2.2-12 うみ?4
「…………ふっふっふ。潜水艦ゲームで鍛えた妾の心理戦が、いま始まる……!というわけじゃな?」
『いえ、拒否します』
「えっ……」
そりゃそうですよ。
僕は空中戦艦であって、水中の戦闘に特化した戦艦じゃないんですから。
そりゃ、トルピードの1発や10発くらい受けたところで、分身たちがその衝撃を上手く往なすでしょうから、沈むことは無いですけれど、この世界に来たときにワルツ様と交わした約束を反故にする事になりますからね……。
すなわち、どんなことがあっても、自分たちの存在を公にしない、という約束を、ね。
『戦わないで逃げますよ?』
「う、うむ……しっかし、見たかったのう……。この世界の戦艦と、異世界の戦艦の戦闘……」
『そんな舌を噛みそうな言葉、よくスラスラと言えますね……。というか、水中で使える武装は無いんですから、戦いようが無いじゃないですか……』
まぁ、無いわけじゃないんですけど、使ったら間違いなく国際問題に発展すると思うので……この話はここまでにしましょう。
とにかく今は、逃げるが勝ちです。
幸い、僕はマイクロマシンの集合体。
形状は好きなように変えられます。
この場合は――
ゴゴゴゴゴ……
針のような形状に変わって、タービン推進ではなく、重力推進で移動することにしましょう。
そうすれば、アクティブソナーにも、パッシブソナーにも、引っかかりにくくなりますからね。
でも、重力推進って、正直、燃費が良くないんですよね……。
核融合炉を搭載している姉なら、海水からいくらでも電力を供給できるので、水中での重力推進はやりたい放題なんですけど、僕の場合、そうじゃないですから……。
なお、これを書いている時点において、本編の方で僕のエネルギー源の話をしていないので、これ以上の説明は省略します。
「……気のせいかの?さっきまで広かったはずの艦橋が、気付いたら、すっごく狭くなったような気しかしないのじゃが……」
『いえ、些細な事なので気にしたら負けですよ?それじゃあ、加速するんで、口を閉じてて下さい』
「ちょっ……何をするつもr」
ドゴォォォォォ!!
戦術的撤退です。
まぁ、最初から選択肢は――
→ にげる
離脱する
Run away
これしか無いんですけれどね。
◇
そんなこんなで、僕たちは、伊豆半島にある、とある海水浴場へとたどり着きました。
逃げる途中、何度かアクティブソナーのピンガー音が聞こえてきましたが、水中を超高速で蛇行して移動した挙句、宇宙にある監視衛星の眼を欺くために、分裂したり、岩礁に化けてみたり、表面温度を水温と同じにしたりと、色々工夫したので……今もなお追跡されている、なんてことはまずないでしょう。
周囲を見渡す限り、それらしき艦船や飛行体もありませんし……。
もしかすると、相手も潜水艦だったのかもしれません。
『いやー、長旅でしたが、ようやく着きましたね?』
僕たちが海岸についたときには、山の陰の方から太陽が登りつつある時刻でした。
ルシアちゃんによって皆さんがこちらに転移してくる予定時刻まで……あと15分くらい、といったところでしょうか。
「…………」
あれ?
変形して、最終的に、球体状のポットのような形をしていた僕の中から、テレサ様が出てこようとしません。
ここはもう砂浜の上で、海水に濡れるような場所ではないのですが……。
そんなに僕の分身たちが作った4点固定式のシートベルト付きバケットシートが気に入ったのでしょうか?
『どうかなさいましたか?テレサ様?』
「お主…………わざとやったのではなかろうかの?」
『はい?何の話ですか?』
「…………いや……何でもないのじゃ…………うっぷ」げっそり
おや……。
これは船酔いのようですね。
でも水中では殆ど波の影響が無かったはずなのですが……え?
そうじゃない?
