2.1-07 ゆきおんなとおんせん?2
「ふえっ……ふえっ……フエックション!んあー!」ずるずる
どうして冷花嬢に話しかけるだけで、こんな散々な目に遭わねばならぬのじゃ……。
確かに、妾は簡単には風邪を引かぬ体質じゃが、冷たい水を浴びせかけられて、何も感じないわけではないのじゃぞ?ルシア嬢。
というか、比較的キレイな格好をしておるお主が問いかければ良いのじゃ……。
「良かったね?テレサちゃん。きれいになって」にっこり
「……お主、もしかして、怒っておるのじゃろうか?」
「ううん。全然怒ってないよ?別にテレサちゃんがお姉ちゃんの言いつけを破って、天気を書き換えたくらい……」ゴゴゴゴ
「完全に怒っておるではないか……」
クッ……ワルツ至上主義者は、未だ健在だったようじゃな……。
まぁ、仕方がないのじゃ。
魔法を使った妾も悪いのじゃ。
折角、泥が落ちたのじゃから、この状態で再び冷花嬢に話しかけてみることにするのじゃ?
「……えっと、冷花嬢?」
「ひぃっ?!」
……どうしてじゃろう?
余計に怖がられておる気しかしないのじゃ……。
「あの……テレサ様?」
「……何じゃ?ユキ殿」
「あの……ものすごく言いにくいのですが……今のテレサ様、私から見ても怖いのですが……」
「……えっ?」
「テレサ様って、髪がとても長いですよね?それがルシアちゃんの魔法で濡れて……なんというか……どこかのホラー映画に出てくる登場人物みたいになっているというか……」
と、苦笑を浮かべながら、冷花嬢を腕で抱えて、そんなことを口にするユキ殿。
……いやの?
確かに、妾もたまにやるのじゃ?
風呂に入って、頭からシャワーを浴びて、垂れ下がってきた髪を顔の前に持ってきて……。
「ん?何を言っておるんじゃ?ユキよ。テレサがこの姿なのは、いつものことではないか?」
「いや、ちょっ……」
「で、どうなんじゃ?冷花殿は普通に風呂に入っても、溶けるようなことは無いのかの?」
「…………」
妾が必死になって話しかけようとしておったら、先にアメに言われるこの脱力感……。
どうせ聞くなら、びしょ濡れになる前に聞いてほしかったのじゃ……。
その言葉に対してユキ殿は、少しだけ難しそうな表情を見せながら、こう言ったのじゃ。
「溶けることは無いですけど、得意というわけでもないと思います。いつもはぬるいお湯で背中を流してあげてますけど、それでも熱そうですからね……」
「それはお主自身が、いつも灼熱の熱湯を頭から浴びておるからじゃろ……。冷花嬢にかけておるというぬるま湯というのも、お主から見てのぬるま湯ではなかろうかの?」
「……えっ?」
「…………!」コクコク
妾の言葉に、冷花嬢が、目をまん丸くして、必死になって頷いておるところを見ると……もしかすると、彼女は、折檻に近いことをされておるのかも知れぬ……。
大丈夫じゃろうか……ほんの少しだけ心配なのじゃ……。
「じゃぁ、冷花ちゃんは普通にお風呂に入れるんだね?」
「…………はいです」
たったこの一言を聞くために、一体どれだけの苦行を絶えねばならぬのか……。
妾の身体は、もう、保たぬかも知れぬ……。
しかも話しかけたの、ルシア嬢じゃし……。
というわけで、さっさと温泉施設の中へと入っていってしまった主殿たちやユリアたちの後を追いかけて、妾たちも追いかけることにしたのじゃ。
下駄箱にぐっしょりと濡れた靴を仕舞うのが、すごく苦痛なのじゃが……帰りもこの靴を使わねばならぬのじゃろうか……。
いっその事、素足で帰ろうかのう……。
まぁ、そんなことはさておいて。
この温泉施設は、入り口を入ったところにある発券機で券を購入して、それを受付で渡して、その奥にある脱衣所へ入る、という形式なのじゃ。
この点は以前行った温泉と同じなのじゃ?
