2.1-10 ゆきおんなとおんせん?5
ざわざわざわ……
「これ、拙いんじゃないかなぁ?」
「い、イブは、温泉に入ってただけかもだからね?」
「「「…………」」」
脱衣所を出たところで待ち構えておった従業員たち。
それを見て、皆が、固まってしまったのじゃ。
……ふむ。
ここは冷静になって考えて見るべきだと思うのじゃ?
果たして本当に、妾たちのことがバレてしまったじゃろうか?
ユキ殿も冷花嬢も、凍った身体を溶かした今の見た目は、普通の人間と変わりないのじゃ。
それに他の者たちは、いつも通り、妾とユリアとで、変身魔法を使って、獣耳と尻尾を隠しておるから、人間でない事がバレてしまった可能性は低いはずなのじゃ。
あるいは、冷花殿が力を暴走させてしまったところを見られてしまった可能性、またはルシア嬢の魔法が見られてしまった可能性はどうじゃろうか。
その場合は、浴室や脱衣所に防犯カメラを設置せねばならぬはずじゃが……。
見た感じ、脱衣所にも浴室にも、そういったものは無かったように思うのじゃ。
一応、その辺は、いつも確認しておるからのう。
となると、従業員たちが変顔(?)をしてこっちを見ておるのは……
「……あれかのう。皆、やはり、ユリアの顔が怖いと思って……」
「んなわけ無いじゃないですか!怖いなんて、一度も言われたことないですよ!?」
……じゃよなー。
となると、やはりどこかで見られたとしか考えられぬ……。
というわけで、なのじゃ。
とりあえず事情を聞いてみて、それから対処してみようと思うのじゃ?
……ただし。
妾の喋り方だと、ワルツ曰く『逆に警戒される』らしいゆえ、別の喋り方に変えて、問いかけてみようと思うのじゃ?
かもーん、コル!
「……おっほん!えーと〜、皆さんどうしたのですか〜?そんな怖い顔をして〜?」
「「「…………」」」
「「「?!」」」
その瞬間、その場の空気が、2つに別れたのじゃ。
1つは、従業員たちの苦々しい表情によって作り出された空気。
そしてもう1つは、身内の者たちが見せた驚愕の表情によって作り出された空気。
その2つなのじゃ。
前者はともかくとして、後者の方は、妾の喋り方が変わると予想できなかったための結果だと思うのじゃ。
コルと同じ存在である妾がやるからこそ、より効果的……というか、皆には、本人そのものにしか見えなかったのではなろうか?
妾とコルは、99%以上、同じ存在じゃからのう。
ルシア嬢たちのことを黙らせてしまうつもりは毛頭なかったのじゃが……まぁ、なってしまったものは仕方ないのじゃ。
ただ、その効果は、身内だけに限ったことで。
従業員たちには無関係のことだったのじゃ。
結果、彼らの内、先頭に立っておった者が、妾の問いかけに答え始めたのじゃ。
ただし、どういうわけか、頭を下げながら、の?
「申し訳ございませんでした!」
「……え?」
……はて?
何か謝られるようなことはあったじゃろうか?
「ボイラーが壊れてしまったせいか、配管が凍ってしまうほどの冷水が浴室に供給されてしまい、そのせいでもしかしたらお客様にお怪我をさせてしまったのではないかと、つい今しがた連絡を受けまして……」
ふむ、なるほどのう。
つまり、従業員たちは、浴室で何かあったのかを知っておるわけはないようなのじゃ。
冷花嬢によって凍るほどに冷やされてしまった浴槽の水も、飽くまでボイラーのせいでそうなってしまった、と考えておるようじゃのう。
妾たちがテラ殿の救出作業しておる間、他の客が入って来なかったのも、もしかすると、従業員たちが足止めをしたせいかもしれぬの。
「そうでしたか〜。浴室の中では、特に変わったことは何もなかったですよ〜?なんでしたら、浴室の様子を見に行かれてはいかがでしょうか〜?」
……うむ。
試しに、コルの真似をしてみたのじゃが、意外に行けるものじゃのう?
