このまま降りるんだ!」


 ロックは口をつぐんだ。

 気配。建物の外に、かすかな人の気配がある。


「何だ? 先程から外がざわつく。猿でも登ってきたか? いや、まさかな」


「――っ!」

「しーっ、イリーナ、そっと、そっとだ。窓の死角に行って、外を見下ろしてもわからない位置に行け……っ!」


 ロックは窓際に行き左右に開ける。


 天高い尖塔の外には、見事な稜線描く山々と、白銀の雲が天空に広がるのみ。


 異変がない事を確かめると、ロックは訝しげに呟く。


「なんだ、空耳か……? ふっ、存外、俺も緊張をしているのかもしれないな。未曾有の体験に、動揺していると見える」


 ロックは薄く笑い、窓を閉めて窓際から離れた。


「――ふー、危なかったわぁ」


「やれやれだな。しかし今の声の男。明らかに出生が良くない話し方だ。きっとゴロツキだ。まさか犯罪者が毒でも盛って、聖龍王様に危害を加えたのかもしれない」


「え……まさか。じゃあ聖龍王様の危篤も、今の男のせい……?」


「可能性はある。あの男は策を巡らせて、聖龍王様の地位を乗っ取ろうとしているのかもしれない」


「大変だわ! 聖龍王様が危機よ! ファンサークルのもとへ、急がないと!」


 ロックはふと窓際を振り返る。

「……しかし、やっぱり気になるな。ふむ、間者の類ではないのか? まさかとは思うが、ファンサークルの輩が聞き耳を立てに来たのかもしれないな」


「ま、まずいわ~」

「イリーナ、慌てるな、もっと窓から離れろ、ゆっくりと……っ!」


 尖塔は円柱型である。高さ五百メートルを越す白亜色の石が積み上げられた形となっている。

 

 窓はせり出しており、どうしても死角ができてしまう。


 元山賊のロックは、わずかな懸念を元に、窓を開け、身を乗り出した。

 まずは、下方の確認。


「……何もないな。だが、いくらでも隠れられるな。どれ……」


 ロックは懐から紐を取り出し、自分と窓の縁の突起物を繋いで、窓から大きく身を乗り出す。


 眼前には青々と広がった、学園の地上の庭園がある。


 広い訓練場も。騎士見習いである少年少女らが、歩く光景が遥か下に見える。


「……」


 異常はなし。だがロックはあえて無言のまま、そして気配も消す。


 山賊として身につけた隠密スキルである。


 意図的に呼吸音も気配も消すことで、闇から忍び寄る妖魔のように、円柱の塔の外を、調べ回す。


 そして、見た。


 見てしまった。ちょうど窓から反対の位置。死角の位置。


 撫子色のふわりとした髪の少女と――。


 その背中に捕まる、小さな少女の姿がある。


「て、」


 ロックは、目を剥いた。少女たちは、壁際でびくつく。


「てめーらは誰だ!? どうしてここにいるっ!」


「きゃああああああああああああっ! ライラぁ、どうしよう――っ!?」


「うわわわわわ!? バカ、イリーナっ! 慌てるな落ちる、落ち着け――――っ!」


 かくして。

 影武者のロックと、騎士見習いイリーナとライラたちは、出会った。


 それは、三人の運命を決める、数奇な出会い。

 三人が巡り合う事で、運命の歯車は、動き始める。


次回の更新は本日、21時頃になります。

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