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ニート狐たちのフォックストロット  作者: ポテンティア=T.C
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1-06 キツネ?1

その日、妾は(ひる)から機嫌が悪くて、ムスッ、としておったのじゃ。

もちろん、また嬢に、裏山へと転移させられたわけではないのじゃぞ?


……キツネのやつが、二度寝から覚めた妾の上に、未だ引っ付いておったからなのじゃ。


「……夢ではなかったのじゃのう……」


どこかのありきたりな物語でもあるまいし、朝からおなごに抱きつかれて、一体、何が嬉しいのじゃろうか。

これがワルツなら、喜んで布団の中に招き入れるところなんじゃがのう……。

ぬ?

ワルツもおなご?

……何事にも例外は必要なのじゃ!


それは今、重要ではないから、横に置いておいて、なのじゃ。


妾の上で、眠るキツネ……。

特に、こやつの胸についておる2つの肉塊がいけ好かないのじゃ。

妾に対するあてつけじゃろうか?

じゃが、まぁ、尻尾の立派さは妾の勝ちじゃからよいのじゃ。

胸、身長、スタイル……その上、尻尾まで負けておったら……あれ……なんでじゃろうか……眼から急に汗が……。


妾が世界の(ことわり)について嘆いておると、キツネのやつが薄眼を開けて、ニヤッと笑みを浮かべてから言ったのじゃ。


「……何じゃ、主よ。そんなにワシに抱きつかれることが、嬉しかったのか?……よーしよーし……」


ブチッ!


「ば、バカにするでないわ!!」


ガバッ……ギュッ……


頭に来た妾は、布団を跳ね除けて起き上がろうとしたのじゃが……腕と足でガッチリとほーるどされておって、全く動けなかったのじゃ。

こやつ、妾を抱枕か何かじゃと思っておるのではなかろうか……?


というか、何なのじゃ?この馬鹿力は……。

……あ、妾が非力なだけだったのじゃ……。

……狩人殿と一緒に、鍛錬しておくべきだったのじゃ……。


ということでじゃ。

妾はこの無礼者を懲らしめるべく、次の手段に出たのじゃ。


「…………」ブツブツ


「……どうしたんじゃ?急に黙りこくって……」


「……ふっ。妾の魔法が、言霊魔法だけと思うでないぞ。肉キツネ風情が!」


ドゴォォォォ!!


……そうなのじゃ。

ユリアほどではないにせよ、妾も幻影魔法が使えるのじゃ。

いや、正確には異なる別の魔法じゃな。

妾の魔法は相手の思考に作用する言霊魔法の亜種みたいなもので、ユリアみたいに現実の物理現象を引き起こすようなトンデモ魔法とは少し違うのじゃ。

詳しい話は……一度本編で出てきたはずなのじゃ…………確かの。


というわけでじゃ。

妾は……ワルツの機動装甲に変身したのじゃ。

……じゃが……


「…………?」


キツネのやつ、変身した身体の表面よりも内側で、涼しい顔をして、中心にいた元の姿の妾に抱きついたまま離れなかったのじゃ……。


「き、効かぬ……じゃと?!……ぐぬぬ!!」


……こやつ、どこまでも妾を愚弄する気なのじゃ!

勝っておるのは…………なんか、本当に尻尾だけな気がしてきたのじゃ…………。

何でじゃろう……急に眼の前が、また歪んできたのじゃ……。


「……さっきから、何をしておる……?急に(わめ)いたり、起こったり、泣いたり……。(せわ)しい奴じゃの?」


「……もう良いのじゃ……」


ふむ……。

仕方ないのじゃ。

こんな下らない状況を脱するために最終手段を使うのは至って忍びないのじゃが……アレをやるしか無いのう……。


「はぁ……」


妾はこれから起こるだろうことを思って、深い溜息を……いや、深呼吸をしたのじゃ。

そして覚悟を妾は、呪文を……それも破滅の類の呪文を口にしたのじゃ。


「……ルシア嬢の料理はまz」


ブゥン……


……ふむ。

嬢のやつ、妾の小言を四六時中聞いておるに違いないのじゃ。

……妾の部屋の中におらんかったのに、どうやって聞いておるのかは分からぬがのう……。

そうでなければ……正真正銘、呪いの言葉ということになるかのう……。




ガチャッ!


「ふぅ。やはり、朝風呂は気持ちが良いのう?」


と、着替えて脱衣所から出て、妾の眼に入ってきたのは、15:32と書かれた時計の文字だったのじゃ。


「はぁ……」


……ワルツも、まるで妾に恋をしておるように、深い溜息を何度も付いておったが……恐らく、妾が感じておるこのどうしようもない脱力感までは、流石に感じておらんかったのではなかろうかのう……。


そんな半分溶けかかったような表情を浮かべておる妾に、リビングのテーブルで、数十個の歯車を組み合わせて何かを作っておるルシア嬢が、(おもむ)ろに声をかけてきたのじゃ。


「……テレサちゃん、そんなに私の事、嫌い?」


「いやいやいや、そんなことはないのじゃ。あれは抱きついてくるキツネをどうにかするための緊急事態じゃったから、仕方なく口にしただけのことなのじゃ。嫌いなんてことはないのじゃぞ?」


……怖いがの。


「……なら、助けて、って言えばいいのに……。私はてっきり、キツネさんとテレサちゃんが、禁断の関係に突入したのかと思ってたんだけどなぁ……」


……嬢よ。

最近、ユリアの影響を浮けて、腐っておらぬか?

え?妾?