今度から頻繁にコルの真似をして……
「……じー」
……い、いや、やっぱり止めておくのじゃ。
どうもルシア嬢の視線が、怖いのじゃ……。
この感じ、ルシア嬢のやつ、妾がコルの真似をすることに、忌避感を抱いておるに違いないのじゃ……。
妾がルシア嬢の視線を感じて、背中に冷や汗のようなものを掻いておると、
「で、では失礼して……」
数名の女性従業員が、脱衣所へと入り、そしてそのまま浴室へと消えたのじゃ。
確認しに行ったところで、浴室の中は、ルシア嬢の魔法で元に戻っておるのじゃ。
何も異変は見つからぬじゃろう……。
「さて〜……。それではそろそろ、私たちは帰らせてもらいますね〜?自宅に着くまでしばらく時間がかかると思いますし〜」
「あの……一応、確認ですが、お客様方には、まったくお怪我などは無かったのですね?」
「もちろんですよ〜?ね〜?みんな〜?」
「「「…………」」」コクコク
「そうですか……。お時間をお取りしまして、申し訳ございませんでした。お詫びに、無料の入浴券を……」
「大して時間など取られていないのに、こんなサービスをしていただけるなんて〜……ありがとうございます」
フッ……。
これでタダ風呂に入れるのじゃ……!
まぁ、しばらくの間は、様子見のために、距離を置こうと思うがの?
「それでは皆さん、帰りましょうか〜?」
そう言って、先頭を歩く妾。
その際、他の従業員の者達を観察しながら、変な反応がないかを確認しておったのじゃが……。
皆、単に、妾たちに怪我が無かったかを確認したかっただけのようなのじゃ。
さきほどまで、どこかおどろおどろしい雰囲気があったのじゃが、今ではすっかりそれも無くなって、皆、安堵しているみたいなのじゃ。
何も無くて、良かったのじゃ?
◇
それから、下駄箱でシットリと濡れた靴を取り出し、履いて、外に出たところで……
「もしかして……コルちゃん?」
ルシア嬢にそんなことを言われたのじゃ。
その際の彼女の眼力……。
どう見ても、妾がコルの真似をしておることを見抜いておる感じなのじゃ。
しばらく、コルの真似をして、イブ嬢やユリアたちのことを弄りたかったのじゃが……そんなことをしたが最後、ルシア嬢に何をされるか分かったものではないのじゃ。
「まさか、そんな訳はなかろう?妾は妾なのじゃ」
「…………」
……何じゃ?ルシア嬢。そんな真剣な顔をしおって……。
実は本気で、妾とコルがと入れ替わっておると思っておったのかの?
そんなこと考えておると、ルシア嬢が急に妾の肩を、
ガシッ!
と、掴んで……何故か顔を近づけて来たのじゃ。
ち、近いのじゃ?ルシア嬢。
というか、お主は、一体何を考えておるのじゃ?
妾には、そういった類の趣味は無いのじゃぞ?
……え?ワルツ?
ワルツは妾の未来の夫なのじゃ?
それが何か?
「……うん。間違いなく、テレサちゃんだね」
「……は?」
「だって、テレサちゃん、お風呂に入っても取れないくらい、機械の臭いがするんだもん」
「えっ?!」くんくん
「もう、今度から、コルちゃんの真似をする時は、事前に言ってよね?」
「う、うむ……」
なんじゃ、こやつ……。
どうして、安堵したような表情を見せておるのじゃ?
妾はたまに、ルシア嬢の反応が分からなくなることがあるのじゃ。
まぁ、気にしても仕方ないがのう……。
……って、妾、そんなに臭うのかのう?
こうして妾たちは、家へと戻ることになったのじゃ。
その際、車に乗り込む直前、ユリアやシルビア、それにイブ嬢や狩人殿の微妙そうな表情と誤解を解くのに、いったいどれだけの労力が必要になったのか……。
想像を絶するほどの難易度で、二度とコルの真似をするまい、そう思った、とだけ述べておこうかの?
ただのう、今回の一件で分かったことがあったのじゃ。
コルよ……。
お主、いつも仲間たちから、こんな視線を向けられておったのじゃな……。
ふぅ……。
ようやく、第2弾目の温泉の話が終わったのじゃ……。
やはり、キャラクター視点で書くというのは大変なのじゃ。
というか、妾みたいに癖がある喋り方じゃと、余計に書きにくいというか、違う意味で書きやすいというか……。
次回書く時には、試しにナレータも混在させて書いてみる、というのも悪くないかも知れぬのう。
読者には試行錯誤の過程を見せてしまって、申し訳ないのじゃがの……。




