2.1-09 ゆきおんなとおんせん?4
リサの存在を忘れておったのじゃ……。
一言だけ追加したのじゃ……。
もうダメかも知れぬ……。
「しかし、ユキは立派じゃのう?雪女とは到底思えぬ姿をしておるのに、冷花殿に凍らされても、嫌な顔ひとつ見せぬとは……」
「いやの?アメよ。ユキ殿は、確かに、こちらの世界の雪女ではないかも知れぬが、妾たちのいた世界では、紛れもなく雪女だったのじゃ。しかも、一国の王で、更に言えば、ワルツに改造されたサイボーグなのじゃ?そんなユキ殿が、冷花嬢の冷凍ビームを食らったくらいで、音を上げるわけがなかろう」
「れ、れいとうびーむ……じゃと?」
おっと。
アメには分からぬ言葉だったようじゃのう。
まぁ、本当に、冷凍ビームを使ったかどうかは知らぬがの?
「簡単に説明すると魔法なのじゃ。今度、ルシア嬢に見せてもらうと良いのじゃ?」
「え?いいの?地球滅びるよ?」
「「「えっ……」」」
ルシア嬢……。
お主、一体、どんな氷魔法を放つつもりなのじゃ?
聞かぬが仏、というやつかもしれぬのう。
こやつに、下手に魔法を使わせてはならぬ、そんな気しかしないのじゃ……。
そんなこんなでのう。
妾たちは、露天風呂の中で、雪女談義を繰り広げておったのじゃ。
実際、冷花嬢に付き合って、寒い内風呂で冷水のシャワーを浴びておるユキ殿は、尊敬に値すると思うのじゃ。
あんな寒い空間、妾なら、絶対に逃げ出してしまうと思うじゃ……。
まぁ、さっき逃げ出したばかりじゃがの?
それも、冷花嬢が暴走したのは今回が初めてではなく、何回も繰り返しておる、という話なのじゃ。
最早、並大抵な気持ちでは付き合えぬレベルなのじゃ。
「でも、困ったね。今はお客さんがいないみたいだけど、温泉を管理してる施設の人にはバレちゃうんじゃないかなぁ?」ちらっ
「そうかもだよねー。むしろこれで、内湯が凍ってることに気づかないかもだったら、管理してる、って言わないかもだし……」ちらっ
「何じゃ主ら、その視線……」
この感じ、ルシア嬢もイブ嬢も、妾に支配魔法を使わせて、施設の者たちから記憶を消させるつもりなのじゃ……。
じゃがのう?ルシア嬢。
お主は、妾の力を当てにする前に、1つ、やらねばならぬことがあるのじゃ。
「のう、ルシア嬢?」
「何、テレサちゃん?」
「この施設におる者たちから記憶を消すのは、妾的には吝かではないのじゃ。じゃがのう、内湯で凍りついておるテラ殿を解凍して救うためのまっとうな方法を、妾は持ち合わせておらぬのじゃ。まさか、テラ殿1人のために、天変地異を起こすわけにも行かぬからのう」
「ふーん……。でも、昨日、やってたよね?天変地異」
「ぐぬっ……!」
「まぁ、それは冗談だけどね。しかたないなぁ……。冷花ちゃんたちがお風呂場から出たら、どうにかするね?そのままお風呂を温めると、熱いのが好きなユキちゃんは良いかもしれないけど、冷花ちゃん、多分、溶けるだろうし……」
「うむ。頼むのじゃ。さて……イブ嬢?主には何か出来るかのう?妾も、ルシア嬢も動くのじゃ。主だけ静観、というわけには行かぬじゃろ?」
ルシア嬢との話を終えたゆえ。
妾はルシア嬢の隣りにいた、貧相な体型をしたイブ嬢に視線を向けたのじゃ。
とは言っても、イブ嬢には、妾やルシア嬢みたいな力は無いのじゃがの?