至って普通の女子じゃと、確信を持って言えるのじゃ!


「……ふむ。今度からそうするのじゃ。ところで嬢よ?キツネはどこいったのじゃ?まさか、まだ妾の部屋におるとは言うまい?どこにもいないのなら、野生に帰ったのかのう……」


「えっ?」


……どういうわけか、妾の言葉に、不思議そうな声を上げるルシア嬢。


「いやの?今、妾、風呂に入っておったから、その間、キツネはどうしたのかと思ってのう?」


「……えっ?」


「えっ?」


何故か話が噛み合わぬ様子の妾とルシア嬢。

……すると嬢は、その理由を口にしたのじゃ。


「後ろにいるじゃん」


「……えっ?」


「ワシならここにおるぞ?というか、そもそも、キツネという名ではないぞ?」


「……」ゾワッ


その声を聞いた途端、妾の尻尾が、まるでタワシか釘バットのように、トゲトゲに膨らんでゆくのが分かったのじゃ。


「ぬあっ?!い、いつからおったのじゃ?!」


「そうじゃなぁ……主が風呂の中で、自身の尻尾を三つ編みして遊んでおった頃には既に真横におったのう……」


「……殆ど最初の方ではないか!」


どうして妾がそんなことをしておったのか。

……説明は省くのじゃ。

いやの?

てもちぶさた?というやつかのう……。

途中、毛が絡まって取れなくなった時には後悔したがのう……。


「というか、お主、姿はどうしたのじゃ!どう考えてもおらんかったじゃろ?!まさか、イブ嬢みたいに、にんじゃーごっこをして遊んでおって、風呂場の換気扇に挟まっておったわけでもあるまい?!」


前にのう……そんなことがあったのじゃ。

あの時は大変だったのう……。

……風呂場の換気扇の交換作業が。


「そのイブ嬢とやらはよく分からぬが、ワシは自由に姿が消せるからのう」


キツネはそう言うと……


ブゥン……


……まるでワルツのように、忽然(こつぜん)と姿を消したのじゃ。


『……』


その様子に妾とルシア嬢は眉を顰めたのじゃ。

……こやつ、妾たちのプライベートを侵すつもりなのじゃ、とな。

む?

幽霊?

何じゃそれは?

妾は科学的なものしか信じないのじゃ。

……妾が使う魔法?

……進んだ科学なのじゃ!


「どうしよっかぁ……」


どうやらルシア嬢が、覗き魔に対する撃退の方法を考え始めたようなのじゃ。

……あぁ、これはキツネの人生(?)が終わったの。

妾の入浴姿を盗み見て、この主殿の家から生きて出られるとは思うな、なのじゃ!

まだ、ワルツにも見られたこと無いのに……なのじゃ。


「キツネさん?」


嬢は、何も無い空間(妾の後ろ)に向かって、問いかけたのじゃ


するとのう?


「……」ガタガタガタ


何故か怯えた様子のキツネが、妾の背中に身体を縮こませた状態で現れたのじゃ。

……キツネよ、体格を考えるのじゃ……。

全く、隠れきっておらぬぞ?


「えっとねー、キツネさん。この家の中では透明になることは禁止だからね?じゃないと……分かるよね?」


そう言って、ニッコリと笑みを浮かべるルシア嬢。

うむ。

妾は確信したのじゃ。

多分ルシア嬢は、笑顔だけで人を殺せる、とのう。

……物理的に。


「わ、わ、わかった。分かったのじゃ」


震える声で話すキツネ。

そんな彼女の姿を見て、妾は2度寝をする前から持っておった疑問を口にしてみたのじゃ。


「のう、ルシア嬢?キツネが随分と怯えておるようじゃが……何かあったのかのう?」


「え?なんにもないよ?何か、昨日、可愛い姿の方のキツネさんと一緒に寝てたら、急に大っきくなったから、驚いて吹き飛ばしちゃったくらい?」


「……それは、何もなかったとは言わぬぞ?」


どうやらキツネは、理不尽なルシア嬢に折檻されたことが原因で、身と心に大きな傷を負ってしまったらしいのじゃ。

妾も寝ぼけたルシア嬢に、何度消されかけたことか……。

……もしも嬢が、並外れておらぬ回復魔法を使えんかったのなら、恐らく妾はここにおらんじゃろうのう……。


……ところでじゃ。

そこまでされたなら、普通は尻尾を巻いて、逃げ出すはずなのじゃ。

こやつ、自分の家があると言っておったしのう。


じゃから、妾は言ったのじゃ。


「のう、お主。昨日はドタバタしておったから、1日泊めることになったが、主は帰らぬのか?というか帰って欲しいのじゃが……」


確かこの国で招かれざる客を返す時は、お茶漬けじゃったか、松前漬けじゃったかを食べさせるんじゃったかのう?

残念じゃが、両方とも冷蔵庫の中には無いから、後で買いに行ってくるかのう……。


するとの?


「……」


キツネのやつ、急に険しい顔をして黙りこくってしまったのじゃ。


で、しばらくして言った言葉がこれじゃ。


「……帰りとうない。帰りとうないのじゃ!」


そして……奴は泣き出してしまったのじゃ。


『……?』


そんなキツネの様子に、妾もルシア嬢も、思わず顔を見合わせてしまったのじゃ。


嬢のやつ……こんな面倒な者を拾ってきて、一体、どうするつもりなのじゃろうか……。

……書いておって悩んだのじゃ……。

……もう少しワルツ成分を……いや、なんでもないのじゃ……。




……かゆい、ねむ……なのじゃ……zzz。

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