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彼と彼女の関係性  作者: 夜童アスカ
1/5

朝の教室というものは、往々にして騒がしいものである。

ざわざわと挨拶や世間話が飛び交う中、少女は一人席に着き、外を眺めていた。

教室の一番窓側の最後列。

そこが少女ーー神崎かんざき静稀しずきの席だ。

肩ほどに切りそろえられた黒髪にぱっちりとした垂れ目の可愛らしいと言っても良い顔立ち。

しかし、その顔には表情は浮かんでおらず、どことなく冷えた印象を与える。

ぽかぽかした春の日差しを浴びながら、眼下に見える校門を眺め、少し眉根を寄せる。


「おはよ、神崎。

そんな顔して、何かあった?」


そこに声をかけてきたのは前の席の男子生徒である田沼たぬま涼介りょうすけ

面倒見が良く、生徒からも慕われている。

涼介は静稀と一年生の頃から同じクラスで、人の輪に混じることが苦手な静稀をフォローしてくれていた。


「おはよう、田沼君。

ちょっとアレを見てただけ」


そう言って向けた視線の先には、一人の女子生徒と彼女を囲むようにして歩く見目の良い男子生徒たち。

取り巻きと化している彼らは、この高校の生徒会執行部の面々だ。


「あぁ・・・会長たちと吉田さん」

「へぇ、あれが生徒会」

「いやいやいや!集会とかで壇上に上がったりしてるよ!?顔くらい知ってるでしょ」

「集会の時は寝てる」


静稀は人の顔と名前を記憶することに関しては壊滅的なのだ。涼介も最初の頃は名前を間違えられたりしまくられたものである。

当時の苦労を思い出し、「そうだった、お前が覚えてる訳無かったよ・・・・・・」と呟きつつ、彼らについて話す。


「会長たちは吉田さん・・・二年になってから隣のクラスに転入してきた吉田よしだ愛梨あいりさんにぞっこんでな。ずっとそばにいるんだ。

近づこうとしたら後が面倒だから関わらない方が良い」

「君以外の執行部の人が、その吉田愛梨さんの取り巻き。

あぁ、最近君が忙しそうなのはそのせいでもあるのかな?」


涼介は生徒会会計をしている。ここ最近昼休みに教室にいないことが多かったので、新学期だしなぁ、と他人事に思っていたが、その影響もあったのか、と静稀は納得する。

それに対し、涼介は頷く。


「ホントそれなんだよ!あの人たち、仕事溜めるようになって締め切り破ったりする事もあるし!

俺が「仕事してください」って言っても口を揃えて「愛梨が心配だから」とか「仕事は後でもできるけど、愛梨と一緒にいられる時間はそうじゃない」とか言うんだぜ!?

後でやらないくせにふざけんじゃねー!!」


と、今まで相当な鬱憤が溜まっていたのだろう。

怒濤のごとく愚痴を言う涼介。

静稀は、この唯一と言っていい世話好きな友人がここまで言うのなら、相当なのだろうな、と思いつつ、黙って涼介の愚痴を聞く。

教室にいる生徒たちも何事か、と二人を窺うが、涼介の愚痴が聞こえたらしく、労るような、同情する目を向け、自分たちの会話に戻る。


「あ、でも吉田さんの本命って風紀委員長らしいんだよな。だから吉田さんと風紀委員長が話した日は会長たち機嫌悪くて俺に当たってくることもあって・・・。

ほら、今だって、風紀委員長に話しかけてるだろ」



風紀委員長、という単語にピクリと反応する静稀。

そして、外に目を向ける。

取り巻きの中にいたはずの愛梨が、輪を抜けて風紀検査をしている風紀委員長に話しかけている。愛梨をとられた取り巻きたちは風紀委員長に文句を言っているらしく、詳しい内容は分からないまでも、ここまで声が聞こえてくる。


「ねぇ、田沼君。風紀委員長って、桐野きりの天音あまね、だよね?」

「あぁ、そう、だけ・・・ど・・・・・・」


静かな、それでいて有無を言わせぬ声。

しかし、涼介はそれに驚いたのではない。

静稀の顔に浮かぶのは、笑み。どこか、獲物を定めた肉食獣のような雰囲気を漂わせているその笑顔に、涼介は固まる。


「へぇ」


涼介の答えにますます深まる笑み。


「さて、田沼君。

ちょっとしたお願いなんだけど、聞いてもらえる?」


小首を傾げ、お願いする仕草は可愛らしいと言えるものだった。しかし、目が笑っていない。


「な、何でしょうか・・・・・・?」

「あの、えーと・・・吉川さんだっけ?

彼女とその取り巻きに用があるから、普段どこにいるか教えて」

「吉川、じゃなくて吉田な。

まぁ、昼休みは大抵食堂にいるはずだ。

・・・何度も会長たちを呼び戻しに行ったからな。

もう行動パターンが頭に入ってる・・・」


そう言って遠い目をする。


「で、用って一体・・・・・・?」


静稀はそれに対し、あっさりと答える。


「私のに手を出そうとするから、それについて教えてあげようかな、って。

後、私の友達に対する態度が苛立たしいから、そっちも」


あっさりと学園のトップに喧嘩を売ると言う趣旨の発言に涼介は再び固まる。

しかし、すぐにある言葉に反応した。


「と、友達って、俺のことか・・・・・・?」

「他に誰がいるの?」

「そうか・・・・・・!」


何やら感動したように震える涼介。

それには構わず、静稀は携帯をいじり、とある人物にメールを送る。

送ってから三十秒ほどで来た返信を見て、予想通りの内容に口元を綻ばせる。



ーーーさて、終わったらご褒美あげなくちゃ。


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