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ニート狐たちのフォックストロット  作者: ポテンティア=T.C
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2.2-03 ほたる?3

小さくはありましたが、この家の中での地位向上に近づいた手応えはありました。

まぁ、アメさまは、相当僕のことが苦手そうなので、そう簡単にはお近づきになれなそうですけれどね……。


それから僕が、未だ殺虫剤を手にしたままで、ぷるぷると震えていたアメさんに、苦笑を向けていると――


「そう言えば、ポテちゃん。ポテちゃんは、ホタルって見たことある?」


ルシアちゃんが、「ほら、これ」と言いながら、タブレット端末を僕の方に向けてきます。


『ホタルですか……。いえ。この地区に潜むようになってから、基本的に動いたことはないので、ホタルも見たことはありませんね。知識としては知っているのですが……』


「そっかぁ……。これはやっぱり、ホタルを見に行くしか無いね?主さん!」


「…………」こくり


ルシアちゃんの問いかけに、小さく頷く主さん。

その際、ルシアちゃんは、まるで宝石を見た少女のように、パァっと明るい表情を見せます。


するとその直後。

主さんが何やら空中で指を動かすと、空中にホログラム製の50インチワイドモニターが現れて、そこに地図が表示されました。

ちなみにこれ、魔法でもなんでもなくて、科学です。

まぁ、一般的な科学か、と問われれば、なんとも言い難いところですけれどね。


その様子を見て――


「「「おぉ……」」」


と、感動したような表情を見せる狐娘2人とアメさん。

ちなみにアメさんを『狐娘』に数えなかったのは、彼女がなんとなく『娘』とは言えない……いえ、なんでもありません。


「む?お主、今、失礼なことを考えおったな?!」


『いえ。ほら、見てくださいアメさん。主さんが無言で、地図を突いていますよ?』


「お主、誤魔化s」


『そこ……近所じゃないですか』


「うん、しかも市内だね」


「まさか、綺麗な水でしか生息できないホタルたちが、街の中に生息しておると?」


「…………」こくり


「「『へー……』」」


……どうにかアメさんを巻くことに成功したようですね。

まったく、この家の人たちは、皆、妙に鋭くて、大変です。


アメさんを巻いた証拠に、彼女も話題に参加して、話し始めました。


「ふむ……この場所は、ワシが住んでおった神社からほど近い、別の神社近くの川のようじゃの。昔、ワシも、何度か行ったことがある。最近は『すいしつおせん』とやらが進んで、見えなくなったと思っておったが……」


「ほう?アメは随分と昔からこの町のことを知っておるようじゃのう?もしやおぬs」


「(ちょっ、ダメだよテレサちゃん!突っ込んだりしたら……。ユリアお姉ちゃんが言ってたでしょ?人っていうのは、人生の中で、自分の年齢をごまかしたくなる時が来るって。きっと今のアメちゃんは、そういう心境なんだよ)」


「(いや、それ、普通、自分の年齢を低く見せたい場合じゃと思うのj)」


「む?主らも、失礼なことを考えおったな?」


「「…………」」ふるふる


「まったく……困った(わっぱ)たちじゃのう……」


そう言って、しょんぼりと獣耳を倒すアメさん。

どうやら彼女は、相手が何を考えているのか、大体分かってしまうようです。

ルシアちゃんが何も言わない主さんの考えが分かるのと、近い原理なのかもしれません。


例えば、こんな感じで。


「それで、いつ行くの?主さん」


「…………」


「え?今夜?」


「…………」


「ふーん。ホタルって、日没直後から9時くらいまでが、一番光るんだって?」


……これ、指摘したら負けなんでしょうね。

ルシアちゃんはどうやって無言の主さんと意思疎通を図っているのでしょうか。

不思議でなりません……。


以前はこのことに、テレサ様も、そしてアメさんも頭を悩ませていたようですが、今では彼女たちも『こういうものだ』と受けれいているようです。

そのせいか、2人とも苦笑を浮かべているものの、そのことを追求しようとはしませんでした。


「出発は何時頃かの?」


「…………」


「6時だって。少し遠いけど、歩いて行くみたいだよ?」


「む?これは早めに今日の分の執筆を済まさねばならぬのじゃ!」ずさっ


「ふむ……歩いて行くのか。なれば、たまには、ワシの神社にも立ち寄りたいのう……」


「…………」こくり


「すまぬのう?家主どの」


「ということは…………今日の晩御飯は稲荷寿司?!」きゅぴーん


「……ル、ルシアよ?今日の昼ごはんは何じゃったか覚えておるか?」


「え?お寿司?」


「じゃぁ、その前は?」


「えっとねぇ……お寿司!」


「……それでも稲荷寿司を食すのじゃな……」


稲荷寿司については、アメさんも大好物のようでしたが、毎食食べてもいい、とまでは考えていなかったようですね。

ちなみに彼女の2番目の好物は、鶏の唐揚げだったりします。

中でも、骨付きの手羽先が大好きらしいです。


「ポテちゃんはどうする?一緒に来る?」


『僕ですか?僕は……』


「……何を悩んでおるポテよ。主も共に来るが良い。寝食を共にする家族じゃろ?」


『…………え?』


正直、その言葉は意外でした。

てっきり、アメさんは僕のことを、家族だと認めていないと思っていたのですが、そういうわけではなかったようです。

僕の早とちりでしたでしょうか。

……それにしてはアメさん、まだ、殺虫剤の缶を握りしめたままですけれど……。


『……分かりました。ではその言葉に甘えまして、僕もアメ様の古いお宅にお邪魔することにしましょう』


「えっ……」


『えっ?そういう話ではないのですか?』


一体何なのでしょう……。

どうも、アメさんが何を考えているのか……僕には分かりかねます。


ともあれです。

こうして僕は、こちらの世界に来てからと言うもの初めて……いえ、2回目の外出をすることになりました。

今年もすでに、蛍の季節が始まっているようです。

春に続いてやってくるカラッとした温かな空気と、その後に控える梅雨のジメッとした空気。

その境目の季節で見る風物詩、ホタル。

彼ら、意外と都市部でも見ることが出来るんですよ?

町にホタルを取り戻そうと、放虫している自治体が増えているようなので。

まぁ、まだ少しだけ早いですけれどね。


ちなみに僕は、ホタルを見るよりも、移り変わる季節を肌で感じている方が好きです。

温度、湿度、匂い、虫の音、空の星の瞬き、そしてそこに生きる人々の生活の移り変わり……。

その毎年の違いを感じ取るのが……まぁ、僕の趣味みたいなものです。


そんなこと言ってるから、近所のおばあちゃんに、『おじいちゃんみたい』って言われるんですけどね……。



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