2.2-14 うみ?6
「あやしい……」じとぉ
「…………」ぷるぷる
聞いてもいないのに雨女の話をするアメちゃん。
私と視線を合わせずにそっぽを向いて、小刻みに震えているところが、なおさらあやしいです。
そう言えば、前にキャンプをした時とか、アメちゃんが家に住むことが決まった時とか、事あるごとに雨が降っていたような……。
「まぁ、いいけどね。私、雨女とか、信じてないから」
「えっ……」
「……もしかして、雨女だと思ってほしかったの?アメちゃん?」
「い、いや……そういうわけでは……ないぞ……?」
「やっぱり、あやしい……」
雨女かどうかは別にして、アメちゃんがすっごく挙動不審です。
これ、絶対なんか隠してますね……。
今度、問い詰めてみよっと。
まぁ、それは置いておいて。
どうしよっかなぁ……雨……。
このままだと、海で泳いでもあまり楽しくないし……やっぱり晴れてる方が良いですよね。
それにみんな楽しみにしてたんだし……。
というわけで、対処策を提案してみようと思います。
……誰に、って?
もちろん、我が家で全権を握っている主さんです。
「……主さん。テレサちゃんに天気変えてもらうように頼んでもいいなぁ?」
それに対して――
「…………」ふるふる
主さんは、首を縦に振りませんでした。
その理由は簡単です。
「……そうだよね。私たちの存在がバレちゃったら大変だもんね……」
下手に魔法を使って、私たちの存在が公の下に晒されるようなことがあったら、世界全体が大変な事になっちゃいます。
……いえ。
私たちが有名になっちゃうとか、それはそれほど重要なことじゃありません。
それが原因で、もっと面倒な事になっちゃうほうが大変です。
……お姉ちゃんたちの存在が、世界に知れ渡る……。
それが何を意味するのか。
私の想像を超えた話になっちゃうので断定は出来ませんが……。
多分、日本は、全世界の国から除け者にされて、孤立することになっちゃうでしょう。
――世界を一瞬で滅ぼせるだけの超兵器を隠し持っていた、と言われて……。
……え?私?
ちょっと何言ってるか分かりませんねー。
「まぁ、雨が降ってても、嵐とかじゃなければ、泳ごうと思えば泳げるし……それに最悪、別の遊び方もあると思うしね」
「…………」こくこく
「うん、そうだよね。主さんの言う通り(?)、降水確率自体は元々0%なんだから、すぐに晴れるかもしれないしね」
でも……。
テレサちゃんは、どう考えてるんだろう……。
その辺、ちゃんと考えてるのかなぁ……。
考えれば考えるほど、放っておいても、テレサちゃんが魔法を使うような気がしてきました。
彼女には前科がありますし……。
「……ちょっと電話するね?」
「…………」こくり
「うむ。構わぬ」
主さんとアメちゃんの表情を見ると、2人とも同じことを考えていたみたいです。
なら、ちゃんとテレサちゃんのことを止めないと!
トゥルルルル……
呼び出し音が6回ほど鳴って――
『はい。佐々木なのじゃ?』
佐々木さんが電話に出ました。
いったい誰でしょうね?
もちろん、テレサちゃんの番号に掛けているので、テレサちゃんしかいないんですけど……。
『……テレサちゃん、ふざけてるの?』
『……偽名なのじゃ。お主だって、佐々木と名乗ることがあるゆえ、分かっておるじゃろ?』
『……この前、佐藤って言ってなかった?』
『……田中、とは名乗ったことがあるかの?イニシャルが”テレサ”も”田中”も、両方とも”T”じゃからのう』
冗談なのか、本気なのか、良く分からないです。
でも多分、本気かなぁ。
『で、テレサちゃん。そっちの天気はどうなの?こっち雨降ってるんだけど……』
『うむ……残念ながら雨なのじゃ?まぁ、皆の者たちは、気にせず泳いでおるがの?どーせ、アメがこっちに向かってきておることが原因なのじゃろ?』
『テレサちゃんもそう思うんだ……』
『アメは生粋の雨女じゃからのう……』
これが、以心伝心、というやつでしょうか?
もちろん、私とテレサちゃんが、じゃなくて、アメちゃんとテレサちゃんが、ですけど。
さて。
いつまでも電話をしているわけにもいかないので、さっさと本題に入ろうと思います。
『ところでテレサちゃん。魔法使って、天気変えてない?主さんが、天気を帰るのはダメ、って言ってるよ?』
と、私が問いかけると――
『……ふっふっふっふ……』
何を思ったのか、テレサちゃんが、気持ちの悪い笑い声を上げ始めました。
『……もう切っていい?』
『冷たいのう……』
『いや、だって、テレサちゃんが怪しげな笑い声を上げるから……』
『……ふっふっふっh』
ブツッ……
プーップーップーッ……
「……テレサはなんと言っておった?魔法とやらは使っておらんかったか?」
「直接は聞いてないけど……使ってないと思う。向こうも雨降ってる、って言ってたし……。それに一応、釘を刺しておいたから、今日は多分、使わないんじゃないかなぁ?」
「さよか。お主らも、中々、気遣いが大変じゃのう?」
「んー、テレサちゃんはそうかもしれないけど、私の場合はちょっと違うかな?」
「ん?」
「ううん。なんでもない」
そう。
私は、魔法を使うか使わないかに、気は使ってません。
気を使っているのは、魔法の行使がバレないように、魔法を隠蔽するアルゴリズムの部分です。
具体的に言うなら――オートスペルの部分に、ね。
それに、もしもまったく魔法を使わないと……いえ。
なんでもありません。
その話は、機会があったら、いつかゆっくりと話そうと思います。
そんなこんなで……。
目的地に到着するまであと1時間。
私たちは雨の中を走る車に揺られ続けたのでした。
早く、夏、終わんないかなぁ……。
我が家の人たちは、みーんな暑いのが苦手です。
テレサちゃんなんか、今の時期、5分外で活動しただけで、熱中症にかかっちゃいます。
あれで本当に機械の身体なのかなぁ……。