じゃから、必ず人目につく故……
「仕方ないのう……。ここは妾の魔法の出番なのじゃ!」
尻尾や獣耳が生えておるルシア嬢やアメ、そして妾自身のことを、普通の人間のように見せるのが、妾の大切な仕事なのじゃ。
温泉に入るためなら、例えワルツに魔法の使用を止められておっても、手段は選ばないのじゃ?
ちなみに、有翼人種の(元)情報局員たちは、局長のユリアがおる故、幻影魔法で姿を誤魔化しておるのじゃ?
いつも3人は、まとまって行動しておる故、ユリア一人がいれば事足りる、というわけなのじゃ。
それにしてものう……。
妾の支配魔法というのは、非常に使い勝手の悪い魔法なのじゃ。
大小に関係ないものの、1日に3回しか使えない上、出来ることとできないことがあって……更には、魔法を使った後で、元に戻さねば、大変なことになるという残念な仕様なのじゃ。
昨日の天候操作の件が良い例なのじゃが、天候を操作したままで放置しておくと、その内、世界が干乾びて滅びてしまう……そういうわけなのじゃ?
じゃから支配魔法の場合は、必ず2回分の魔力が消費されてしまう故、ここでは、ずっと下位の魔法の変身魔法を使うのじゃ。
それでも、尻尾が1本消費されて、その上、時間経過で効果が無くなってしまうのじゃが……尻尾がいっぺんに2本無くなってしまって、もしもの時に何もできなくなるよりは、幾分マシじゃろう。
「……どうしたの?テレサちゃん。そんな、一人でウンウン頷いて……。誰かに見られる前に、早く魔法を掛けてよ?」
「う、うむ……。それでは行くのじゃ?……イブ嬢。もっとこっちに寄るのじゃ!」
「……なんか怪しいことされる気がするかもなんだけど?」
そう言えば、イブ嬢に変身魔法を掛けるのは、これが初めてだったかも知れぬのう……。
言い換えれば、嬢と温泉に来るのは初めて、ということになるのじゃが……こやつ、温泉の入り方を知っておるのじゃろうか?
まぁ、ユキ殿もいる故、教えてもらえるじゃろう。
というか、ユキ殿も、温泉に入ったことあるのじゃろうか……。
……もうこうなったら、後は……狩人殿!頼んだのじゃ!
「……ん?」
「ほら、早く、テレサちゃん!狩人さんの顔なんか睨んでないで……」
「う、うむ。……ほれ」ブゥン
その瞬間、妾たちの獣耳は虚空へと消え、そして尻尾も空気に溶けるように消えたのじゃ。
まぁ、妾の尻尾の内1本は、本当にこの世から消え去ったのじゃがのう……。
すると、なのじゃ。
「……?!」びくぅ
……どういうわけか、イブ嬢が頭とお尻に手を当てて、踊り始めたのじゃ……。
いや、正しくは踊っておるわけではなく、急に感覚の無くなった獣耳と尻尾のことが、気になって仕方ないのじゃろう。
「も、もげたかも?!」
「いや、お主、何を言っておるのじゃ?温泉に入る時、獣耳と尻尾があると、人目が気になるから、妾が一時的に消すと言ったじゃろう……」
と妾が説明しておるのに、床に視線を向けて、自分の獣耳と尻尾が落ちておらぬか探すイブ嬢。
もしかすると、嬢にとっては、無ければ困るほどに大切なものだったのかも知れぬのう……。
……と思っておったのじゃが、そういうわけではなかったようじゃ。
「よっし!これで、普通の女の子に見えないかもだね〜!やっふー!」
『…………』
どうやら獣耳と尻尾の存在に、こんぷれっくすを持っておったようじゃの……。
そして、皆が入浴券を買って、それを一斉にカウンターに置いたのじゃ。
その際、アメと冷花嬢が、慌てたように皆と同時に券をおいておったのは何故じゃろうか……。
まぁ、良いか。
そういうこともあるじゃろう。
それで、屋根の高い木造の建物に入って、右手の一番奥の部屋へと妾たちは歩いていったのじゃ。
そこが脱衣所……すなわち、びしょ濡れの妾が、このしっとりとして肌に張り付いてくる服と決別するための、大切な空間なのじゃ。
ガラガラ……
そこには……平日の昼間ということもあって、幸いなことに、人はおらんかったのじゃ。
まったくの無人じゃったところから推測するに、どうやら、主殿たちは、先に浴場へと入っていったようじゃのう。
妾がそんなことを考えておると……
「ねぇ、テレサ様?これどうやって使うものかもなの?」
と、どこからどう見ても、金髪癖毛の普通の少女にしか見えないイブ嬢が、鍵付きロッカーの鍵をグリグリと回しながら、妾に問いかけてきたのじゃ。
「それはのう……中に服や着替え、それにカバンを置いて、鍵をかけて仕舞うためのロッカーなのじゃ。お主、王城でも、妾たちの部屋にあったクローゼットを使っておったじゃろう?それと同じなのじゃ」
「でもこの鍵、取れないかもだよ?」
「……扉を閉じて捻れば取れるのじゃ」
ボコン!
