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俺は田沼涼介。この高校の生徒会で会計をしている。
主な仕事は、学校の決算と予算を先生と確認したり、それをまとめることだ。
しかし、新学期に入ってから、俺は仕事に忙殺されていた。いや、この時期に仕事が増えるのは当たり前なのだが、担当外の仕事までやる羽目になっているのだ。
理由は、隣のクラスに転入してきた吉田愛梨という女子生徒に、俺以外の役員がベタ惚れで、仕事をサボるようになったからだ。
仕事をしてくれと何度言っても、「ちゃんとしている」とか「それよりも愛梨が大事」とか・・・・・・。
もう、何なんだお前ら馬鹿なのかと言いたくなるほどの盲目っぷり。
風紀委員長や委員たちがちょこちょこ手伝ってくれなかったら過労で倒れてる。
確かに、吉田は可愛らしい部類なのだろう。しかし、男を侍らせている様子といい、媚びを含んだ言動といい、とてもではないが好きにはなれなかった。
これなら、俺の友達であるはずの神崎の方が可愛いと思う。
などと思いつつ、教室に入る。
教室の一番窓側の最後列の一つ前。
神崎の前の席が俺の席だ。
その神崎は既に席に座っていて、外を見ているようだったが、どこか表情が険しい。
「おはよ、神崎。
そんな顔して、何かあった?」
理由を聞くと、吉田とその取り巻きたちを見ていたらしい。
会長たちか・・・と言うと、神崎は感心したように頷いていた。
・・・コイツ、生徒会役員の顔覚えてないのか。結構人気があるんだが、興味は無いらしい。
俺も最初は「田山君」とか「田中君」とか呼ばれたものだ。わざとではなく、他人の顔と名前を覚えるのが致命的に苦手だということだったが、心が何度折れかけたことか・・・。って、今は関係なかったな。
しかし、基本的に他人に無関心な神崎が反応するとは、よっぽど酷いのか、あの人たちは。
一応、神崎には事情を話し、あの人たちに関わらない方が良い、と言っておく。
「 最近君が忙しそうなのはそのせいでもあるのかな?」
神崎の言葉に、今までの苦労とかが蘇ってくる。堰を切ったように愚痴りだしてしまう。
神崎はそれに驚いたような顔をしていたが、黙って聞いたままでいてくれる。
「あ、でも吉田さんの本命って風紀委員長らしいんだよな。だから吉田さんと風紀委員長が話した日は会長たち機嫌悪くて俺に当たってくることもあって・・・」
桐野先輩に顔を紅潮させて話しかける吉田が思い出される。最も、先輩は完全に無視して、俺に書類の確認をしてたけど。
外を見ると、風紀検査中の桐野先輩に話しかけ・・・もといまとわりつく吉田が目に入った。
勿論、桐野先輩は無視。
ほら、アレと神崎に言う。
この後の神崎はめちゃくちゃ怖かった。笑ってるけど笑ってなかった。
いつものぼんやりした感じが無くなって、肉食獣みたくなった。
何がどうしてこうなった・・・!
そう思って固まっていると、神崎に吉田たちが普段どこにいるか教えてくれと『お願い』された。
とても断れないし、教えました。
自慢したくないが、会長たちを何度も連れ戻すうちに行動パターンを把握してしまっている。
しかし、神崎よ。
数分前に名前を教えたのに間違うんだな。これだけはいつも通りか・・・。
「で、用って一体・・・・・・?」
最大の疑問に、神崎があっさりと答える。
「私のに手を出そうとするから、それについて教えてあげようかな、って。
後、私の友達に対する態度が苛立たしいから、そっちも」
つまり、会長たちに喧嘩売ろうとしてんのか、コイツは?
いや!それよりも!
「と、友達って、俺のことか・・・・・・?」
「他に誰がいるの?」
「そうか・・・・・・!」
神崎は俺のことを友達だと思ってくれていたのか!
お節介なヤツだと思われてなかったんだな!
その言葉に感動していた俺の頭の中からは、『私の』とはなんなのかという疑問は吹っ飛んでいた。