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彼と彼女の関係性  作者: 夜童アスカ
3/5

その日の昼休み。

愛梨はいつものように食堂を訪れていた。取り巻きたちも愛梨を構い倒している。

一際騒がしいその集団に、食堂を利用していた生徒は、一様に顔をしかめる。

人気者だった彼らを慕う者は殆どいなくなり、愛梨に好かれようと、敵と見なした生徒を排除しようとしたり、お互いを蹴落とそうとする姿に落胆と呆れを滲ませていた。


「あ!天音先輩!」


愛梨が駆け寄ったのは、風紀委員長の桐野天音。必要な時以外は滅多に話さないし、必要以上に他人と関わろうとしない彼は、普段食堂は利用しない。

愛梨は砂糖菓子のような笑みを浮かべ、頬を赤くしながら天音に話しかける。

愛梨の本命が天音であることは、生徒たちの間では有名な話だった。しかし、天音は愛梨に視線すら寄越さない。よく諦めないものだ、と感心さえする生徒もいるほどだ。


「天音先輩が食堂にいるなんて珍しいですね!

あの、一緒にお昼ご飯食べませんか?」


上目遣いで天音を見る愛梨。

ここで、周りの全員が驚くことが起きた。

いつもなら無視して通り過ぎる天音が、愛梨に視線を向けたのだ。

その反応に愛梨は目を輝かせる。


「なぜ俺がお前と食事をしなければならない?」


冷たい無機質な声と表情。

愛梨は、一瞬言葉の意味を理解できず、キョトンとしている。

やがて、意味を飲み込んだのか、みるみるうちに目に涙を溜める。


「わ、私・・・ただ、一緒に、ご飯を・・・・・・」

「だから、なぜ俺がお前と食事をする必要がある?」

「そ、それは・・・・・・!」


そこで言葉を詰まらせる愛梨。

一度、息を深く吸い込み、天音を見つめる。


「私が・・・天音先輩のことが、好ーーー」

「それ以上言わないでくれる?」


愛梨の告白を遮る声。


「誰!?」

「・・・・・・」


人ごみから現れたのは、不機嫌な雰囲気を漂わせる静稀だった。

彼女から少し離れたところには涼介が心配そうに様子を見ている。

静稀は睨みつける愛梨を無視して、静稀は天音を見る。


「天音、何をしているの?

私は、呼んだら来てって言ったはずだけど?」


風紀委員長への物言いに凍り付く周囲。

しかし、さらに周囲を困惑させたのは天音の反応だった。


「・・・・・・ごめん」


しょんぼりとして謝る天音。

静稀はその様子に吹き出し、腕を広げる。


「ふふ、いいの。意地悪を言い過ぎたわ。

ほら、おいで」


落ち込んだ顔から一転、パァァッと笑った天音は、静稀に走り寄り、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。

天音は甘えるように静稀の首に顔を埋める。

少しくすぐったそうにするも、愛おしげにその頭を撫でた。

そして、思い出したように愛梨たちの方を見る。


「あぁ、えーと・・・・・・吉岡さんだっけ?」


緊張感のある空気が一瞬で崩れた。

涼介が「あっちゃぁ・・・」と頭を押さえる。

その空気に気付いたのか、静稀が天音の体を退かしながら首を傾げる。


「あれ?吉岡さんじゃなかったっけ? 吉井さん?」

「知らない」


静稀を背後から抱き抱えるような体勢で天音が答える。


「神崎、吉田だ。吉田愛梨」

「おぉ、そうだ。吉田愛梨さん。

ありがとう、田沼君」


涼介の助け舟に頷き、礼を言う。


「さて、吉田愛梨さん。

君は天音に手を出しているようだけど、この子は私のものなんだ。渡す気なんて無いし、手を出されるのも許さない」

「そんな・・・!

恋愛は自由よ!

ものだなんて、最低!」

「そうだ!愛梨に謝れ!」

「愛梨さんは優しいですね。

それに比べて、あなたは・・・」

「ていうか、愛梨の方が可愛いのにさ、桐野先輩も趣味わりぃよな」

「あはは、確かにそうだよね!」


愛梨に続いて、空気と化していた取り巻きたちが喚く。順に、会長、副会長、書記、庶務である。

しかし、彼らが勢いづいたのもそこまで。


「私の天音を、馬鹿にするな。」


冷たく、鋭い声。

たったそれだけなのに、動けなくなる。

静稀の瞳に宿るのは、自分のものを侮辱されたことに対する怒り。


「君たちは、吉田愛梨の取り巻きだったっけ?

仕事もしない無能共。私の友達を困らせた挙げ句、天音を馬鹿にするなんて・・・」


そこで言葉を切り、天音に目配せをする。それを受け、スッと天音が静稀から離れる。

愛梨と取り巻きたちと向かい合うと、淡々と話し出す。


「田沼を除く生徒会役員の職務放棄、一般生徒への脅迫行為、その他にも色々目に余る行為があった。

よって、田沼以外の役員にリコールを請求する。近々開かれる臨時生徒総会で正式に決を採る」

「よくできました、天音。

・・・・・・じゃ、行こうか」


良い子良い子、と天音の頭を撫でる。天音も静稀が頭を撫でやすいように身を屈める。

と、言い忘れていたというように天音が愛梨を見る。


「男を侍らせるような女は好みじゃない。

静稀を貶めるなんて以ての外だ。

二度と俺たちの前に姿を見せるな」


言い終えると、静稀に行こう、と笑いかける。愛梨はその場に崩れ落ちると、ポロポロと涙をこぼす。

それに一切目もくれず、二人は食堂を後にしようとするが、慌てて止める人物がいた。


「ちょっ・・・!神崎ストップ!桐野先輩もです!

俺、リコールの話なんて聞いてないし、そもそも二人の関係は!?」


具体的な内容を一切知らされていなかった涼介である。


「まぁいいじゃない。

・・・えーと、天音との関係?」

「今のところは俺が静稀の所有物だ。今後、肩書きが増えるだろう」


関係性だけ律儀に答える天音に、涼介の抗議をさらっと流す静稀。


「じゃあ田沼君」


あぁもう!と頭を抱える涼介の肩をポンと叩き、静稀は爽やかに笑いかける。


「私と天音は早退するから、後よろしく」


そう言い残し、颯爽と去っていく二人。



廊下を歩いている途中、静稀が口を開く。


「天音、ご褒美」


そう言って手を差し出す。


「今日は手をつないで帰ろうか」

「あぁ・・・・・・!」

「天音の家に着いたら、もっとご褒美あげる」


ぶんぶんと首を縦に振る天音。


「静稀、愛してる」

「な、ちょっ・・・」


いきなりの発言に顔を赤くする。

天音はそんな静稀の反応にとろけるような笑みを浮かべ、頬にキスをする。そして、静稀の手を引き、廊下を進む。




ーーー静稀の『恋人』になれるのは、案外すぐかもな。


そう思いながら。

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