まぁ、何れにしても大したことはないので、テレサ様が出てくるのを待つ間、ルシアちゃんたちに連絡しちゃいましょう。
というわけで、近くにいた分身たちを集めて――
『ふぅ。太陽が出ていない内は、夏というのも悪くないですね。海の中を移動してきたせいで、ちょっと口の中がしょっぱいですけど』
人の姿に変身します。
セミの姿のままだと、端末を使うのも一苦労ですからね。
『えーと?』
携帯端末表示されていたルシアちゃんの名前をタッチすると――
トゥルルルル……
当然、電話がかかります。
他にも、いくつか通信手段はあるのですが、あまり変な電波を出すデバイスを使うと、傍受されたり、発生源を突き止められちゃったりするので、普通に電話をかけるのが一番安全だったりします。
そして数秒後。
ガチャッ……
『……もしもし?ねむい……』
いつもどおりのルシアちゃんの声が、端末の向こう側から飛んできました。
そう、いつも通りです。
ルシアちゃんは、朝がすっごく弱いんですよ……。
『ルシアちゃん、着きましたよ?今のところ、周囲に人影は無いので、皆を送るなら、今がチャンスかもしれないですよ?』
『ふーん……。じゃぁ、いく?』
彼女がそう口にした瞬間、
ブゥン……
と、ほど近い場所を音源とした鈍い音が聞こえてきました。
ルシアちゃんの転移魔法で、同行者がやって来たようです。
「……海です!」キラキラ
「夏いです……」げっそり
眼前に広がっていた海を見て、そう口にしたのは、ローズマリーちゃんと冷花ちゃんです。
話し方は似てますが、性格は真逆です。
まぁ、冷花ちゃんが嫌そうな表情を浮かべてるのは、暑いことが原因なので、冬になれば逆転するかもしれませんけどね。
この二人が来たということは――
「夏ですね……」げっそり
「今日は絶対に、こんがりと焼いて帰りますよ!」キラキラ
つまり、それぞれの保護者もやってきた、ということです。
ただ、娘たちと違って、保護者の方は、正反対の反応を見せているようです。
ユリア様は白い大きな帽子を被り、白いワンピースと、白いロンググローブを付けて、完全紫外線防備の様子。
一方、ユキ様は、白い肌を強調するような露出度の高い水着を来て、泳ぐ気満々な様子です。
ユキ様は雪女で魔王ですけど、暑いのも熱いのも大好きですからね。
ダメージを受けるのに……。
逆にユリア様は、暑いのが苦手な様子。
……っていうかユリア様?
元から肌の色が褐色なので、それ以上焼けないと思うのですが……これ、突っ込んだらダメなやつですか?
その他――
「スイカ割りかもだね!」
「ちゃんと準備してきましたよ?ね?後輩ちゃん。持ってきたでしょ?」
「…………あ゛」
「「…………え゛」」
イブちゃんとシルビアちゃん、それにリサちゃんがやって来ました。
まぁ、ユキ様とユリア様が来たら、自動的に、この3人も付いてきますよね。
あと――
「くっ…………頭痛が痛い……」
「まぶしぃ……久しぶりに外に出ると目が痛いです……」
そう言って頭を抱える狩人様と、リアル引きこもりのシラヌイ様も来たようです。
そして、最後に――
「…………」ゴゴゴゴゴ
近所のお兄さんが現れました。
彼のことは華麗にスルーしてもいいのですが……。
初登場なので、一応説明だけしておきます。
『ジョンさんも来たのですね?』
そう、彼の名はジョン。
Johnです。
とは言っても、一応、日本人。
まぁ、そこまで言えば、大体、どんな立ち位置の方なのか、分かってもらえるのではないでしょうか。
あ、そうそう。
彼が、狩人さんやシラヌイさんが住んでいる家の家主です。
「まて……ポテンティア……。俺は今、頭が痛い……」げっそり
『あー、また、狩人さんと、夜遅くまでどんちゃん騒ぎをしてたんですか?知らないですよ?いつか警察に連れてかれてもー』
狩人さんもげっそりしているところを見ると、どうやら昨晩も2人で酒盛りをしていたようです。
どうせ、また、意識が無くなるくらい飲んでいたのでしょう。
アルコールを摂取したところでシステムに何ら影響の出ない僕にはよく分かりませんが、この時期はビールという液体が美味しいと聞きますからね。
というわけで。
第一陣としてやって来たのは、10人でした。
ルシアちゃんやアメ様、それに主さんたちは、後で車で来る予定です。
……あ、そう言えば、もう一人、ここに来てる人物を忘れてました。
「これ……帰りも乗らねば……ならぬのじゃよな?」ぷるぷる
『えぇ。もちろんです。来た時もそうでしたけど、ちゃんと安全運転で帰るので安心して下さい』
「……妾、もう……ダメかも知れぬ……」げっそり
もう、困りましたねぇ……船酔い。
これは諦めてもらうしか無さそうですね……。
一つだけ補足します。
ここまでローズマリーちゃんが登場していなかった理由について。
ご存知の通り、ローズマリーちゃんが本編に登場したのは、ここ数ヶ月の話。
なので、彼女をこちらの物語に登場させることが出来ませんでした。
もちろん彼女は、最初からユリア様と一緒に、テラ家でお世話になっていたりします。
まぁ、僕自身も最初から登場していたわけではないので、僕と同じような境遇のキャラクターだと考えていただければ幸いです。
他にも同じような方が多数いるのですが……。
まぁ、それは、本編の方で登場してから、各々境遇を説明していこうと思います。