「……ほ、本当だ!」
「そ、そうではないのじゃ……。どうやら壊れておったようじゃのう……」
まぁ、長いこと使われておるロッカーじゃと、たまに鍵のシリンダーごと抜けたり、鍵を開けるのにコツが必要だったりするのじゃ。
妾も、何回か経験があるのじゃ?
そう言うときは、鍵穴からシリコングリスを流し込m……おっと。
話が脱線してしまいそうなのじゃ。
「壊れたものはとりあえず元に戻しておくのじゃ。帰りにちゃんと店員に知らせておくのじゃぞ?」
「うん……」
「気にしなくても良いのじゃ、イブ嬢。別に、お主が悪いわけではないのじゃ?これがロッカーの鍵の寿命だったのじゃろう」
「うん……そうかもだね……」
「……随分と暗いのう?」
「実はさ……早くおっきなお風呂に行きたいと思ってたら……テンション下がってきたかもなんだー……」
「…………」
……うむ。
その気持ち分からんでもないのじゃ。
じゃがのう……そこのスライドドアを開けて、一步向こうに踏み出せば……そこは極楽の境地。
最早、テンションがどうこうという問題ではないのじゃ!
「ほれ、早く着替えて、主殿たちを追いかけるのじゃ?テラ殿もイブ嬢のことを待っておるじゃろうて?」
「……うん!」
すぽぽーん!
そして、速やかに脱衣を済ませる妾とイブ嬢。
ホント、こういうときほど、身体に凹凸がなくてよかったと思うことは無いのじゃ。
あ、あれ?なんでじゃろう……。
眼から急に液体が零れて……。
エタらせぬ……。
エタらせぬのじゃ……!
妾のこの眼が青い内は、途中で投げ出すなどということは絶対にせぬのじゃ……!
……とは言っても、本編の方が最優先ゆえ、中々書く時間は無いのじゃがの?
今回の話は、特に妾の支配魔法についての方向修正を目的として書いたのじゃ。
あまりに万能すぎると、ルシア嬢ほか数名に申し訳が立たぬからのう。
それに、ここで書くのもどうかと思うのじゃが……妾の武器は、支配魔法だけでは無いからのう。
まぁ、その話については、その内、明らかになっていくじゃろう。
……戦闘回があるかどうかも分からぬがの。
というわけで、気付いたら、こちらの話を書かなすぎて、本編とサイドストーリーとで、季節が反転してしまったのじゃ。
じゃから、ちょうどいい機会じゃし、これからは180度反転した季節として、サイドストーリーを書いていこうと思うのじゃ。
冬は好きじゃが、夏は夏でネタがあるからのう。
さて……。
今日の駄文はこの辺でお開きにしておこうと思うのじゃ。
実はこの話を再び書き始められるようになった確固たる理由があるのじゃが……それは次回のあとがきで語るとしようかのう。
……妾が覚えておったら、じゃがの?