様々な種類の魔法が出来る代わりに、一つ一つの魔法が弱っちいからのう……。
「ん?テレサ様……今、イブのこと、軽く馬鹿にしたかもだね?」
「む?そんなことは……」
「だって、読心魔法使って、確認したかもだし」
「ちょっ?!妾のぷらいばしーは?!」
「でも確かに、イブは非力かもだから、力ありきのお手伝いは出来ないかも。というわけだから、ルシアちゃんが魔法を使ってテラちゃんのことを助けてる間、イブは浴室に入って来ようとする人たちを足止めするかも!ユリア様とシルビア様とリサちゃんも手伝ってくれるかもだよね?」
「えぇ、もちろんですよ?」
「おまかせください!」
「つまり、やってきた人をサクッとヤればいいわけですね!」
と、イブ嬢の問いかけに、それぞれ首肯するユリアとシルビア、それにリサ。
情報局の精鋭3人が協力するなら、イブ嬢の出る幕は……いや、何か1人、変なのが含まれておったようじゃが……まぁ、どうにかなるじゃろう。
と、言った感じで、色々と言いたいことはあったのじゃが、妾たちは作戦を開始することにしたのじゃ。
ちなみに、その場には、狩人殿と主殿と、そしてアメもおったのじゃが、妾たちはその3人には声を掛けなかったのじゃ。
狩人殿には、いつも食事を作ってもらっておるゆえ。
主殿には、このあとでまた、車の運転手になってもらわねばならぬゆえ。
そしてアメは……役に立たぬゆえ、と言う理由での?
いや、アメが役に立たぬ、というのは冗談なのじゃ。
単にイブ嬢が声を掛けたのが、いつも面識のある身内だった、というだけなのじゃ?
ただ、それを分かってか分からずか。
3人は何処か残念そうな表情を浮かべながら、鼻から下を湯の中に沈めて、ブクブクとやっておったのじゃ。
もしかして流行っておるのかのう?
カニの真似。
…………無いの。
◇
「ふぅ、死ぬかと思ったよ。元々、生きてないけど……」
「ごめんなさいです……」
「いんや、気にしなくてもいいよ?冷花。寒いの得意だし、それに夏は電気代が下がるから、助かるからね?」
……流石は主殿の姉君。
凍らされておっても、機能を停止してなかったのじゃ。
しかも、発言の内容がどことなくワルツに似ておるのは……いや、この話はまた今度なのじゃ。
というわけで。
温泉の空気に満足した冷花嬢とユキ殿が浴室の外に出た後で、ルシア嬢が火魔法を使って、内湯の気温をガンガンと上げたのじゃ。
具体的に何度になったのかまでは、妾も分からぬが、みるみるうちに凍っていた温泉が解凍されて、再び湯に戻るくらいには高い温度になったのじゃ。
サウナくらい……かの?
まぁ、新しく供給されてくる温泉と、ボイラーから循環して戻ってくる湯の温度が高かったことも、氷が早く溶けた原因ではなかろうか。
その際は、妾もイブ嬢たちも、何かあったら対応できるようにと、持ち場についておったのじゃ。
イブ嬢たちは、脱衣所に。
そして妾は、浴室内にあった『すたっふおんりー』と書かれた扉の前で待機しておったのじゃ。
いつ人がやってきても良いように、とのう?
じゃが、結局、風呂が元通りになるまで、誰も来なかったのじゃ。
この風呂……もしや、本当に、ちゃんと管理されておらぬのではなかろうか……。
まぁ、おかげで、妾たちの手間は省けたのじゃがの?
「申し訳ありませんでした」
「いやいや、ユキ殿は謝らなくてもいいのじゃ。冷花嬢が、すでに謝っておるしのう。しかも、わざとではなかったのじゃから、主が謝る必要など、どこにもないのじゃ」
むしろ、謝られても困るのじゃ。
なんと返答してよいか、分からなくなってしまうからのう……。
それはテラ殿も同じだったみたいなのじゃ?
「ユッキー?気にしすぎだよ。あたしだって、冷花の保護者の1人なんだから、そんな一々謝んなくても、怒んないって」
「えっと……ありがとうございます」
「気にしない気にしない!」
そう言って、笑みを浮かべながら、脱衣所を出て行くテラ殿。
これで、無口な主殿の姉というのじゃから……世の中、不思議なのじゃ……。
……そんな時。
異変は起こったのじゃ。
そこにあった温泉マークの描かれた暖簾を越えたところで……テラ殿が固まってしまったのじゃ。
この感じ、何か嫌な予感が……。
すると案の定、
「……うん。テレサ?あと、お願いして良い?」
テラ殿はそう口にしながら振り返ると、屈託のない笑みを妾に向けてきたのじゃ。
テラ殿……。
この状況でも笑えるというのは、素直に凄いと思うのじゃ?
何故って……暖簾の向こう側で、この施設の従業員たちが、恐ろしいものを見た、と言わんばかりの表情を、妾たちへと向けておったのじゃからのう……。
たまには危機的展開にしようと思うのじゃ。
むしろ本編とは違って、こちらの物語は、こういう展開が多くなるかも知れぬ……。
まぁ、どの程度の頻度で危機的展開に持っていくかは、これから考えていこうと思うがの?




